西加奈子氏の作品は映画化された「まくこ」から知り、でもそれほど身近には感じずにいたけれど。
図書館で目が止まったこの作品、タイトルが「通天閣」ってどんな話なんだろうと。
読んでみてぐいぐい惹きつけられた。
登場人物は40代とおぼしき男。独身でアパート暮らしをしながらの工場勤め、人付き合いが苦手で、仕事以外の日は通天閣近くのアパートから至近距離のコンビニと中華食堂、銭湯しか行かない。
人生に夢はおろか、目標も希望もないけれど、それなりに粛々と生きている。アパートの住人や行きつけの場所での顔見知りと仲良くなる気は全くない。
若い頃に同棲していた女性を思い出し、幼い連子に父親らしい事ができず関係を終わらせた事へ漠然とした痛みを抱えている。
そしてもう一人の主人公、20代とおぼしき女の子は、同棲していた彼氏が突然留学目的で渡米し心が折れるが、いつか戻ってくれると信じて、けなげに水商売をしながら待ち続けるが、結局ふられてしまい深い喪失感を味わっていた。
この痛みを抱えた二人の語りで交互の物語が繰り広げられる。
実はとても深い繋がりのある二人が通天閣での事件で同じ場所に遭遇するが、認識しても触れ合うことはない。
そのエピソードを「あっ」と驚く描写で描く西加奈子って天才だなと感じてしまう。さりげなく、そっけなく、だのにすごく温かい。
漂うように日々流されて、振り返る余裕もなく淡々と生きる人々への贈り物になる作品ですね。
通天閣、また登ってみたくなりました。