スケッチブック

写真と文章で、日常を記録に残す

ショートショート 10

2005-09-16 12:15:08 | Short shorts
ただの一言だって信じない

原作:Howard Hendricks
翻訳:polo181


私は、小学校5年生までは、人生に怒りを感じ誰からも愛されていないと思っていた。別の言葉で言えば自分の居場所を全部破壊したいと思っていた。環境になじめない悪ガキだったのかもしれない。そんな中で、私の先生であったミス・サイモンさんは私を自らの現状を認識できない遅れた生徒と見なして、口癖のように私をこう表現した。「ハワード君、あなたはこの学校で最も行儀の悪い子だわ」と。その言葉を聞く度に「それじゃ、何が問題なのか教えてください」と心で思ったものだった。その言葉を聞く度にびくびくするのだった。

云う必要もないことだろうが、この5年生が私の人生で最悪の時期だった。しかし時が過ぎて私は6年生に進級した。でも、私の耳の中ではサイモン先生の言葉が鳴り続けていた。「ハワード君、あなたはこの学校で最も行儀の悪い子だわ」とね。

ご想像下さい。6年生に進級するのがどれほど心の重いことだったかを。新学期の最初の日に、ミス・ノエ先生が出席簿を読み上げ始めました。私の名前が呼ばれるまでずいぶんと長いと感じていました。「ハワード・ヘンドリックス君!」と読み上げて、両手で顎を支えている私をチラリと見て、こう付け加えました。「私はあなたについてはいろいろ聞かされていますよ」、ちらりと見て微笑みながら「でも、私はそれらの一言だって信じないわよ!」

正直いって、この一瞬が私にとって決定的な転機となりました。勉強のみならず人生そのものの転換点でした。突然なんの前触れもなく、誰かが私を信じてくれる!生まれて初めて私の中に可能性を認めてくれたのだ。ノエ先生は私に特別な役目を与えたり、小さな仕事を任せたりしてくれるようになりました。放課後の特別授業に私を呼びつけて朗読や算数を教えてくれるようになりました。彼女は徐々にハードルを上げて行きました。

私は彼女が出す課題に全力を注ぐようになりました。実際、彼女が出した宿題に没頭して午前1時半を過ぎても机に座っていることすら珍しくなくなりました。父が降りてきて、「ハワード、どうしたの。具合でも悪いのか?」と聞くのでした。一体全体、5年生と6年生との間にどのような違いがあるというのか。ノエ先生のたった一言が私をして「この人の名誉を傷つけてはならない」と思わしめたのでした。



これにて、翻訳物はしばらくお休みします。

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11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
褒めてこそ伸びる (anikobe)
2005-09-16 18:15:29


子供は10叱るより、1褒める方が伸びるものであることは、ノエ先生の教育でもはっきりしていますね。

一人一人の人権を大切にしてこそ、それらの子供たちが、認められたことに自信を持ってやる気を起こし、伸びていくもの・・・
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心の扉 (あまもり)
2005-09-16 19:03:04
「ただの一言だって信じない」

キーワードでしたね、タイトルが。

「信じる」ではなく「信じない」をタイトルにして、やっぱりありましたどんでん返し。

このショートショートの本は言葉を巧みに使って人の心の綾を表現し、なおかつ印象的な言葉で結んでいる。

poloさんの分かり易い翻訳で大いに楽しませてもらっています。

えっ?しばらくお休みなんですか。ザンネン

楽しみにしています。また復活させてくださいね。

(翻訳にたいへんな時間を要するのに勝手ですね)
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anikobeさん、こんばんは (polo181)
2005-09-16 20:56:24
コメントを有難う。大学に入るまでは往々にして先生が嫌いだとその先生の科目が嫌いになりますね。それがきっかけになって、勉強全体が嫌いになるケースが多い。だから、文部省は、あるいは教育委員会は子供に好かれることを教員登用の条件にすればいい。今のままだと、運の良い子は伸びるがそうでない子は落ちることになりはしないだろうか。
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何気ない一言 (じゃこしかです)
2005-09-16 21:01:44
 poloさん今晩は。

