サンチョパンサの憂鬱

シアンクレールの壁……(8)死して現役の情熱を放つ

高野悦子さんが生きた時代への興味と彼女が刻んだ20年と5カ月の命あった日々への憧憬の念は尽きない……けれど。

思い立ったが吉日と……怒涛の連載となった。
永らく頭の中に貼り付いて離れなかったあの熱き時代の情景を少しばかりは書き表せたと自己満し始めている……。

徳永英明が唄った『壊れかけのラジオ』がリアルタイムの時代……。
背伸びした少女が初めて入ったジャズ喫茶シアンクレールと彼女の熱情は切り離せない関係でリンクしている。

恐々と覗いた店内で彼女が初めて聞いたジャズは何を語りかけたのだろう?……。

アダムとイブに罠を仕掛けたヘビの様に……彼女を狡猾に唆(そそのか)したのに違いない。

『駆け抜けた』と表現するするしかない二年と二ヶ月の短くとても大きい比重を有する時間……。
猛る濃密な激情と突き放され酸欠状態の様な孤独と挫折が織り成した高野悦子の二十歳の青春だった。

髪を伸ばし下手なギターを誤魔化し誤魔化し弾きながら女の娘を追いかけ回してる間にも……ふとした一人きりの瞬間に『あなたは自分に嘘をついてる』……と囁きかけて来た一冊。

彼女が掲げた思想は頭でっかちの急ごしらえの稚拙なモノだったかもしれない。
しかし、彼女が自分と社会に突きつけ問いかけた情熱は本物だったのである。

だから……高野悦子と『二十歳の原点』という響きは未だに……新鮮な憧憬をもって僕の心を引っ掻き回す。そして僕を酷く狼狽させるのである。

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