テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ネタバレ雑感 ~ 「普通の人々」

2012-10-06 | ドラマ
 心理ドラマと言うのは、大抵人間心理の不安定な部分を取り上げているので理解が難しいもんです。
 前回記事の「普通の人々」を最初に観たのは封切り当時の劇場で、僕も20代後半でしたのに、どこか分かったような分かってないような気分で映画館を出てきたような気がします。それは、今回の30年ぶりの再見でも同じでした。
 それでも面白く観たのは、主人公の一人である一家の父親カルビン・ジャレットの気持ちがよ~く理解できたからでしょう。多分、98%位は分かっていると思います。息子を思う気持とか、妻を説得しようとする姿勢とか、自分が同じ立場になっても同じような行動に出ると思います。
 しかし、母親ベスやコンラッドの心情には曖昧な部分が多くて、理解しているとは言い難い。
 バーガー医師はコンラッドを“感情欠如”と表現しました。カルビンはコンラッドを母親似と言いましたから、ベスも“感情欠如”と言っていいのかもしれません。バーガーはベスを“愛情不足”とも言ってました。要するに、コンラッドもベスも感情表現が乏しいということでしょう。観客として彼等の心情が理解しがたいのは、当たり前の結果なのかもしれませんね。



 『母親が自分の子供を嫌いなわけがないじゃない』
 カルビンに、嫌ってないという態度を(コンラッドに)見せるだけでいいんだと言われたベスが怒った顔でそう答えますが、実はその前に彼女がコンラッドに近づこうとした場面もあったんですよね。

 コンラッドが、入院していた時に仲良くなった少女カレンと再会した後で、コンラッドは一緒に病院を懐かしむ時間が欲しくて逢ったのに、彼女は病院を思い出したくないと言い、ちょっぴりブルーな気分になった時でした。
 庭のベンチで一人考え事をしているコンラッドを居間の窓から見つけたベスが、しばらく考えた後にジャケットを羽織ながら表に出てきて息子に語りかけたのです。
 『何してるの?寒いわよ。セーターでも持って来ようか?』
 一瞬硬い表情になったコンラッドですが、珍しく母と話を始めます。それは、ガレージに居ついていた鳩の話になり、やがて隣の家にいた2匹の子犬の話になり、コンラッドは兄のバックがペットとして犬を欲しがっていたことを思い出す。しかし、ベスはバックの話題には乗らず、まるでコンラッドの話を遮るように先程の燐家の子犬の話を続けたのです。すると、突然コンラッドは『ウォン、ウォン』と犬の鳴き声を真似ました。
 二人の会話は途絶え、ベスは家の中に入り、夕食のテーブルの準備を始める。
 後から部屋にはいってきたコンラッドは、母の姿をじっと見て『手伝おうか』と言います。今度はコンラッドが母親に近づこうとしているわけですね。しかし、既にいつもの冷静さを取り戻していたベスは、『そんなことより、自分の部屋を片付けなさい』と息子との距離を保つのでした。

 ベスは、どんな気持ちで次男坊に話しかけたんでしょうかねぇ。
 バックとはとても仲良しだったようですから、コンラッドにバックのようになることを期待していたんでしょうか。少なくとも、コンラッドと亡き長男との思い出話をしたい気持ちはなかったということですね。



 『君の希望は?』
 バーガー医師にそう聞かれたコンラッドは「自己抑制」がしたいと言いました。最初に病院を訪れた時です。
 『何故?』
 『父を心配させたくないからです』

 『(その分野は)あまり得意ではないけど』、バーガーは、そう言いながら週に2回の診療を提案します。それ(自己抑制)はコンラッドの悩みを無くすことにはならないと即座に判断したようです。逆に感情を素直に表現できる人間になるように仕向けていきます。自分の本心に向き合うこと、それがコンラッドを救うことだと。
 コンラッドとバーガー医師とのやり取りが何回か出てきますが、これはコンラッドが徐々に自己の感情表現を身に付けていく過程を示しています。

 ベスの両親、つまりコンラッドの祖父母の家で家族写真を撮ろうとした時に、父親に対して大きな声を上げてしまったのも、バーガーに挑発されて怒りを爆発させた後のことでしたし、両親に勧められ兄に近づくべく入っていた水泳部を止めてしまったのも、自分の心に向かい合った結果でした。
 しかし水泳部を辞めた事は、後にベスとコンラッドが面と向かって口喧嘩をしてしまう原因になります。両親に要らぬ心配をさせまいとコンラッドは退部を話さなかったのですが、ベスはクラスメイトの母親から教えられて初めて知ることになり、彼女にしてみれば息子に騙されていた母親という恥ずかしい状況の中に放り込まれたわけで、ついにコンラッドに対して怒りを爆発、コンラッドも病院に見舞いに来なかった母親に恨みをぶちまけるのでした。


 色々と参考にさせていただいているブログ「新・豆酢館」の館長は、僕と同じレッドフォード・ファンでいらっしゃいますが、「普通の人々」について、いつものようにストーリー紹介と共に詳細な解説を書かれています。カルビン、ベス、コンラッドの心理についても実に極め細かく分析されていて、なるほどと唸ってしまいました。
 僕と同じように?マークが付いている人には、是非「新・豆酢館」の記事を読まれることをお薦めします。



 ついでといっては何ですが、前回記事の中で紹介していなかったエリザベス・マクガヴァン、ダイナ・マノフの役どころについて、追加として書いておきます。

 エリザベス・マクガヴァンは、コーラス部でいつもコンラッドの前で唄っている同級生ジェニン・プラットに扮しました。ジェニンはリストカットについても真摯に向き合ってくれる女性で、コンラッドには願っても無いガール・フレンドになっていきました。フィービー・ケイツに似た可愛らしい顔の女優で、脚がすらりと長いのが印象的。「普通の人々」の翌年にミロス・フォアマンの群像劇「ラグタイム(1981)」でアカデミー賞の助演女優賞候補になり、オフ・ブロードウェイの舞台でもご活躍のようですが、なかなかヒット作には恵まれないようです。1961年生まれ。

 ダイナ・マノフは、コンラッドが入院していた時に仲良くなったカレンという役でした。カレンも退院後には精神科医にかかっていたのに、彼女曰く「陳腐な先生だったので、自分で治すしかない」と思い、通院を止めたと言ってました。この“陳腐な先生”ってバーガー医師のことなのでしょうか。
 ただ今、原作小説を図書館から取り寄せ中。はたしてそこまでの記述があるのかどうか・・・。
 終盤でカレンは自殺してしまいます。

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