実に良い話ですね。人を活かのも、また駄目にするのも、何気なく口にする一言なのも知れません。そしてanikobeさんの仰るとおりで、褒めることと無条件に信じる事が大切なのでしょう。
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あまもりさん、こんばんは (polo181)
2005-09-16 21:09:40
コメントを有難う。ノエ先生が新学期の初対面で、この少年の心を掴んでいます。それは誰が何と言っても私は信じませんよとうち消すことで未来への希望を持たせています。5,6年生は感受性が非常に強い時期ですから、加えてクラス全員の前で公言していますから、この言葉は大きな力を持ちました。しかも言葉だけではなく、着々と実行して行きますね。このような先生が大勢居てくれると、どれだけ多くの子供が救われることでしょうか。先生という職業はとても大切だなと思いました。
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昔、、 (熊子)
2005-09-16 21:19:04
いい子の神話って言葉が流行りました。親や教師の言うことを素直に聞き、行動する。しかし、その心は屈折していた。子が大きくなるにつけ、家庭内暴力になっていった。子供の大事な成長過程には反抗期がある。この反抗期を押さえつけていくと、いい子の神話になる。子育て最中に何度も読みました。そして、誉めて育てる、叱らない教育。しかし、全ては子に屈折した心を産む。要は子供の成長過程に会わせた接し方が大事と知りました。誉めるのも叱るのも大事な社会の一環。その子の成長に会った接し方、難しいが、わが身に振り返ったときに、どうしてほしかったかを親も教師も思い出しながら、人格を尊重していく。こう繰り返して世界は流れているはずなのに、幾度も繰り返し教えられますね。中学時代にね、担任が絶対に男子を叱らない先生であり、その代わりに女子には厳しかったの。成人してクラス会で飲む年代になったときにね、先生から真相を聞き出した。男子は人前で叱ってはならない、自信を無くすから、その代わり女子は人前で叱ると俄然頑張る、これが真相だと。今にして思えばなるほどと納得でした。ですから、我が子は男子、影では厳しく叱っても、人前までは、優しいお母さんを演じています(笑)。勿論、夫にも、、あは!
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じゃこしかさん、こんばんは (polo181)
2005-09-16 21:22:02
コメントを有難う。そうですね。私たちが日々何気なく話す言葉で相手を傷つけたり、がっかりさせたりしているのでしょう。きっとノエ先生は心の奥底に先生としての心構えがしっかりと備わっていたのだと思います。だから、悪ガキだったかも知れないハワード少年の心を掴むことが出来たのだと思います。その意味で多くの経験を積んできた私たち老年は行く先々で責任が重いのだと思います。
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熊子さん、こんばんは (polo181)
2005-09-16 21:34:27
コメントを有難う。熊子さんは2人の息子さんを立派に育てて居られるから、誉め上手なのでしょう。ノエ先生もきっとハワード君を人前では誉めておいて、個人授業のところでは、いろいろとやんわり諫めたのでしょう。だからこそ深夜まで宿題を続けたのだと思います。子供は野放しでは駄目ですね。叱るべきときはきっぱり叱る必要があります。しかし相手の自尊心を傷つける叱り方は成功しません。理を説いて優しく言って聞かせるようにすれば、子供達は付いてくることでしょう。
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バークレーを心配してくれた皆さんへ (polo181)
2005-09-16 22:03:38
今日は涼しくてとても気分が良かったのだけれど、抜糸まもないのに連れて出ては駄目だと妻の必死の抵抗に合って、散歩は実現できませんでした。考えてみると、私と一緒に行くと彼は四つ足で地面を引っ掻きまわします。その時に大量の砂埃を巻き上げてお腹にかかります。ですから、もしもばい菌でも付いて化膿してきたら困るので、散歩はあともう少し傷口がしっかりしてからにします。熊子さん、約束を守らずにごめんね。その代わり、美味しい牛肉の缶詰を上げました。笑
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おはようございます (熊子)
2005-09-17 08:35:28
全国のポロさまファン・バー君応援団は、もう少しで楽しく外に出向く姿を心待ちしています。DrのOKの元、一日も早く実現できたらと、願っています。バー君、我慢しようね。
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