考え過ぎて何時もトンデモナイ不義理をしたり自己嫌悪のもとを仕込む『分かり難いキャラ』の男である。
あれから十年ですと彼は言った。相変わらず抜群のビジュアル、イケメンに衰えの気配はない。
彼が隣のテーブルに着いた途端……先客のご婦人方グループのオーダーは俄然活気を帯びる……。
才能の威力である。ルッキズムに批判あれど『事実として…』美は大きな才能なのだと改めて思った。
しかし、女を惹き付ける才能豊かな何人もの若い男達が……彼位の年齢から『女への通用力』が徐々に衰え……四十代を迎える頃にはイケてない凡人の男に成り下がっていった例を沢山見てきた……。
マネキンは何時までも変わらない。しかし人間はそうは行かない…。体型、肌や表情の張り、などなどフィジカルは良くも悪くも時間を刻み続けるからである。
美を誇り、『ソコに居るだけで』ビジュアルの威力で異性を魅了し惹き付ける才能は女性の場合も同様に必ず衰える。経験則で言えば男よりその兆候は5年程度早くに訪れる……。勿論個人差はあると申し上げておきます。
そんな話になった。不思議とアルバイト時代にあなたに叱られたことが今も一番残っている……と彼は言った。カルチャーショックだったと。
ソロソロその記録更新しなきゃね?と僕は言った。十年分の成長をしてればその証として『ソレを超えるNO!』を言ってくれる誰かに出会える筈だから……と。
生来の才能は諸刃の剣である。
天性の美は『何もしなくても称賛が集まる』…しかし時の流れと共に、『何もしない、考えなかったこと』が俗にいう『ツルンとした間抜け面』に変えていくのである……。
フツメン、ブサメンの男はイケメンに比して恵まれない若く苦い時間を『何故だ???』と『悔しい!!』を一杯背負って苦悩し続けるのである。絶えず自分は『どうすれば?対抗できるのか?』……と。
歳を経ると共に、顔面に浮かび始める小さなシワとか?少しシャープさが削られたフィジカルまでがそんな恵まれなかった男達に『思慮深さ』とか『経験豊富な雰囲気』として貢献し始めるのである。
加えて……数多くの失敗談から醸し出されるメンタルの安心感とか?懐の深さとか?……が魅力として表面化し始めるのである。
『今後僕のテーマは?』と彼が言う。
ソロソロ『自分という人間の汚さ』に気付き強く認識していく時期かもね?……と僕は言った。
放置してもモノを言うビジュアルの才能、自分の『良いところばかり前面』に出して人付き合いをした結果が今の君。
決定的に足りない何か?を薄々感じているんだろう?……コクンと彼は頷いた。
その答えと解決策が『君の人間的汚さの認知』なんだと思う。ソレを知って受け入れたらホンモノの自信が得られる。
目を逸らしたくなるけれど、でもそれ嘘偽りの無い事実なんだから自分を許すしかない。結果として他者も同様に許し受け入れる力が得られると思う……自分の恥ずかしい体験を含め僕は言った。
要するに生き続けていれば絶えず『自分に足りない何か?』という栄誉失調状態が発生し続ける。その栄養……実は自分が目を背けて隠してる『汚さとか?欠点』の中にしか無いということなのである。
だってね?必死こいて人は頼まれもしないのに『自分のキレイと長所ばかり』強調し見せて今の自分という結果を作っている。
ソレが大したモノになってない以上、改善策は『未開拓の自分の悪徳の中』にしか無いのは自明の理、確かなことのだから……と僕は言い加えた……。
今の君のコミュニケーションの相手は、恐らく息苦しい思いをしていると思う。だって君が自分の汚さを隠しご立派人間で話す以上……相手もまた必死で自分の汚さを『隠さなきゃならない』から……。
もう、分かるでしょ?……どんな問題もお互いの狡さとか汚さに触れて忌憚なく話さなきゃ?有効な解決策は見出だせないことくらいは……。
キレイとご立派だけで進められる話は若い内の人生の予行演習に過ぎなかったと?そう、自分に言い聞かせてから取り組んだら良いと思う。
ソレから彼は……しこたま呑んだ……。
何やらブツブツ独り言を言い、小刻みに頷きながら『また来ます!』と帰っていった。
良い兆候だと思った。
ソレが、アルバイト時代、僕の苦言が功を奏した時の彼の反応だったからである。