さて、
49代表が出揃った今回の全国高校野球選手権大会。
大会の展望に移ってみましょう。
【第92回全国高校野球選手権大会 大会展望】
圧倒的な力誇る興南が、春夏連覇の偉業に挑む
多士済々な有力校が打倒誓い、混戦演出か
92回を迎える夏の甲子園。
毎度言われることだが、『強いチームが勝つのではなく、勝ったチームが強い』。
有力校が優位といわれる大会の中にあっても、思わぬチームが勝ち進み、勝ち進むごとに勢いを増してくるケースは、まま見られる現象である。特に夏の大会は地方大会での疲労をどう取り去って、故障なく甲子園を迎えることが出来るのかということが、大きなカギとなってくるのはいうまでもない。
そのことからも、7月中旬には代表校が決まる沖縄代表は、地方大会決勝から甲子園初戦まで3週間ぐらいの間が開くので、疲れを残さないで大会入りできるというアドバンテージがある。
しかしながら、3週間あくことによる試合勘のズレから、初戦で力を出し切れないケースも見受けられ、功罪合半ばといった感じだ。
今年の沖縄代表は、今大会でも優勝候補の筆頭に挙げられる選抜優勝の興南。
怪腕・島袋を擁して、その戦力は他校を圧倒している感さえある。久々に見る『ガチガチの優勝候補』といったたたずまいだ。
今大会は、この興南を中心に繰り広げられることが必至。興南としては、出来れば2回戦からの抽選を引き当てたいところだろうが、ガチンコ勝負をすれば引けを取る学校は見当たらないので、余裕で本大会に入っていければ春夏連覇も十分に狙える。心配は島袋のスタミナを含めた調子だろう。しかしながら、選抜よりも1枚も2枚も上になった攻撃力も、いまや興南の大きな武器のひとつ。沖縄勢初の夏の大会制覇は、春夏連覇という偉業付きになるかもしれない。
興南を追う有力校は、鋭い武器を持って戦いに挑む
しかし、興南、興南とばかりいっていても始まらないので、追っていく学校をピックアップしていく。
今年の傾向としては、有力校は投打のバランスが取れているというよりも、投、打、守などに秀でた”飛び道具”を持っているという印象が強い。バランスよりも強みを生かした戦いぶりで、興南に迫っていくことが出来るのか、注目される。
その中でまず名前が挙がるのは、広陵だろう。エース有原が6月に故障を発生してあわてたが、それも地方大会を見る限り大丈夫なようで、強力な打線とあいまって有力な優勝候補だ。とにかく腹の据わった攻守を見せる広陵は、どっしりとどんな展開になってもあわてないところが特徴。大雨の中での敗戦となった選抜準決勝の日大三戦をいい教訓にしてチーム力をアップさせてきた。3年前の忘れ物を取りにいく夏に出来るか。
連覇を狙う中京大中京も戦力は充実。昨年より破壊力は落ちるものの、磯村、森本を中心とした打線の破壊力は折り紙つき。エース森本を心配する声もあるが、打線がしっかり支えるチームだけにさほど心配は要らないだろう。打ち合いになったときは無類の強さを発揮する。打線といえば智弁和歌山も忘れるわけにはいかない。4番西川を中心とした豪打は、地方大会ではなかなか機能しなかったが、もともとの照準を甲子園に合わせて鍛え上げるチームだけに、ベテラン高嶋監督には”秘策あり”だろう。
選抜で"優勝候補筆頭"と目されながら思わぬ初戦敗退を喫した東海大相模。しかしその"苦い薬"を糧にチームを立て直し、33年ぶりの夏をつかんだ。エース一二三は横手投げに変えて球威は落ちたものの、それでも140キロ前半の速球を誇る。ヒジを下げたことでかえって右打者にはとても打ち返せないような内角の球が生きるようになって来た。無用な四死球から崩れなければ、大量失点は考えられないだろう。打線も得点力が高く、守備の破綻さえなければ覇権を争うのではないかと見ている。真価を見せる夏になるのか。
