テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

アイアン・ジャイアント

2005-09-03 | アニメーション
(1999/監督・原案:ブラッド・バード/原作:テッド・ヒューズ/英語版声:ジェニファー・アニストン、ハリー・コニック・Jr/日本語吹替版声:進藤一宏、郷里大輔、日高のり子/86分)


 「Mr.インクレディブル(2004)」のブラッド・バード監督の前作で、1999年のLA批評家協会賞長編アニメーション賞を受賞した作品。

 1957年。宇宙から謎の物体がもの凄いスピードで地球に落ちてくる。
 アメリカ北東部、メイン州沖の嵐の海では船が木の葉のように揺れていた。船長は、船が巨大な人影のようなものにぶつかるのを見たが、次の瞬間大きな波に船ごと呑まれてしまう。それからしばらくして、船長は岩場の上に横たわっている自分に気づいた。あれは何だったんだろう?
 レストランで働く母親と二人暮らしのホーガンスは、一人で留守番をしている時にTVアンテナが無くなったのに気付く。屋根から見下ろすと、大きな何者かが通った跡らしきモノが森の方へ続いていた。懐中電灯を銃の先に取り付けて痕跡の正体を探りに行くと、なんとそれは身の丈10mはあろうかと思われる巨大な鋼鉄のロボットであった。
 鉄でできたものを壊しては食べるロボットの大きさに、恐れをなして逃げ出すホーガンスだったが、ロボットが実は人なつこい優しい奴だと分かって友達になり、自宅の納屋に連れてくる。
 一方、謎の物体を探している政府の役人もホーガンスの町にやって来ていた。やがて、ホーガンスが何かを知っていると気付いた役人は、ヒューズ家(=ホーガンスの家)の間借り人となり、ホーガンスの行動を監視するのだが・・・というお話。

 時代設定がえらく古いんだが、何の意味があったのか・・・。役人のロボットに対する過激ともとれる反応の裏に、米ソ冷戦時代のピリピリムードがあったのですよ、ということか。
 田舎町の雰囲気は、昔のハンナ・バーバラ系のアニメを思い出させて懐かしかった。勿論、昔のよりはずーっと精緻なタッチで仕上がってますがね。

 暴力否定がテーマですな。夏休み中の息子も、これは大変面白かったようで3回くらい見ていた。大人も充分楽しめる作品です。

 映画データで驚いたのが、製作総指揮のピート・タウンゼント。「♪サマー・タイム・ブルース」などのヒット曲で有名なバンド、ザ・フーのリーダーだ。映画サイトには、<昔“フー”が出したアルバムに「ジ・アイアン・マン」というのがあって、そのロックオペラの原作が映画と同じテッド・ヒューズなので、その関係だろう。>との内容がコメントされていた。
 なるほど。但し、ロボットの扱いは人間的で、科学的に考えてしまうと少し違和感はある。

 デザインにかかわっていたジョー・ジョンストンは、「ジュマンジ(1995)」や「ジュラシック・パークⅢ(2001)」の監督。“スター・ウォーズ”の特殊効果のデザイナー&イラストレーターもやっていたとの事である。

▼(ネタバレ注意)
 ロボットは、スクラップの鉄屑をムシャムシャと食らうので無骨な感じなんだが、実は「天空の城ラピュタ」のロボット並にもの凄い能力を持っている。これは、後半のサプライズでした。そして、出てきたロボットの武器の使い方は“インクレディブル”のシンドロームのロボットに似ていましたな。

 結局このロボットは、遠い宇宙の彼方の星から逃げ出してきた、戦闘用マシンだったのでしょう。戦闘がイヤになって、逃亡したものではないかと思いました。

 バラバラになった身体を自分で合体させる能力。これは“T2”みたい。液体金属ではないけれど。
 ミサイルを、自らの身体で受け止めてホーガンスの町を救ったジャイアントが、遠くアイスランドの氷河の中で合体しようとするラストシーンは嬉しくなってくる。
▲(解除)

・お薦め度【★★★=一度は見ましょう】 テアトル十瑠

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2 コメント

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17年も前に観たのか (十瑠)
2023-01-30 12:08:40
備忘録を読むと結構場面を覚えているので10年くらい前に観たように思ってましたが、もう17年以上経つんですね。
当時小学生だった息子も昨年結婚しました。
孫が出来て大きくなったら見せて欲しいなぁ。
いつの世も価値のあるテーマですもんね。
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Unknown (風早真希)
2023-01-30 11:05:26
私の大好きな長編アニメーションの「アイアン・ジャイアント」が紹介されていましたので、感想を述べてみたいと思います。

この作品は、アメリカの銃社会の悲劇、普遍的な戦争の悲劇に疑問を投げかけるアニメ映画の傑作だと思います。

この映画の監督は、「Mr.インクレディブル」「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」「トゥモローランド」のブラッド・バードの作品です。

公開当時、ディズニー以外の海外アニメが、日本で騒がれてヒットしたという事でも有名になった作品でしたね。

時は1957年、米ソの冷戦時代の真っただ中のある日、メイン州の沖合に宇宙から巨大ロボットが墜落しました。
この墜落したロボットを発見した少年は、森にかくまいながら、ロボットとの友情を深めていきます。
だが、政府の捜査官に噂をかぎつけられ、軍隊が出動する事に----という物語です。

物語自体はとても単純で、テーマも明快で力強いものがあります。
ごたごたした説明部分を一切削ぎ落とし、核心部分だけを貫いた構成が、ダイレクトにそのメッセージを訴えかけてきます。
こうした構成をとれるのも、キャラクターを単純化できるアニメならではの特性があるからだと思います。

そして、少年とロボットの友情に的を絞り、しっかりと丁寧に描く事で、我々観る者の心の琴線に触れるドラマになり得ているのだと思います。

この目玉が光り、鋼鉄の塊といった巨大ロボットの風情を見る限り、このアニメは、アメリカン・コミックよりも古くからある日本のアニメの影響を感じてしまいます。

また、鉄が大好物で、生まれたての赤ん坊のように純真無垢な巨大ロボットは、愛嬌たっぷりで、実に親しみやすいキャラクターになっていると思います。

しかし、一方で、この巨大ロボットには、自分に危害を加えようとする者に対して、反撃するという恐ろしい機能がプログラムされているのです。
しかし、考えてみれば、これは人間が本来持っている暴力性と同じものである事に気付かされます。

その証拠に、巨大ロボットが自分の身を守るために戦っているように、軍隊も国家と国民の安全を守るために戦っているのです。
この双方の防衛本能から来る戦闘には、悲しきかな終わりというものがありません。

悪夢のような現実を直視する事で、この「アイアン・ジャイアント」というアニメは、未だ途絶える事のないアメリカの銃社会の悲劇、普遍的な戦争の悲劇というものに疑問を投げかけているのです。

少年との心の交流を通して、この巨大ロボットは、"生と死、善と悪の概念"を学び、正義のスーパーマンとして自立するのです。

そして、最後に巨大ロボットは自らを犠牲にして社会を救う道を選ぶのですが、このクライマックスには、素直な気持ちでひたすら感動しました。

現代社会に生きる大人たちにも、また、これから未来を背負う子供たちにも是非、観て欲しいアニメ映画だと思います。
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