「君は刻の涙を見る」
その昔、劇場で公開されていた同作品であるが、時代の徒花とも言うべきか、なかなかレンタルビデオショップなどではお目に掛かることができずにいた。
それが昨年、ファミコン20周年の年に、エンターブレインからファミコン20周年企画DVDとして「ファミコンのビデオ」が発売され、同DVDにめでたく収録される運びとなった。
というわけで、時空を超えて21世紀となった現在、この作品を改めて観ることとなったわけだが――深い。ものすごく深い作品だった。
公開当時、オレに限らず、有象無象のファミッコ達――同作品の言葉を借りれば2000万人のファミコン戦士――は、スクリーンに登場するハナ垂れガキ同様に、「名人、頑張れ!」を連呼して、高橋・毛利両名人いずれのシンパかは問わず、ただひたすらに両名人の激突に熱くなっていたはずだ。
両名人の過酷な特訓――掘削しスイカをも割る高橋名人のパワフルさ、ラジコンはおろかピアノまで弾いてしまう毛利名人のテクニックには、理屈や理論を超えて感動しきりだったはずだ。
やがて、長じるにつれ……。
「たかがゲーム」であることを往年のファミッコ達は気付きはじめ、演出を超えてコントにしか見えない両名人の特訓風景は、ゲームヲタク共通の笑いのネタになっていった……はずだ。
事実、オレが高橋名人と同じ会社でバイトをしていたときは、このネタが一種のコミュニケートのきっかけにさえなり得ていた。
しかし。
ある程度、分別がついてきて、ある程度、世の中の道理や仕組みが理解できるようにな年齢になってくるにつれ……どういうわけかファミコンへの執着が強まってきた。
ファミコン20周年という節目の年であり、同時にファミコン製造中止という年でもあったため、ノスタルジックな懐古趣味に浸っているのかもしれない。
あるいは、お小遣いがなくて買えなかった幼少期の怨念を晴らそうとしているのかも……。
ゆえに「ファミコン」「名人」というワードに過敏に反応し、そして許容してしまっているのかもしれない。
……この作品を観る前には、こんな事を考えていた。
が、しかし、見終わった後はノスタルジー以上の"ナニ"かを感じた。
例えば、この映画における、子供にも十分に理解できる分かりやすさ――デブでナチュラルなパワーの高橋名人と、痩せていてテクニシャンの毛利名人が対決するという画ほど分かりやすい対比はない。
制作者の渡辺浩二は「高橋名人はスタローン、毛利名人はドルフ・ラングレンで『ロッキー4』をイメージした」と、両者を分かりやすく対比させて制作した旨を述べている。
単純に高橋・毛利両名人を対決させる、という画面の面白さだけに留まらず、勝敗を超えて「対決する」ということにファミッコ達の興味をぐいと引き寄せてやろうという、興行師としての山っ気がなんと溢れていることか。
余談ながら、映画化される前から「高橋名人はパワフル連射」「毛利名人は華麗なテクニック」というイメージは出来上がっていたのも興味深い。
"大決戦"というタイトルなのに、最終的にはどちらが勝者なのか断言しない、高橋・毛利両名人のファミッコファンに対する、いかがわしいほどの配慮にもゾクゾクさせられる。
おそらく、全てが計算ずくというわけではないだろう。
きっと成り行きと偶然が重なり、そこに「ゲームをビジネス」にしてやろうというヤマっ気たっぷりの香具師が集結した結果が、この映画なのだと思う。
マーチャンダイジングという言葉はあったはずだが、「ゲーム」をベースにしたコンテンツビジネスなんて明確な言葉はあったのだろうか? 興味が尽きない。
そんなこんなで世の中の道理や仕組みがチョット分かってくると、この映画が産み出された背景なんかが理解できるようになってきて、そこにいらぬ邪推なんかも産まれてくる。
まさにゲーム黎明期の混沌を垣間見たような気がする映画であった。
そして、さらに考える。
今のゲーム業界で高橋名人のスイカ割りを超えるファンタジーが生み出せるのだろうか? と考えると、この映画は映画のでき以上に、ゲーマーを自負するオレにとってノスタルジー以上に何かを考えさせる、そんな作品なのであった。
そういうわけで本来10点満点なところを、特殊な思い入れが加味さ今回は20点となっている。
(――と、こんなネタをメタルギア・ソリッド3からいただいているのだが、それに気付いてくれたゲームヲタはどれぐらいいるんだろう)
最後に余談ながら。
『ファミコンのビデオ』で取り上げられたファミコンベスト100だが、バンダイのゲームがやたら多かったということ以外はおおむね賛同できる内容だった。
まあ、オレだったら
『カイの冒険』
『ザナック』
『新宿中央公園殺人事件』
『チャンピオンシップ・ロードランナー』
『フラッピー』
『バベルの塔』
『ソロモンの鍵』
『ヒットラーの復活』
『スターラスター』
『戦場の狼』
『闘いの挽歌』
『ディープダンジョン』
『不如帰』
『忍者龍剣伝』
『ハイドライド・スペシャル』
『パックランド』
『バトルシティ』
『バブルボブル』
『飛龍の拳3』
『ファミリーサーキット』
『プロレス』
『ベストプレープロ野球』
『ロードファイター』
これぐらい入れるね。
っていうか、納得してないんじゃん(笑)。
『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦』(DVD)
監督:神澤信一
出演:高橋利幸、毛利公信
評価:20点(10点満点)
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