半澤正司オープンバレエスタジオ

20歳の青年がヨーロッパでレストランで皿洗いをしながら、やがて自分はプロのバレエダンサーになりたい…!と夢を追うドラマ。

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第53話

2019-02-22 08:52:16 | webブログ
おはようございます、バレエ教師の半澤です!
皆様、告知です。2月の24日(日曜日)のレッスンは急用のため、
朝9時から11時までの1レッスンのみになります。どうぞよろしくお願い致します。

通常の平日は朝は11時から初中級レベルのレッスン、夕方5時20分から初級レベルの
レッスン、夜7時から中級レベルのレッスンがあります。
皆さま、お待ちしております!

インスタグラム https://www.instagram.com/hanzawashoji_openballet/?hl=ja
ホームページ半澤正司オープンバレエスタジオHP
(オフィシャル ウエブサイト) オフィシャルサイトハピタス
その買うを、もっとハッピーに。 | ハピタス
皆様、2019年12月26日(木)に私の発表会があります。
もし、良かったら出演してみませんか?バリエーションでも良いですし、
グランパドドゥでも良いですよ!もちろんコンテンポラリーでも
良いですし、オペラでも舞台で歌います?
どうぞ、どんどん出演してください。
私のメールアドレスです。
rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

連絡をお待ちしてますね!!

Dream….but no more dream!
半澤オープンバレエスタジオは大人から始めた方でも、子供でも、どなたにでも
オープンなレッスンスタジオです。また、いずれヨーロッパやアメリカ、世界の
どこかでプロフェッショナルとして、踊りたい…と、夢をお持ちの方も私は、
応援させて戴きます!
また、大人の初心者の方も、まだした事がないんだけれども…と言う方も、大歓迎して
おりますので是非いらしてください。お待ち申し上げております。

スタジオ所在地は谷町4丁目の駅の6番出口を出たら、中央大通り沿いに坂を下り
、最初の信号を右折して直ぐに左折です。50メートル歩いたら右手にあります。

日曜日のバリエーションは眠りの森の見所から妖精リラのバリエーションです。
ではクリスタル・ルームでお待ちしておりますね
連絡先rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第53話
ふと、周りを見れば向こうに大樹があった。「何て
大きな木なんだろうか…!」と呟き腰を上げてその
木の周りを歩いてみると、反対側の木の根元に大きな
穴が空いていた。
人が入れそうなほど大きな穴だった。「何じゃこりゃ…」
暫く穴を見つめていたショージはその穴が丁度自分が
寝るのに相応しい感じがした。

夜も大分と更けて来たのでショージは寝袋の初デビューを
この木の穴で試す事に決めた。「旅をすると一番費用が
掛かるのはホテルだ…折角この素晴らしいアイテムを
どうして僕は使わないのだろう…?よし、これが本当に
素晴らしい物なのかどうかちょっと試してみなければ
いけないな…レッジオエミリアで登山家愛用の登山グッズ
店のオーナーがマイナス24度まで対応してるんだぞ!
って自慢してたもんな…」

木の穴の中は意外に…おお~っ!?

ベンチの上に置いていた大きなバッグを木の近くまで
持って来ると、まだ新品の寝袋を取り出し広げた。
コンパクトに畳んで仕舞っていた寝袋は空気を吸い込み
ながら、ぶわっと膨らみ大人一人が十分に入り込める
大きさに広がった。電車の旅は窓の外に景色が流れ、
車や飛行機よりも快適だったが、時間が長く掛かるのと、
重いバッグを抱えて歩き周っていたせいで身体が
とても疲れた。

早速、身体を寝袋の中に滑り入れ、頭から木の穴に
入れて行くと身体の上半分は木の中にすっぽり入った。
しかし完全に寝込んでしまうと大切なバッグが誰かに
持って行かれるのではないかと心配になった。細い
ヒモで足元の先にある寝袋の穴に結び付けて置いた。
これでもし誰かがバッグを引っ張ろうとすればショージに
伝わる。大事なバッグを盗まれる訳にはいかない。
 
穴の中は夜と言う事もあり真っ暗であったが、目が
慣れてくると少しずつ見えて来た。木の温もりが
伝わってくるようで快適とは程遠いが一晩は過ごせ
そうだ。「ん、?何か、ガサガサ…」と音が聞こ
えた。それは紛れもなく木の中で鳴った音だが、
「…?カチャカチャ…え何だ?」目を凝らしてジーッと
見つめると、とんでもなく大きいゲジゲジと呼ばれる
ムカデが穴の上の方に上がって行くのがはっきりと
確認出来た。ショージは「うわ~っ! 」と叫び声を
上げ、一気に木から脱出しようとした。
 
だが身体の動きがままならなかった。何故なら顔の
部分だけを出して呼吸がちゃんと出来るようにし、
全身をすっぽりと包んだ寝袋の紐を顎の下できつく
締めておいたのと、大きなショージのバッグを紐で
寝袋に直結しておいたからだった。ショージは
寝袋のまま芋虫のようにうねうねさせながら、
100本足の劇太のムカデから逃げようともがいた。
猛毒を持ったこの巨魁虫に刺されでもしたら命の
危険もある。急いで寝袋の紐を緩めてバッグを外し
穴から出た。心臓が破裂しそうなほど恐ろしかった。
まじまじと木の穴を見つめた。

真冬のドイツの寒さは日本の気温とは比べられない
ほど厳しい。公園を見回した。ここ以外に寝れそうな
場所は他にない。かと言ってムカデと伽をするのは
非常に難しい。しかし朝まで我慢してここで寝れば
ホテル代金は掛からないのだ。懐の寂しいショージは
考えた挙句、もう一度この穴の中で寝る事に決めた。

