川っぺりムコリッタ
北陸地方のイカの塩辛工場での仕事に就いた山田が、出会った人たちとの関わるうちに、心の奥に潜んでいた自分の気持ちに気づく。
心地よい読後感の残る作品。
山田が「僕は、まだ、大切なものを失ってはいないと思う」と感じる場面や九九の七の段を逆さまから唱えて自分を励ます場面が印象的。
母が家を出てから場面緘黙になった溝口の息子:洋一がピアニカで返事をしたり気持ちを伝えたりする姿に心が痛んだ。
“せつな たいせつな ろうはく むこりった”仏典に記載の時間の単位。
ずっと一人きりだった青年は、川沿いの古いアパートで、へんてこな仲間たちに出会う。
友達でも家族でもない、でも、孤独ではない。
“ひとり”が当たり前になった時代に、静かに寄り添って生き抜く彼らの物語。
山田が「川べり」にこだわるのはなぜなのか。
「おまえとはもうこれで終わりだよ」と高校生のときに母から捨てられた山田が
“川べりの暮らしがしたい”と思った理由が読み取れなかったり、
話がどんな方向に転がっていくかがなかなか見えてこなかったりで、前半は気詰まりな気分で読んだ。
強引な隣人島田、工場のベテラン中島さんや社長を通して周囲の人と関わり始める山田。
家賃半年滞納の南父子がすきやきを食べているところへ、アパートの住人が茶碗と箸を手に乱入した日が面白かった。
イカの加工工場のベテラン中島さん。口調は厳しいが、山田に丁寧に仕事を教えてくれる。
余計なことは言わず、イライラせず見てくれる。
まちがったときだけ、きっちり注意する人。社長やこの人にも救われた。
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