月日はパーフォレーション。

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映画「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」を観た。

2016-05-01 18:44:32 | 映画館で鑑賞
持ち主が、そこに居た人が残した「残留思念」を物から「よむ」ことができる男。
変えることができない他人の過去の記憶を、知りうることで、男は人嫌いになる。
そんな体質だから、マンション管理人として能力を封印して引き籠って生きている。
しかし、過去にはその能力を活かし、人前で披露する「芸人」として生きていた頃もあり、
ある日それを知り、信じている少女からの人探しの依頼を芸人時代の相方から頼まれ、
嫌々ながらもその能力を発揮し、人探しから事件に巻き込まれていく…

推理ものは普段あまり観ないが、ちょっと変わった設定だけに気になっていた。
野村萬斎さんが主役っていうのもいいし、金子修介監督は良いお話しか撮らないイメージがある。
予告編や公開前情報などで、「よむ」能力という独特の設定と、その所作に違和感があった。
だけど映画は全部見ないと面白さも、良さもわからないと思っているので、観てみた。
それに今日は1日、映画の日!今一番気になる作品だったから。

パンフに「ネタバレ注意!」とあったけど、観終わって確かに予備知識も不要、だからああいう予告か、と納得。
能力があり、よみたくなくてもよんでしまうから、苦悩も多い主人公の特異な感覚が、
違和感なく入り込んできて、彼を主役として、彼を描いていく意味では、すごく良かった。
事件自体は意外すぎる展開をするので、えー??っていう感覚もあったけど。

だけど全然暗くもなければ重くもなく、笑えるシーンや見応えのある映像があり楽しめる。
そんな中に温かさや優しい目線、人同士の繋がりと人間の感情について考えさせる余白がある。
感情が高ぶるというより、観て考える、そっと大切な人のことを考えるような映画。
もしも、こんな能力が本当にあったなら、苦しいだろう。
だけど、いいこともきっとある、そんな希望を抱くラスト。

能力は人のためにある、というセリフがあったけど、自分に向けられていない言葉を
物から読み取り、それに影響されてゆく主人公の感情がとてもわかる。
誰かが頑張っている姿には無条件に励まされ、勇気が出てくるのと似ている。
何かが終わらないとわからないことがある。過去、それを物から拾い続けて苦しんだのだと思う。
人が語るのと、物が語るのでは、正直さが違うと繰り返し物語っているけれど、それが全てじゃなく、
そこにあるものが永遠ではないこと、物が残って人が消えてゆくことを言わずして語っている。

目の前にいる人を大切に思うこと、まっすぐに見つめ続けること。信じること。
わかりあうことの難しさと、素直になることの大切さ。
汚いものも美しいものも、混然としてある世の中の声を「よむ」ことができる。
それを、受け入れることができるまで、耳を傾けて逃げなかったから訪れた、彼にとっての幸福。
日々色々なことがあるけれど、目を背けてはいけないのだと、語りかけてくる映画だ。