それはメンタルが成長したのかも知れないし、その事に鈍感になってしまうのかも知れない……。
生きていれば新しい時間に、また新しい事件が起こり、何個も激した感情をそのまま保存しかねるのだろう……。
どんな悲嘆や絶望でさえ必ず収まりが着く様になっている……。
そうやって渦巻いていた激情が収まっていく中で、その原因たる自分のメンタル具合が解明されていく事も安定剤として働くのだろう。
それは嫉妬であったり虚栄心だったり僻みであったり失意であったりの感情の様々が、ハッキリ把握出来るようになる。
そこまで記憶の解明が進むと同時にそのリアルな記憶は風化し始め、時の魔法によってほんのヒトコマの情景描写の様に呆気ないものに書き換えられていく。
✳……ため息で回した 一つの風車 止まらずに止まらずに回れと二人祈ってたのに……
……僕の肩越しに 子供の花火を見詰め
君は小さく呟いた 消えない花火があるなら欲しいと……✳
グレープ 『ほおずき』の一節である。
何処からともなく訪れた別離の予感が、止まらずに回れという二人の祈りや消えない花火というフレーズに散りばめられている。
お互いに原因無くとも、時の流れが別れに誘導していく事だってある青春の一時期……。
彼はそのお祭りに一人で出掛け……想い出とほおずき一つ拾うのである。
その青春の心の疼きさえ……ひと歳取れば甘美な思い出に変わっていく……。
人は皆……自分お抱えの歴史家になっていく。
その自分史は、実際の史実に忠実なモノではなく、日々自己都合によって書き換えられていくのである……。
その頃になると記憶の中に『取り付く島』とか『立つ瀬』とか『千切れない藁』やらが様々に用意され『私の履歴書』は安心のページで埋め尽くされるのである。