「知ってるつもりで、実は知らない」
カンヌでパルムドールを受賞した話題の映画、という安直な冠詞は、この映画には似つかわしくないだろう。
バカなブッシュにみんなが迷惑するお話、という方がしっくりくる。
この映画を述べるにあたって、もう一つ「ドキュメンタリー映画として~」という冠詞も見受けられるのだが。
この冠詞もしっくりこない。それについては後述する。
2000年のアメリカ大統領選挙まで話は遡る。
そこでは当時の大統領候補だったゴアと支援者が歓声を上げていて……ん? なんだっけ、これ? と思っていたら、やがてブッシュの当確確実のニュースが流れる。
ああ、そういえば、あのときの大統領選挙って、すったもんだで、さんざんっぱら揉めたんだったな、と思い出す。
(詳しいことは他にあたってくれ)
ケリーVSブッシュの大統領選挙で盛り上がっている今となっては、もう遙か遠い昔の出来事のようだ、日本人のオレにとっては。
このときの大統領選挙に、黒に近い灰色の疑惑があったのではないかと疑問を呈し、アメリカ人はブッシュに不審を抱き、ブッシュは休暇に出る。
こんなボンクラな8ヶ月を迂闊に過ごしているうちに、アメリカ同時多発テロが発生。
テロの首謀者がサウジアラビア人が組織したアルカイダであると断定し、そのアルカイダ=サウジアラビアとアメリカの金にまみれた繋がりを、推測を交えながら暴いていく。
ここで面白いのが、サウジアラビア人が組織したアルカイダがテロの首謀者なのに、なぜかターゲットはアフガニスタン、そしてイラクに移っていくところ。
当時の自分の記憶を思いだしてみても、確かに、なんとなくアフガンやイラクが悪者だったな、という印象がある。
そして、イラク戦争が開戦。
ここで笑ってしまうのが、『スターシップ・トゥルーパーズ(以下ST)』でやっていたことを、現実の世界でもホントにやっているってこと。公開当時、ヴァーホーヴェンがやった「アメリカ帝国主義への批判」が現実になったのだ。
マヌケなテレビCMで軍隊勧誘をするところなんて、まさに『ST』だ。
職がないからという理由で入隊する若者も、名誉市民になって選挙権を得ようとする『ST』に似ている。
ただし、『ST』と決定的に違うのは、アメリカの若者は徹底的に恵まれていないこと。
「アメリカが勝利した」はずなのに、未だ争いは収まっておらず、イラクでの戦死者はベトナム以来最悪となっているが、いつの時代も貧しいものが虐げられており、何も変わっちゃいない、ということでエンド。
ダラダラと顛末を語ったけど実はこの映画、"語れる"ほどの起承転結がきちんとある。
『ボウリング・フォー・コロンバイン』でも作り方がうまいな、と思ったけど、この作品を観て改めて作りがうまいと思った。
ドキュメンタリーということで、基本的には時系列に沿って、映像を編集しているんだけど、その編集には明らかな作為と恣意がある。
大統領選挙の疑惑からアラブ人との癒着の繋ぎ方なんて、その際たる例だろう。
それと音の使い方も効果的だ。
例えば、怖いことや悲惨なときは恐ろしいBGMを、ブッシュのバカさ加減のときはカントリーを、そして爆撃音をカットバックのタイミングで使う。
かようにして、この映画はドキュメンタリーでありながら、極めて"劇映画"的な作り方がされている。現実の映像素材を使った劇映画と言っても良いかもしれない。
だから、この映画の印象としてバカなブッシュにみんなが迷惑するお話、という表現を使った。"お話"である。
ジャン=リュック・ゴダールは自身の作品の中で、「メリエスは(再現映像を使って)ニュース映画を作った」と語っている。
この言葉を借りるなら、「ムーアはニュース素材を使って、劇映画を作った」とも言えそうだ。
(ちなみにゴダールは、リュミエールの映画をドキュメンタリーではなく、絵画的であるともいっている)
なお、評価の5点に関してなんだけど。
なんだかんだとアメリカ現政権を批判しておきながらも、その批判されたアメリカが、(紆余曲折を経ながらも)この映画の公開を認めたこと。
これは予定調和なのか? 苦渋の選択なのか? どちらにしても批判したムーアより、寛大を装ったアメリカの方が上手のような気がしたのでノーテンキに10点はつけられなかった。
『華氏911』(映画館)
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア
評価:いろいろあって、あえて5点
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