ダリ
SalvadorDali
(1904-89)
スペイン出身のシュルレアリスムの代表的画家。バルセロナ近郊のフィゲラスで5月11日に生まれ、同地とマドリードの美術学校で学んだ。少年期から卓越した写実的描写力と異様な幻覚的資質を備えた早熟児で、12歳で印象派風の点描で描き、1920年には未来派、23年から25年まではデ・キリコの形而上(けいじじょう)絵画の感化を受けた。28年にパリに出てシュルレアリスムの運動に参加し、翌29年に最初の個展を開いて、精神分析学者フロイトの影響下に夢や幻覚による内面の無意識世界への探求を目ざした。その絵画には、『記憶の固執』(1931)にみられる柔らかな時計や腸詰めに以たまろやかな人体といった柔軟で溶解したもの、松葉杖(まつばづえ)、だまし絵(トロンプ・ルイユ)風の錯視に基づく多重像などへの特異な幻覚的固執がみられる。常識的な外界の秩序を転覆して幻覚によって意外な再解釈の光をあてる手法をダリ自身は「偏執狂的・批判的(パラノイアック・クリティック)方法の名づけ、哲学用語によって自発的妄想の体系化を試みたいが、技術的には絵画の具体性を執拗(しつよう)に要求し、非合理な内的宇宙を「想像世界の手作りの色彩写真」(ダリ)として精緻(せいち)で克明な描写によって再現する。30年代後半からはシュルレアリスムの運動を離れて、古典主義への傾斜を深め、40年にはアメリカ移住した。第二次世界大戦後は数度のイタリア旅行でルネサンス絵画の影響を受け、カトリシズムに接近して、現代物理学の原子体系とキリスト教的イコンが混交する神秘主義的ビションをアカデミックな技法で展開した。また、ダリ自身も露出狂的な奇行で絶えず話題を提供し、ルイス・ブニュエル監督と前衛映画『アンダルシアの犬』(1928)、『黄金時代』(1930)を合作。ヒッチコックの『白い恐怖』(1945)に協力したほか、版画、宝石デザインも手がけた。89年1月23日生地フィゲラスで没した。