「アメリカン・ビジネスでよかったと思う」
ハジキを売りさばく武器商人の映画ってことで、けっこう期待しながら観ましたよ。
期待どおりの映画で嬉しかった。
冒頭、うだつの上がらない兄弟が武器商人として一旗揚げようと志す――って、トルネコじゃないんだけど。
東西冷戦下では、現地に直接赴いて米軍が放置した(輸送が手間なので現地に放置する)銃器をキロ単価で仕入れて、それを誰彼かまわず売りさばく。
拾った中古品を売って歩くってのは、ある意味、トルネコっぽいといえるかもしれない。
ソ連が崩壊したとみるや真っ先にウクライナへ飛んで、経済崩壊で混乱したどさくさで正規軍の武器を不正に仕入れて、紛争地域のゲリラたちに密輸して売りまくる。
私腹を肥やすために武器を横流しする軍人は、最初の方こそ軍紀違反に躊躇するんだけど、一度、甘い蜜を知ってしまったら歯止めが利かない。資本主義マンセーってカンジで。
軍紀違反だけではなくて、一応、これって国際犯罪らしい。武器商人を追うインターポールも登場する。密輸だから犯罪なのか、武器売買だから犯罪なのか?
それはともかく、ゲリラは横流しされた武器で兵力を拡大していく。いつの間にやらアメリカの後ろ盾で大統領になっている。
この大統領ってのが、もうヤクザそのもので。「ハジキが欲しくってサ」ってカンジで、武器商人の家に乗り込んで武器を買いにくる。
いや、買うっていっても甚だ恫喝に近いんだけどさ。
ここで登場する大統領の馬鹿息子もかなりイイ感じ。ランボーの銃をほしがるくせに、ランボーは1作目しか観てないところとか(そういう問題か)。
最後は密輸がバレてインターポールにとっ捕まるんだけど……「合衆国の大いなる意志」によって無罪放免、今日も世界を飛び回るんだとさ、ってカンジでエンド。
とにかく、この映画に登場する人物にはモラルってもんがない。
手にした武器で民間人を虐殺をするゲリラ(これがアフリカ人ってのには意図があるのか、事実なのかは知らないが)に、一欠片のモラルも期待できないのは当然として。
混迷した経済下でやむにやまれず武器を横流しする軍人も、商売に対しては誠実で家族も愛している武器商人も、やってることは金儲け。
金儲けのためにはモラルは不要と割り切っている。
唯一、人間らしいモラルを持っているのが武器商人の弟なんだけど。良心の呵責に耐えられなかったのか、ヤクに走った上に自爆してた。
だけど、最後に明かされるんだけど、このモラルなき商売の大本締めはアメリカ(作中では常任理事国5カ国となっているが)であり、武器商人はこの商売のニッチな部分を引き受けているってことになっている(ニッチだからこそ必要とされ、逮捕されても釈放される)。
犯罪を抑止するために飛び回っていたインターポールも、捕らえた相手は雇用主の取引相手だった、ってことでガックリさせられる。
っていうか作中では、ウザイ役回りでしかなかったインターポールの刑事も、最後のどんでん返しがあったればこそ光る役所だった。彼の10数年にも及ぶ捜査は、「ガックリ感」で雲散霧消してしまうのだ。
で、この「ガックリ感」こそが、この映画のキモとみた。
良心に耐えられない者は自滅するし、法の正義もアメリカの意志によって潰される。人殺しの大統領を支援するのはアメリカだし、密輸業者と手を組むのもアメリカ。
考えてみれば、映画の冒頭から武器商人を支援するのはアメリカだった。
戦争というビジネスモデルの前では、個人の力は無であるという事実(10数年に及ぶ捜査や結婚生活、そして戦争被害者個々人の人生も)に、ひたすらガックリさせられるのが、この映画の魅力だろう。
そういう意味では、この映画の邦題の候補であった『アメリカン・ビジネス』の方が内容にはピッタリくると思った。
『ロード・オブ・ウォー』(映画館)
http://www.lord-of-war.jp/index2.html
監督:アンドリュー・ニコル
出演:ニコラス・ケイジ、ジャレッド・レト、イーサン・ホーク、他
評価:8点
…かといって、あそこでユーリーは改心してしまったら映画として面白くない
邦題は他に候補があったんですね♪