歎異抄を読むため、「ちくま哲学の森」第三巻を読み、第一巻から読みたくなり、いきなり第一巻より衝撃的な歌に出会った。
- 真命(まいのち)の極みに堪(た)えてししむらを敢(あえ)てゆだねしわぎも子あわれ(十三)
- これやこの一期(いちご)のいのち炎立(ほむらだ)ちせよと迫りし吾妹(わぎも)よ吾妹(わぎも)(十四)
- ひしがれてあいろもわかず堕地獄(だじごく)のやぶれかぶれに五体震わす(十五)
これらははつ子が死ぬ前の日の夜のできごとを、百日忌もすぎたその年の暮れに歌にしたもので、(後略)。(前略)わたしのように肉体と精神とを分離して考えることなどとうてい不可能な人間にとっては、誇りもなければ卑下もなく、これでいたし方なく、これでぎりぎりなんだとつぶやくよりほかに手段はない。
吉野英雄(1902-1967)「前の妻・今の妻」(昭和40年発表、随筆集「やわらかな心」(昭和41年)収録)
引用は、「恋の歌」<ちくま哲学の森1>ISBN4-480-30001-5から。