Mr. Roth
翻訳:polo181
私たち姉妹は姉の転地療法のために、郊外の平屋に引っ越してきてまだ間がない頃でした。そんなある日、玄関ではなく勝手口のドアーをノックする人がいました。私たちは用心深く鎖を掛けたまま数センチだけ開けました。そこには、ボロをまとった老人がしなびた野菜をカゴに入れて立っていました。日焼けして顔は黒光りしていて、髭も髪の毛も真っ白で、額には深い皺が刻まれていました。また目は白濁しているので、アル中患者を連想させるのでした。意外にも彼は朝のご挨拶をきちっと済ませてから、野菜を買ってくださいと頼みました。私たちは一瞬躊躇をしたけれど、恐怖と哀れみの情の両方を和らげるために買ってあげることにしました。
彼は次の週もあのカゴを担いでやってきました。正直なところうんざりしていました。でも彼はけじめ正しくご挨拶をして、道路を下ったところにある農地に小屋を建てて住んでいて、名はRothだと自己紹介をしました。私たちは外に出て、今度は良く観察したところ、彼の目の白濁はアルコール中毒者のものではなく老人性の白内障であることが分かりました。次の週もやってきました。かれの身なりは相変わらずで、両足とも右用の靴を履いてノソノソと歩いてくるのでした。陽気な彼はハーモニカを取りだしてお礼だと称して嬉しそうな顔をして、ゴスペルを一曲吹いてから去って行くのでした。
そんなある日のこと、彼は大きな声でやや興奮気味に喋り始めました。「やっぱり神様はいなさる。今朝外に出てみると、たまげたなゃ。大きな袋に綺麗な服や靴が一杯入っているのよ!」と彼は両手を大きく広げてその贈り物の大きさを示しました。私達は「それは、良かったわね。おめでとう!」と言いました。すると彼は、「たまげたのは、そればかりじゃないのさ!分かる?村の衆に知らせたら、それら全部が他の人たちにピッタリだったのよぉ。みんな喜んで持って帰っただ」と濁った目を見開いて言った。
せっかく贈った服や靴を村人に全て与えてしまったのですから。
贈り主の妹の前で嬉しそうに話す老人の靴は両足とも右のままだったのでしょうね。
う~んなんと清々しい話なんでしょう。
心優しい妹と、素晴らしい老人Rothに乾杯
今の世の中は、己の姿を売り出すことに夢中です。こうした何気ない無償の行為が、如何に必要なことかを知らしめるための好例だと思います。
神の存在は分かりませんが、この姉妹の行為は神に優る、尊くて美しいものだと信じます。
文意が通じてとても嬉しいです。