僕は拾った子犬(シロ)と19年過ごした。
無邪気に好意100%でじゃれついてくるシロは好きだった。
しかし、拾った時……野良歴半年のせいで脱走して心配させたり、預かった銀行印をガリガリやって使えなくした時のシロは憎たらしかった。
迷惑かけること……『それもシロ』だから彼女(シロは雌だった)全部を引き受けて愛するしかなかった。
彼女が死んでから思い出すのは彼女が引き起こした様々のトラブルばかり……。
しかしそのトラブルの様々のシーンが、とても深い味わいのあるニュアンスとして脳裏に甦るのである。
良いとこ悪いとこ含めて『ソレも、コレも彼女』だったのである。ソレとコレが相まって彼女でなければあり得ない胸苦しい思い出となっている。
今の自分が好きな自分は自分の一部であって『不完全な自分』なのである。
甘いだけのスイーツの様なものであり、味わいも深さもない通り一編の人間。
そんな生き方は……良いとこばかり世間に見せて使っているのにやたら虚しい気分に支配される。
何故?何故?何故?……ソコから『自分は始まる』のである。
何故?詰まらない気分?憂鬱な不全感?……という『自分への興味と関心』が起動されるのである。
自己嫌悪って奴だけど……ソレが自分の希望への兆しなのだと思う。
シロの事を愛する為に、彼女が巻き起こす『トラブル』を処理し受け入れるのに、恐ろしく忍耐が必要だった。
何故?コヤツは僕に迷惑ばかりで返すのか?……なんて本気で嫌にもなった。
散歩中、嫁さんの隙を見て、すれ違い様に老人の足を噛んだ時……ひどく哀しかった。老人が家に怒鳴り込んで来て、直ぐ医者に連れて行った。
流石に彼女も事態はのめたんだろう。
下がり目になって僕の横に座り、上目遣いで僕をずっと見上げてた。
やっと気を取り直して『お前を守るよ、心配すんな!』と言いながら……弁護士って高いんだろうなぁ。 保健所から殺処分命令が出たら?……何処に匿おうか?誰に頼もうか?……etc.様々思いが駆け巡った。
彼女の視線が僕を鍛えてくれた。
平身低頭し言われたい放題の場面を謝罪100%でで通せた。
お医者さんもとても良い人。心配するな!と老人を説得してくれた。結果的には老人もとても良い人だった。
そのトラブルはシロの存在が唯一無二のかけがえのないものだと僕に教え、僕はその後の人生で、逆境に凄く粘り強くなれたのだった。
エエカッコしいの自分の弱さがその時見えた。
『頼んますよぉ~』と心細そうな彼女の視線のお陰で……トラブルにはからきし
弱い自分の意気地なさと向き合えた。
その日の夜……扉を開けると千切れんばかりにシッポをふる彼女。
おバカな彼女と意気地なしの自分の1日の顛末に笑いが込み上げてきた。
臆病者の自分の緊張感が医者に伝わり、彼は大いに同情してくれたんだと思った。その医者が老人に善意で語ってくれ、老人にも伝わった一連の流れ。
『自分の臆病』は良くも悪くもない。
その臆病の使い方なのだ!と学んだ。
目的に一生懸命、一心不乱となった時の自分の臆病は人から共感して貰えるモノだったのである!
自分を愛する?……その為には先ず、中途半端な自己嫌悪を止めて、トコトン正視してみる事である。
それが『自分への興味・関心』の端緒となる。
僕はその事件当時……自己嫌悪真っ最中だった。
『シロ噛み付き事件』は僕に自分の臆病を理解し愛させる為の『シンクロニシティの一貫』として起こったのかも知れない?……と思っている。
今、僕の臆病は……とても素晴らしく進化して、尋常ではない『緻密さと繊細さ』となり僕を大いに助けてくれている。
人へも自分にもユックリ取り組む事だと思う。
自分を愛する?ってのはコンサルが言うほど簡単じゃない。
今、自己嫌悪がある?
それならば絶対自分を愛するようになる❗という予兆なのだと確信して欲しい。
あのおバカなシロ……彼女もまた僕に様々を教える為に、やって来た大きな『シンクロニシティ』だったのである。
自分を愛する!という行為には特効薬はない。『自分に興味を持つ事』が始まりなのである。
それには『自己嫌悪はとても有望な治療薬』となる。
だって何より……自己嫌悪は何の努力もせず手に入るからである……。