「走ったり、歩いたり」
2009年に作られたセルビア産のゾンビ映画。
しかも、元祖ゾンビキラーのケン・フォリー(『ゾンビ』でピーター役を演じている)が主演という、なんだかポジション的に不思議な佇まいの本作。
とはいえ、最近流行りの『~オブ・ザ・デッド』系の映画なんでしょ? ってぐらいの気分で見ていたのですが……以下にネタバレしながら感想文です。
映画冒頭はセルビアの鉄道の駅。
そこにガスタンクを積んだ貨車が到着するのですが、うっかり銃を発砲しタンクに命中。
そこからガスが漏れるのですが、このガスこそセルビア政府が開発していたゾンビ化ガス。
このガスを浴びた人間は、一度は仮死状態になるものの、すぐさま凶暴な唸り声を上げて追いかけてくる走るゾンビとして復活します。
この辺りのチャキチャキした始まり方は好感が持てます。
ところが…この後から、いろいろな人間たちが登場するのですが。
結論からいうと、イマイチよくわからない人たちです。
1.セルビアの大統領
どうやらセルビアではゾンビガスを開発していたらしく、そのことを示唆するシーンとして登場します。
でも、このシーンだけの登場で、以降は政府が何らかの対応を取った形跡はありません。
2.駅から逃げる爺さん
ゾンビ発生源の駅で、唯一防毒ガスマスクで身を守って生きながらえた大学教授。
遠くで待つ奥さんに会うために死ぬわけにはいかないって感じなのですが……奥さんが十日前に死んでいたことを、パニックの最中に突然思い出します。
んで、やっぱりいいや、ってカンジでゾンビからの逃亡を諦めちゃいます。
なんで、こういう設定だったんだろう?
生き延びちゃったけど、ストーリー的に邪魔になったから死んでもらったんでしょうか?
3.ケン・フォリーを中心とする、犯罪者護送の警察官グループ
謎の犯罪者をイギリスへ護送する警察官たち。
なぜ、リタイアしたケン・フォリーをわざわざ訪ねてまで、この護送任務に当たらせるのか? その理由については、担当の警察官達にも知らされていません。
しかも後に判明するのだけど、謎の犯罪者は無茶苦茶強い上にやたらとゾンビに詳しい。
はたして、この任務の真意は…?
結論からいうと、特に説明はされません。
謎の犯罪者はソビエトで発生したゾンビパンデミックの関係者(チェルノブイリはゾンビパンデミックの隠蔽工作だった!)だったんだけど、それとセルビアでのゾンビパンデミックや、セルビア政府との関連については一切語られません。
そもそも、なぜ逮捕されていたのかさえ明らかにされていません。
4.取材記者
なんからの取材記者。
何を目的としてゾンビ発生源の近くにいたのか? 特に説明はありません。
もしかすると、セルビア軍の軍事演習があるっていうんで、それを取材に来たのかも? でも、あんまり役に立たないネーちゃん二人連れて?
5.謎の無双男
とにかく強い。
ゾンビ相手に怯まず、たった一人で夜通しゾンビと戦い続ける男。宗教的なアレで戦ってるらしいけど。
ゾンビパンデミックを予想してたかのような言動や、やたらと高い戦闘力、最後に突然現れておいしいところを持っていくなど、とにかく謎だらけの男。
といったカンジで、登場人物はみんな何かしら訳ありなカンジで、それをほのめかすことを喋っているのですが。あんまり意味がなくて、真意が明かされることはないです。
だったら黙ってればいいのにな~、と思わずにはおれません。
この大雑把すぎる雰囲気がノイズになっちゃうのは否めないのですが。
とはいえ、じゃあこの映画がつまらないのか? というと、そうでもありません。
最初に毒ガスを浴びて誕生したゾンビ(一次感染者)は、アグレッシブに動き回る走るゾンビです。
しかも、ヒットアンドアウェイで上手く立ち回ったり、手下(?)のゾンビを先導するなど賢い戦い方をします。
その一方で、ゾンビに噛まれたゾンビ(二次感染者)は、一次感染者のように機敏に動けず、ノロノロ動くことしかできません。
このように、走るゾンビとノロノロゾンビを同時に登場させるという二段構えになっています。
数は、ノロノロゾンビの方が圧倒的に多いので、基本的にはゾンビの大群に追い立てられるゾンビパニック的な画になるのですが。
(ガラス窓をどんどん叩いているゾンビ→やがて窓が割れてゾンビが溢れてくる、など)
時折、走るゾンビが紛れていて、要所要所で人間たちが窮地に追いやられます。
とはいえ、ラスト間近の日向ぼっこするゾンビ(?)のシーンは怖さよりも、笑いの方が勝りましたが。
こういうヘンテコなシーンも含めて、新旧ゾンビを使い分けた緩急の付け方がおもしろいな~と思いました。
特に暗闇の警察署内を探索するシーンはお気に入りです。
ケン・フォリーも個人的な問題やゾンビに直面する危機に戸惑いながらも、リーダー役として終始映画を引っ張っていきます。
(ケン・フォリーが無双状態になれない役なので、それを補完するために強キャラが二人も用意されているのかも?)
古くからの親友がゾンビに噛まれ、徐々にゾンビ化し、やがては人間の手によって殺めるというシーンもきちんと押さえられています。
これはエンドロール後、ズルい人間が報いを受けるというオチと相まって、それなりにゾンビ映画がテーマとしてきた、人間のカルマ的なものへの視点もあります。
また、『ゾンビ』で語られたセリフを引用するかのような箇所もあったりしました。
よくわからん登場人物たちと大雑把な雰囲気、可愛くないヒロイン、テキトーな解決などアラは目立ちますが。
でも、新旧ゾンビ映画をうまく融合させた使い分けや、ゾンビ映画への真摯な眼差し、ケン・フォリーの大活躍など、ゾンビ映画の基本を踏まえている作りだと思いました。
そういった諸々も含めて、この映画は面白かったです。
『ゾーン・オブ・ザ・デッド』(DVD)
監督:ミラン・コニェヴィッチ、ミラン・トドロヴィッチ
出演:ケン・フォリー、クリスティーナ・クリーブ、エミリオ・ロソ他
点数:6点
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます