ー ハンコ 代 ー
田舎に来て、初めて「ハンコ代」ということばを聞いた。
印鑑の代金ではない。相続人が相続を放棄してくれた他の相続人に対して提供するお金や品物を指すらしい。俗語である。よその土地でも同じように言うかは知らない。
例えば、農家の場合、当主が亡くなると奥さんや子供は相続を放棄して長男だけがが田や畑を相続することがよくある。長男がなにやら書類を持って訪ねて来て、ハンコを押してくれと頼む。遠方にいる兄弟姉妹には委任状を送ってよこすこともある。
この放棄のお返しというか、代償として長男が提供するお金や品物をハンコ代という。ついでながら、放棄をしないことを「ハンコを押さない」という。
ハンコ代がいくらになるかはさまざまである。単純に考えると、放棄する遺産が大きいとハンコ代もかさむだろうし、広いお屋敷や何十町歩という田んぼがあったとしても、遺産の中に現金がなければハンコ代はゼロかもしれない。
周囲で耳にしたケースは二つある。一つが現金100万円で、もうひとつは “ ケーキ10個 ” だった。100万円の方はその後なんにも言わないが、ケーキ10個はことあるごとに文句を言っている。
これも聞いた話であるが、遺産の総額を教えてもらう場合と全く教えてもらえない場合があるようだ。
話は少しそれるが、先日、「女系家族」というテレビドラマを見た。老舗の遺産をめぐる姉妹3人に愛人を加えた相続争い。放映前、新聞は「寺島しのぶ 壮絶に演じる人間の本性」と書いていた。寺島は、「演じるのはつらかった」と洩らしたらしい(2021.11.28産経新聞 クリップ週刊TVガイド)。
もし莫大な遺産を遺すことができたら、閻魔さまの前に行くのをちょっと先に延ばして、雲の端から下の騒動を眺めてみたい。悪趣味である。
( 次回は ー クスリ嫌い ー )