ー 男 子 、厨 房に入る ー
起きて洗顔をすませ、炊飯器をのぞいた。
空っぽである。米を研いで釜に入れ、水加減を測ってスイッチを入れる。
次に、キャベツの千切りをつくり、食卓に箸を置き、冷蔵庫の中の残り物をを並べた。
後ろで 「グッドモーニング!」 と小さな声がした。見ると、家内が照れ笑いをしてこちらを見ている。
いつの頃からこうなったかわからない。「男子厨房に入らず」は問わず語らず昔から引き継いだ日本の家庭の習慣だった。そこへ誰が言い出したか最近新聞やテレビが男ももっと家事をやれと騒ぎだした。
そういう風潮に時代だからと安易に迎合するのは性分に合わない。ただし、理由があれば別である。
私の場合、家内が定年まで会社員として働いてくれたというちゃんとした理由がある。キャリアーウーマンとしておよそ40年。職場に泊まり込んだこともある。
一緒に頑張ってくれた。だから家も建てられたという思いがある。もっとも、そういうことは口には出さない。本音は胸の裡に置いて、「本当は旦那様はこういうことはなさらないのだぞ」と言う。照れである。
一方、家内の知り合いの旦那さんはきっちりお昼12時になったら部屋から出てきて食卓についていらっしゃるそうである。
その様子を想像して思わず笑ってしまったが、そのお宅ではそれが自然なのだろう。旦那さんは私よりずっ先に定年を迎えており、奥さんはパートの経験はあるものの専業主婦だったらしい。
だから、専業主婦がいるのに、まして旦那は現役で働いているのに家事を手伝うべしという最近の風潮がわからない。唯々諾々、その風潮に乗る旦那も情けない。
よく英国では何時間、米国では何時間旦那が家事をやっているからと鬼の首でも取ってきたようにいう輩がいるが、なぜよそに合わせなければならないのか。軽佻浮薄。むしろ、そっちこそ日本を見習えと言ってやったらいい。