今年こそ大旗の白河越えを狙う東北勢では、2校が素晴らしいチームに仕上げてきた。まずは4年連続の夏となった聖光学院。今年のチームは、過去のどのチームよりもバランスが取れ、全国制覇もあながち夢ではないと思わせるほどの充実振り。歳内、芳賀を中心とした投手陣は簡単に失点を許さない。自慢の打線が甲子園の好投手に相対したときに爆発すればとの条件付で、有力な優勝候補に推す。仙台育英は、2年前にベスト8入りしたときのエース・木村が成長してマウンドに君臨。147キロを記録する速球は迫力満点。また、控えにも同じ力を持つ右腕田中が控えており、投手力は万全となっている。やや湿っている打線が心配の種だが、上位進出の力は十分だ。あとは強豪を葬り去った後、しばしば甲子園で見せてしまう”エアポケットに入った試合でなんとなく敗戦”という悪癖が出ないのを祈るばかり。
名門2校も、展開がはまればのチーム力を持つ。
まず春はあっさりと甲子園を去った天理だが、元々力を持っているチーム。全国制覇の経験もある名将・森川監督の復帰で、打ちまくって覇権を奪回するつもりだ。投手陣も3~4枚をそろえ、連戦に強さを見せる豪華な陣容が出来上がっている。夏は6年ぶりの登場となる明徳義塾は、反対に”攻撃的な守備”が持ち味。もともと明徳の守備は他校と比べてぬきんでている印象だが、今年は更に上を行く。難敵との対戦となった県大会の準決勝、決勝をあっさり連続完封で切り抜けてきた力は侮れない。かつてのチームより派手さはないが、その分負けにくいチームになって甲子園に挑む。
Aクラスチームとそん色ないチームがゴロゴロ
上記にあげたAクラスのチームも、興南以外は絶対の力を持っているわけではない。追い上げるチームはまさに多士済々。面白いチームが多く、大会を盛り上げていきそうだ。
まずは春の近畿を制し、今大会でも神戸国際大付属を破った報徳学園。攻守共に洗練されており、2年ぶりの8強進出、そして更にその上を狙う。1年生エース・田村の右腕に注目が集まる。同じ近畿では、悲願の夏制覇を飾り甲子園に登場する履正社も、3本柱の投手陣と爆発力のある打線が看板。上位進出を視界に入れる。
九州では鹿児島実の実力が高い。2本柱の投手陣を軸とした守りの野球だ。守りの野球と言えば、西日本短大附も忘れるわけにいかない。球威とコンビネーションのエース森が抜群の安定感。打線も勝負どころを良く心得ている。
関東では、前橋商の評判がいい。小柄な左腕・野口の安定感とプロ注目の後藤を中心とした打線はAクラス。もしかしたらの期待を抱かせる戦力だ。早稲田実も鈴木・内田の投手陣に小野田・土屋の中軸と、芯がしっかりとしたチーム。斎藤以来の夏登場だ。打線の関東一・中川擁する成田も好チームだ。
北海道の北照は選抜ベスト8。エースで4番の又野に注目だ。東海・北陸では遊学館の"野球力"に期待。甲子園で怖い福井商にも評価が集まる。常葉橘は連続出場。去年の3回戦進出越えを狙う。
近畿では北大津の"大物食い”ぶりが楽しみ。京都外大西も”勝てる”チームだ。145キロを投げる南陽工・岩本は、昨選抜でその豪腕は実証済み。監督交代で一新の開星の戦い方にも注目が集まる。
一発を狙うチーム。1勝を狙うチーム。
波に乗れば面白いチームも数多くいるのが、今大会の特徴だ。
北から見ると、東北では青森山田を破った八戸工大一が面白い。穴の少ない攻守が見もの。関東では、本庄一のバント攻撃が面白い。岐阜の土岐商の大物食いぶりも楽しみ。宇和島東・鳴門の四国勢は接戦得意。長崎日大や延岡学園、九州学院などの九州勢は、持っている力を十分に発揮で切れば上位も見えてくるだろう。
そのほかでは、投手力で勝負の、山形中央、佐野日大。打力では、水城、新潟明訓、英明らの評判が高い。総合力で勝負は、一関学院、いなべ総合。砺波工も高い総合力を持つチームだ。3年連続出場の倉敷商の戦いぶりや、粘りに粘る日川、八頭らの戦いぶりも見ものだ。佐賀学園、大分工の九州勢は、いつもながらに何かやる雰囲気に満ちている。
いずれにしても、組み合わせによってかなり変わってくるのが常。Aランクのチームにとっても、評判は高くなくともやりにくいチームは、いくらでもあるだろう。大物食いのチームが、自分より実力が下と思われるチームには凡戦をしてしまうということもよくある。
『やってみなければわからない』のが高校野球の定説。
意外なチームが波に乗って勝ち上がるのか、それとも評判の高いチームが、その通りの実力を見せ勝ち上がるのか。興味が尽きない大会が8月7日に幕を開ける。