サンチョパンサの憂鬱

一冊の本の効用

どんな本を読んだら良いですか?
そこまでは、少し自分について考え始めた人は思い立つ。

それが若い女なら……僕は大抵『ボヴァリー夫人』を薦める。

先ず最初の三十ページ超、嫌になる位面倒くさい記述が続く。
凡庸なムッシュボヴァリーの少年期の様子がこれでもか!という調子でタラタラと……。

一念発起も思い付き程度の女はそこで折れる。それで良いと思う。誰もが読書家になる必要はないから……。
理屈抜きに読み抜きなさいとアドバイスして放置するのである。

顔は一級品だけど、知性とかキャラクターセンスは何一つ刺激なくここまでを生きて来た?いわゆる平凡な女。

そんな人が私はやって見ると言った。
半年も前の事だった。それから何度か店に来たけれど店が忙しくそんな話はしなかった。

今日、夕方前の時間に一人でふらっと現れた。

私……読み切りましたボヴァリー夫人と言うではないか?
言われた通り、最初のタラタラ部分に1ヶ月掛かりました……と。

そこからは引き込まれした。
自分が段々ボヴァリー夫人になっていく感覚が新鮮でした……と。

不思議なのは……その一冊を読み終えたからなのか?分からないけれど、雰囲気がガラリと変わっていた。

目の前の男をボヴァリー夫人になって見て……彼女はどう感じるか?と考えたら『無いな!』と直ぐ結論が出るんですよね?……と彼女は言った。

それが意志を持つ女の反応なんだと僕は言った。下手な気遣いなんかなく、自分の基準で見たら中途半端がなくなるのだと……。

化けた!と思った。女にはこれがある。何かの触媒で大きな変化を呼ぶ事がある。勿論、素養は必要だけど。
元々美しい顔に筋金が入ったと思った。

話してる間、彼女は一度も視線を外さずこっちを見据えてハッキリ言葉を発した。もう小娘じゃないな?と思った。
何か気高ささえ漂う様な風情に少し気圧される様な感じを受けたのだった。

ボヴァリー夫人はどんなワインを呑むだろう?……一見物静かな立ち居振舞いの下に秘められた含蓄のある深い欲望が匂い立ってくる……そんなローザンセグラ辺りかな?……と彼女を見ながらそんな事を思った。
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