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田舎ぐらし(10)

                                        ― おひとり様 その1 ー


 耕耘機のエンジンオイルを交換することにした。
あらかじめ買っておいた30番のオイルと工具箱から出した12ミリのスパナを耕耘機の脇に置くと家内を呼んだ。

 作業は家内にやってもらうつもり。オイル交換のことは既に言ってある。こういうのは大抵男がやることになっている。

     しかし、おひとり様になった時どうする? 

 この国では大抵男が先にサヨナラすることになっているらしい。けしからんこととは思うが、決まりなら仕方がない。「けしからん」は冗談である。冗談と断るくらいなら、はじめから言わなけりゃいいのにと思うが、そこはそれ男心の繊細なところである。
 それはさておき、親しくしている従姉妹夫婦はいるがそんなことで来てくれとは言えない。業者に電話する手もあるが、大げさだし手数料だって取られる。だから自分でできるようにしておいてやるのがいい。

 耕耘機の脇にしゃがんだ家内の手にスパナを持たせた。
プラグを指さして、これを回して緩めればオイルが出てくるからと言うと家内はスパナをプラグにかませた。そして右回りに回そうと力を込めた。

 驚きはしない。ひょっとしたら右に回そうとするかもしれないと思っているから「ちょっと待った」と制して、ネジを緩めるときは大抵左に回すものだと教えてやる。


 おひとり様になった時は男の仕事も女の仕事もない。家のこと、畑のこと、全部自分でやらなければならない。口で言うより、実際に手を動かす方が覚える。

 包丁を砥石で研ぐやり方は教えてある。一度やっただけでは忘れるから何度も教える。幸い家内は嫌がらずに何でも覚えようとする。ほっとする。

(次回は ― おひとり様 その2 ー )

 

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