この幻のアルファロメオのことを知っている人は、恐らくそんなにたくさんは居ないのではないかと思います。
その名は、アルファ156コローニS1。
西暦2000年に誕生したこのマシンは、このような外観のものでした。
見た目はアルファロメオ156の面影を留めていますが、中身は全くオリジナルのレーシングマシン。
シャーシはアルミ合金製のスペースフレームとカーボンモノコックが組み合わされ、サスペンションはダブルウィッシュボーン+プッシュロッド形式で…
当時オープンホイールのフォーミュラカーとしてF-1のすぐ下のクラスだった、国際F-3000のものを流用。
それにオールカーボンファイバー製のカウルをかぶせたもの。なので、当然シングルシーター=単座で、シートは中央にありました。
ブレーキはカーボンとチタンを使用したブレンボ製のもの。ホイールは前後ともに18インチの、OZ製マグネシウムホイール。
トランスミッションはヒューランドとコローニが共同開発した6速シーケンシャルで、ステアリングにパドルが付いていました。
そんなマシンが「アルファロメオ」と呼べるのか?と言うなかれ。
エンジンはアルファが誇る伝統の名機「ブッソV6」をチューンアップした、自然吸気3.0リッターV6エンジン。
10000回転で最高出力500馬力+αを絞り出すものでした。
それをミッドシップで縦置きに搭載。
車両重量が900kg(実際は890kgとも)と極めて軽量。そのため...
最高速度は340kmオーバーとされ、0-100kmまでの加速が、なんと2.0秒フラット!ちなみにその年のF-1で、シューマッハがドライブしてチャンピオンとなったフェラーリF1-2000でさえ、0-100加速は2.3秒とされていますから...
F-1以上の加速を誇るモンスターマシンだったのです。
ちなみに、0-100加速で2秒の壁を破るマシンは、実車が製造されたガソリンエンジン車としては、現在に至るまで登場していません。
(直線加速のみを競うストックカーは除いて)
つまり、アルファ156コローニS1は、ガソリンエンジン車として史上最速の「ハコ車」であると言っても差し支えないでしょう。
もともとこのマシンは、レーサーで後にレーシングチームオーナーとなったエンツォ・コローニと...
ドイツにおけるアルファ、フィアット、ランチアの代理店の社長であったクリスティアン・ペルッツィがタッグを組んで...
当時密かに計画が進んでいた、FIAでグループEと呼ばれるフリーフォーミュラの中の、新しいカテゴリーの発足を見込んで開発されていたものでした。
しかし実車を1台完成させたところで、プロジェクトリーダーのペルッツィが事故死してしまい...
カテゴリー自体の発足も立ち消えとなったため、この世にたった1台しか存在しない、幻のマシンとなったのです。
なのでその実車が走行しているところを目にした人は少なく、ほぼ忘れられた存在となり、熱心なアルフィスタでも知る人は多くないと思います。
2015年にオランダのTTサーキットで1度クラッシュしたものの、その後修復され、現在は個人蔵となってオランダで保管されていると言いますが…
そのありかを正確に知る人はほとんどおらず、本当に「幻のマシン」となってしまいました。
その貴重な勇姿を見ることができる動画をいくつかご紹介します。
まずはティザー映像。こちら。音量にご注意。できればイヤホンを使用されることをお勧めします。
どうですか?V6なのに、フェラーリのV10やV12エンジンみたいな、素晴らしいサウンドを奏でているでしょう?
次はこちら。南アフリカ、ツヴァルコップス・レースウェイで行われたモータースポーツイベントに参加したときの、オンボード映像です。
他の全てのツーリングカーやGTマシンを、スリップストリームなど使うまでもなくバンバン引っこ抜く様はまさに別格、異次元の速さです。
最後はこちら。南アフリカ、ケープタウンのキラニー・インターナショナルレースウェイで行われた、いろんなマシン混走のレースに出たときの姿。
このマシン唯一の、レース中のシーンです。
ドライバーは元F-1ドライバーのヤン・ラマース。88年、シルクカット・ジャガーXJR-9に乗ってルマン24時間に優勝した人でもあります。
インタビューでは「とてもスペシャルな車で、クラッシュさせるといけないから80~90%の力で走る」と言っています。
結果は惜しくも僅差の2位になりましたが、思い切り走るか、またはもう1周あったら優勝、という内容のレースでした。
いかがでしたか?
知られざるアルファの逸話だったのではないかと思います。
いつかこのマシンを、ヨーロッパヒルクライム選手権あたりで見られたらどんなに素晴らしいでしょうか。
そんな日が来ることを願いつつ。