投資家の目線

投資家の目線970(変貌する欧米)

 欧州で農民のデモが治まらない。 デモの原因は、2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロを目指すために農薬や肥料の使用量の大幅な削減などを含む欧州連合(EU)主導の「欧州グリーンディール」にあるとされ、農家は「農薬などの使用量を大幅に減らせば雑草や病害虫が増え、一定面積当たりの収穫量(単収)が落ち込む」(『欧州各地でトラクターが道路を次々閉鎖、勃発した「農業危機」の真相』 2024/2/9 Forbes JAPAN)と反発しているという。農業経営を破壊するEUは、欧州農民の敵となった。 よって、EUの敵視するプーチン大統領率いるロシアは、「敵の敵」という意味で欧州農民にとっては味方になる。 メローニ氏を首相に選んだイタリア人民も、EUに唯唯諾諾と従う政権を望んだわけではあるまい。

 

 ドイツでは化学企業の人員削減が行われる(「独BASF、国内工場でさらにコスト削減、人員削減へ」 2024/2/26 ダウ・ジョーンズ配信)。 ドイツはアルジェリアからパイプラインで天然ガスを輸入するというが(「ドイツが史上初めてアフリカ大陸と連結。ガスのパイプラインで。 脱ロシア、イタリア復権とEU水素回廊」 2024/2/26 今井佐緒里)、ロシアの天然ガスに比べて価格が高ければドイツ工業の競争力は以前より低下するだろう。 ドイツは、米国の商業用不動産価格下落で金融機関が影響を受けただけでなく、同国自身も不動産が危険な状況のようだ(”German Property Slump to Widen Office Quality Gap, Moody’s Says” 2024/2/28 Bloomberg)。

 

 英国でも不動産業は不振に陥っているようだ。 南アフリカのデベロッパーが2017年に1億1000万ポンド(約209億円)で購入したロンドン市内の高級地区の敷地が、去年約3000万ポンド(約57億円)引きで売却されたという(「期待外れたロンドン高級地区、建設業者が敷地売却で57億円超の損失」 2024/2/28 Bloomberg)。 また英国では自治体が破産の危機にあり、あらゆる支出を削減している(“UK Towns Are Going Bankrupt. Here’s What’s Gone Wrong” 2024/2/29 Bloomberg)。 英国はウクライナなぞに肩入れしている場合なのか?

 

 米農務省の最新データによると、消費者は2022年、食料品価格上昇のせいで可処分所得の11.3%を食費に充当と、1991年の11.4%近くまで上昇しており(「【焦点】米国民の家計むしばむ食費、価格高止まり」 2024/2/26 ダウ・ジョーンズ配信)、株価上昇にもかかわらず、米国人民の生活は苦しい。 さらに、「現在、一般的な住宅を余裕を持って購入するために必要な金額は約10万6500ドル。これは米国の一般的な世帯の年間収入(約8万1000ドル)をはるかに上回っている」(「【市場の声】米住宅購入に必要な所得、20年から80%上昇」 2024/3/1 ダウ・ジョーンズ配信)と、多くの人民は住宅購入の夢も持てない。

 

 クレジットカード会社アメリカン・エキスプレスのCFOによれば、中小企業の顧客は支出を減らしているという(「【市場の声】米中小企業の支出に鈍化の兆し=アメックス」 2024/2/27 ダウ・ジョーンズ配信)。 カナダの年金基金は3件の不動産持ち分を割安な価格で売却したが、マンハッタンのオフィスビルの持ち分29%は、1ドル(約150円)で売却されたという(「オフィス不動産を1ドルで売却、年金基金が映し出す投資家の不安」 2024/2/28 Bloomberg)。 ニューヨーク市の不動産リスクは、同市の不動産のエクスポージャーが大きい地方銀行は株価下落に見舞われている(「【MW】NYCB急落、米地銀株が連れ安 NY市不動産リスク警戒」 2024/3/2 ダウ・ジョーンズ配信)。 トランプ前大統領の事業に対するニューヨーク州地方裁判所の巨額の罰金判決の影響もあるのだろうが、NYダウに採用されていない企業の経営状況はよくないようだ。

 

 カナダでは、経常収支の問題に対してエコノミストから警告が上がっている。 「BMOキャピタル・マーケッツは、カナダが昨年、海外直接投資で530億カナダドル、ポートフォリオ投資収支で210億カナダドルの赤字を計上したとも指摘。これらの赤字は短期性の通貨と預金の流入によって賄われたと述べている」(「【市場の声】カナダ、経常収支が不安定に エコノミストらが警告」 2024/02/29 ダウ・ジョーンズ配信)。 逃げ足の速い短期性資金に頼ることは、カナダが通貨危機に陥るリスクが大きくなることにつながるのではないだろうか?

 

 オランダやカナダ、米国の一部の州など、安楽死を合法化するくにが出てきている(『安楽死の合法化で「滑り坂」が起きる? 安楽死制度を選択するオランダ社会の背景にある「自己決定権」を倫理学者が解説』 2024/2/15 弁護士JPニュース)。 地球の人口は多すぎると考える勢力は推進派かもしれないが、自殺を禁じるキリスト教(他の宗教にもあるが)の影響の強い欧州や米大陸で安楽死の選択が増えることは、信仰がないがしろにされているようにも見える。

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