「戦闘美少女はもう古い?」
当方、ピクサー製のアニメは一度も観たことがない。なんとなく子供向けってカンジがして、わざわざ時間と金を掛けてまで観たいとは思っていなかったからだ。
だが、この『Mr.インクレディブル』は主人公が「リストラされたスーパーヒーロー」っていう、あきらかに子供以外の人もターゲットにしていたので、「これは違うぞ」と期待が高まり、公開前から観たいと思っていた。
んで、ようやく観たわけであるが……文句なしにおもしろかった! っていうか、久しぶりに評価で10点を付けてしまった。
ストーリー良し、キャラクタ良し、センスもアクションも音楽も映像もみんな良かった。
全部語ったらきりがないのだけど、とにかくハリウッド映画の良いところを全部出し切ったような映画だった。
冒頭は「ヒーローが訴えられて活動を禁止され、会社からはリストラされる」なんて、チビッコにはわかりにくいが、明らかに子供以外もターゲットにした作りでオトナの心を掴む。
(モノトーンな「TIME」の表紙を飾るMr.インクレディブルなんてのもチビッコにはわかりにくいかもな)
ヒーロー引退後は「正義のために働けない」っていうことにフラストレーションを感じるMr.インクレディブル。一方、インクレディブル夫人はフツーの日常生活に順応しようとして、夫婦間に齟齬をきたす。
このへんは「ありがちな夫婦生活」ってカンジで、またもやシニカルに笑いを誘う。
で、ストーリーはMr.インクレディブルが謎の人物の依頼を受けて、スーパーヒーローに復帰するところから一気に加速して、それとともにアクションもスパートしていく。
レトロっぽいMr.インクレディブルの活躍(公式ホームページによると1960年代に思い描いた近未来がテーマだとか)が懐かしくもあり、また一筋縄でいかない敵キャラにもワクワクさせられる。
そして、インクレディブル夫人も変身してからは、とにかく息もつかせぬアクションの連続だ。
このインクレディブル夫人のスーパー能力ってのが「軟体」、ゴムのように自由に伸び縮みするんだけど、これぞ「CGアニメ!」と唸らされる。
ピトッってカンジで吸着するカンジとか、ミョイ~ィンって伸びるカンジが、実に「らしい」のである。で、この軟体を使ったアクションが、よくもまあこれだけアイデアが出るもんだと感心させられる。
なんでも、今年の夏に公開予定だったCGアニメにも、こんな軟体超人が登場するはずだったのだが、インクレディブル夫人の活躍に度肝を抜かされて作り直しを余儀なくされたらしいが、なるほど納得だ。後発のアニメは苦労させられるだろう。
インクレディブル夫人が軟体の妙で驚かせるなら、子供のダッシュは超スピードのアクションで、これまた度肝を抜いてくれる。森林でのチェイスシーンは『スターウォーズ』以来の興奮と迫力だ。
これだけスーパーヒーローが活躍するからには、当然、悪役も活躍しなければならないわけだが……本作の悪役シンドロームが、これまたイカす悪役だったりする。
っていうか、この作品は勧善懲悪もののストーリーが下敷きになっているのだけど、このシンドロームは単純に世界滅亡を企む悪人ではない。
っていうか、彼自身はスーパーヒーローになることを夢見ている。
絶対的な能力を持たないから、科学の力を手に入れ、他のスーパーヒーロを追い落とすことで、相対的にスーパーヒーローになろうと考えているのだ。
「みんながスーパーヒーローになればスーパーヒーローは、もういらない」
このセリフ、雨上がりの宮迫氏が吹き替えてるんだけど、ちょっとカッコ良かった。
レトロっぽいんだけど、単純な悪役ではないところが現在進行形のアニメってカンジだ。
でも、正義のヒーローがちゃんと活躍できるようにストーリーテリングされている、このへんのバランスも絶妙だ。
で、ラストはインクレディブルファミリー&友人のフロゾンが、文字通り一致団結する。
一時は家族崩壊の危機もあったけど、最後は家族の絆と見事な連係プレーで、ちょっとあっさりだけど最大の強敵を打ち破ってエンド……と思わせておいて、最後でどんでん返しも用意してある。
ついでにいうとシンドロームの最期も、ギャグが伏線になっているという、きちんとした後始末もしている。
とにかく、ここでは書ききれないぐらい見所ばっかりの映画だった。2時間弱の映画だが、そんな長さは一切感じさせない。
1コマたりとも無駄にしない、贅肉をそぎ落とした上で、とにかく観客を楽しませることに徹底したハリウッド的な作り。
CGアニメだからこそ出来る、想像を絶する「アニメ的な」アクションの数々。
それでいてディズニーの配給ということで、ファミリーで観ても楽しめるストーリーと、わかりやすいキャラクタたち。
(シンドロームのコンプレックスや、Mr.インクレディブルの苦悩はチビッコには分かりづらいかも知れないが、それを抜きにしても勧善懲悪の分かりやすさは残っている)
ここまでエンターテイメントに徹底して、ここまでクオリティの高いアニメ映画を、ピクサーって会社は毎年制作してるってんだからホントに驚かされる。
このままだと、アニメといったらジャパニメーション、なんて時代も過去のものになりかねないな、などと考えてしまったりする。
っていうか、大友克洋や押井守のアニメはおもしろいことは確かなのだが、じゃあ彼らの映画が子供から年寄りまで、洋の東西を問わず誰にでも……ディズニー映画のように……受け入れられる作品なのかといえば、それは違うだろう。
士郎正宗の原作が、どんどん海外に配給されているが、彼の作品を受け入れる年寄りはそう多くはないはずだ。
そういう意味で、昨年の『デビルマン』や『キャシャーン』といった超優良コンテンツを題材とした映画に、押井や大友以外の「ナニか」を期待して観たわけなんだが……肩すかしどころか、がっくりと肩を落とさざるを得なかった。
きょうび自分で消化し切れていない自己意識し剥き出しの人間観を2時間も使って語りきれない映画を作っちゃうプロの監督と、そんなもんを作ることを許してしまうような業界では先が思いやられてしまうのだ。
制作費が40億だとか、海外配給だとか商業性が前面に出てるだけになおさら頭が痛い。
っていうか、こんなのじゃ先人達が築き上げた超優良コンテンツを食いつぶしかねないな。
最後に余談ながら。
絵柄的には「萌え」とは対極に位置するこの作品ながら、不覚にもインクレディブル夫人にときめいてしまった(恥)。
なんつうか、日常的な主婦感覚で描かれている前半と、Mr.インクレディブルを完全に食っちゃってる後半のアクションシーンのギャップとか。
日常ではお母さん的に子供たちを説教するが、いざ悪者の秘密基地で戦闘になるや初めての実戦に戸惑う子供たちにスーパーヒーローの先輩として戦闘の極意を叩き込む。
んで、実戦になるとお父さんとタメを張るぐらい強い。
日常も戦闘も、あまりメリハリがないMr.インクレディブルよりも、お母さん的な表情とイラスティガール(結婚前の名前)的な表情の2種類の顔を使い分けるインクレディブル夫人は、非常にキャラが立っていた。
黒木瞳の声も良かった。
メタルギア・ソリッド3のザ・ボスに続いて、今後は戦闘美少女ではなく、戦うおふくろの時代が来るのかもしれんなぁ、と思う2005年なのであった。
『Mr.インクレディブル』(映画館)
http://www.disney.co.jp/incredible/
監督:ブラッド・バード
出演:クレイグ・T・ネルソン、ホリー・ハンター、サラ・ヴォーウェル、スペンサー・フォックス、サミュエル・L・ジャクソン、ジェイソン・リー、他
(吹き替え版):三浦友和、黒木瞳、綾瀬はるか、海鋒拓也、斉藤志郎、宮迫博之、他
評価:10点
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