昔、ある村にぐうたら太郎と呼ばれる若者がおった。村人が一日中、田や畑をたがやし作物を作っているのに、太郎ときたら、朝、ぶらりと散歩に出かけ日が暮れる頃、帰ってきて、酒を一杯「ぐいっ」と飲み、飯を一杯「かぽっ」と食って眠りにつくのだった。村人達が「わしらと一緒に前の田畑で働いたらどうだ。」と言っても、太郎は笑って「俺には俺の考えがあるんじゃ。」と、また散歩にでかけるもんで、みんな「ほんとうにぐうたらな奴じゃな。」と、あきらめていた。
そんなある年、突然、嵐がやってきて3日3晩、村を雨と風で苦しめた。今までに誰も見た事のない洪水で田や畑はすっかりあれはてて、苦労して育てた米や野菜は全て流され、村人は途方に暮れた。4日めの朝、太郎はいつものように散歩に出かけたのだが、日が暮れる頃帰ってきた太郎を見て村人は一様におどろいた。太郎は荷車いっぱいに米や野菜や魚までもつんできて、それを村人みんなに振る舞ったのだ。
「どうしたんだ太郎、こんなにたくさんの食い物を・・いったい」と聞くと太郎は笑ってこう言った。
「確かに目の前の田んぼや畑で作物を作るのは、やりやすいしたやすい事だ。でも災害はいつやってくるかも知れん。そう思って俺はこの先のお山のうえで米と野菜を作ってたんだ。」
「魚は山の向こうの隣り村で獲れたやつだ。米と野菜の一部で交換してもらったんだ。」
村人達は感心して言葉もだせなかった。・・・・・・
その後、この村は二度と天災に泣く事はなかったといいます。
かつてリーダーと呼ばれた男、ぐうたら太郎のお話。
おしまい。