「安く、早く、怖く!」
実は、恥ずかしい話なのだが、今まで『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を未見でして。
ようやく、観ることができました。
なお今回観たのは『最終版』。追加シーンがあるらしいんだけど、上述通りこれが初見なので追加シーン云々については知りません。
この映画が語られるとき、文脈は大きく分けて二つに分かれる。
一つは、低予算映画ながら空前のヒットを飛ばしたってこと。
もう一つは、現在、我々がイメージするところのゾンビ――ゾンビが人の肉を食って、食われた被害者もゾンビになっちまう――のエポックになった作品だってこと。
(これを『ゾンビ映画大事典』では「モダンゾンビ」「ぼくらのゾンビ」と呼んでいる)
能書きは置くとして。実際に観てみたんだけど。
これは怖いわ。
いわゆるゾンビ映画っていうか、スプラッター・ホラーみたいな怖さってのはあんまりないんだけど。
出てくる連中がみんな下品で、野卑ていて、利己的で……んで、正体不明の得体の知れないゾンビに追い詰められるにつれ、罵り合って、ケンカして……って、どんどん狂っていく。挙げ句に、かつての家族がゾンビになって牙を剥く。
この追い詰められていくカンジが怖かった。追い詰められて、どんどん自滅していく人間たちを追う冷徹な視線、その視線に描かれているものが怖かった。
ヨタヨタしてるだけのゾンビたちも、本来は低予算でろくな俳優なんか使えず演技がド下手なだけなんだろうけど、この追い詰められ感ゆえにむしろ得体の知れない恐怖がある。
怖いついでに言及すると、ゾンビを狩っていく民兵も怖かったな。
スコンスコンとゾンビの頭をぶち抜いて回るんだけど、よくよく考えると相手はついさっきまで生きていた人間なんだよな。それをぶち殺しまくるってのも、なんだか怖い。
ものの本によると、欧米文化では「死体=モノ」としか考えていないから、死体そのものにウェットな感情は抱かない云々とかあったけど、それでも怖いよ。あのドライすぎる感覚が。
っていうわけで、ウゲェっていう怖さはなかったけど(一応、内蔵を食っちゃうシーンもあるけど、80年代の濫造ゾンビ映画に較べれば)、緊張感のあるシビアな怖さがあった。
あと、余談だけど。
登場する女性たちが、いずれも無能なパニック要員ってのが時代をカンジさせる。制作は1969年だって。
ここ最近の「戦闘美人」に慣れきってしまったので、なんとなく新鮮というか懐かしいというか……ぶっちゃけ「オマエも戦え!」と苛立ったりした(笑)。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(DVD)
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演: ジュディス・オディア、デュアン・ジョーンズ、ラッセル・ストライナー、カール・ハードマン、キース・ウェイン、ジュディス・リドリー、マリリン・イーストマン、ビル・ハインツマン、他
評価:6点
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