今度はもう一度全身を寝袋に入れ、足の方から木の
穴の中に入って下半身を入れた。寝袋は羽毛で空気を
沢山吸ってパンパンに膨れ上がっているからゲジゲジ
にも刺されることはないだろうと思ったのだ。
上半身は外になった事から今度はバッグを枕のように
して寝る体勢になった。「まさかあのムカデは木から
這い出て来て僕の顔を刺す事はないだろうか…」
不安にかられたが背に腹は代えられないと腹を括った。
睡魔が襲いそて一気に熟睡へと入って行った。ところが…
(つづく)



ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第52話

2019-02-21 08:46:30 | webブログ
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
1985年 12月 極寒対応の素晴らしき寝袋!
第52話
12月も半ばを過ぎた。レッスンの後、マリネル氏が
「クリスマス休暇の間も各々ダンサーとして自己管理
をするように!」と注意事項を言い終えると、
入れ替わりに秘書が順番に秘書室に来るようにと
伝えた。「どうしてだろう?」ブルティーニが
英語で「クリスマスボーナスが貰えるんだよっ!」
とルンルンしている。「ボーナスだって?やった~っ!」
1年間で12ヶ月分の給料の他に1カ月分余分にボーナスが
あって、そのうち3分の2は夏に、3分の1がクリス
マスにボーナスとして出るらしい。
ショージには思いもよらなかった事である。嬉しさで
いっぱいになった。

 冬休みになり、あらかじめ用意していた荷物を
持つと旅行サービスセンターに行ってみた。インター
レイルという1ヵ月の列車旅行のオープンチケットを
買った。店員に「特急料金は含まれておりません」と
注意を受け、レッジオエミリアの駅に来ると、
「5分後にミラノ行きの列車がプラットフォームに
入ります!」という慌ただしいアナウンスが流れた。
ショージはこれから列車で旅に出るのだ。

3日掛けてスイス、オランダと旅をした。オランダの
首都、アムステルダムではヘット国立バレエ団の公演を
見た。その素晴らしさが目に焼き付いた。「このバレエ団に
入りたい…いつかここにオーディションをしてみたい!」
その後イギリスに船で渡ったのたが、残念な事に入国は
出来なかった。ショージの貧相な格好と片道切符がまたもや
入国審査で許されなかったのだ。それだけではない。
イギリスのパスポート検査官から「あなたはこの国の地を
踏む事は許されない。そしてこの2人と共にオランダへ送り
返します」と警察官に腕を握られ、まるで犯人扱いされて
船室に戻されたのだ。

船の前にキャプテンが立っていたが、警察官2人が
目配せするとキャプテンも頷いた。ショージは心の中で
叫んだ。「僕は何もしていない!どうして犯人扱い
するんだ!?」オランダに着くとこの警察官は
ショージから離れて行った。ショージはイギリス大使館に
行き、この扱いに抗議をしたが「運が悪かったのですね…
諦めてください。稀にこういった事があるのです。」
と言われただけであった。

この時、ショージは初めてイギリスに来た際、檻の付いた
独房に入れられた事を想い返した。「そうだ…僕は
ロンドンを離れる前に誓ったはずだ…二度と片道切符で
イギリスには行かないと。なのに何故、僕は学習しない
男なのか…」肩を落として再びアムステルダムの街中まで
戻って来た。

「これからどうしよう…」地図を見ていると一つの場所に
目が留まった。「シュツットガルトか…」そこには有名な
大きなバレエ団があった。「よし、行ってみるか!」
再び列車に乗りシュツットガルトに向かった。
アムステルダムの市内からシュツットガルトバレエ団へ
電話したのだが繋がらなかったため、もう直接訪ねる事に
した。シュツットガルトに到着し列車から降りると寒さで
手がかじかんだ。

「まだまだ旅は続くのだけれど残りのお金はどれくらい
あるんだろう?」財布を出して中身を確認してみた。
「これではあちこちに行くのにはとても心許ないな…」
夜中だと言うのにショージは劇場方面へと歩いて来た。
そして劇場の位置を確認すると、また歩きながら寝る所を
探さなければならない。すると目の前に割合大きな公園が
現れた。ショージはバッグをベンチに置いて少しの間
休憩する事にした。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第51話

2019-02-20 08:46:21 | webブログ
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第51話
次の朝、バレエ団の玄関に着いてビックリした。イギリス人の
ロバートが「やあ…!」と立っていたのだ。ロバートは
イギリス人でも小柄な男で、身長はショージとほぼ一緒
だが骨格はがっしりしていた。ロンドンでのオープン
バレエレッスンで知り合い、いつも仲良くしていたが
彼はイタリアのバレエ団のオーディションに落ちて
しまった。その悔しさと、仲の良かったショージと
離れる事を寂しがり、ロンドンで別れ際には
ショージの前では見せた事のない涙を流しさえした。

 ところがそのロバートが遥かロンドンから、イタリアの
小さな街レッジオエミリアに突然現れたのだ。ショージは
驚き、そして懐かしさのあまり「どうしたの、何故ここに?」
と聞くと、「僕は決めたんだ!ここのバレエ団に何でも
するから裏方の仕事を手伝わせてくださいと頼むんだ。
ただ、その代わりと言っちゃ何だがレッスンだけは一緒に
させて下さいと交渉するのさ!」

ショージは耳を疑い「は? そんな事出来んの!?」
ロバートは「何でも物事は交渉次第さ!今から早速、
掛け合いに行く!」と事務所へ向かった。 ショージは
呆れたが更衣室で着替えて、稽古場でウォームアップを
していると、ロバートが満面の笑顔でレオタードに
着替えて入って来た。「ありゃ!その格好は…!?
それでどうなったの?」ロバートはショージに言った。
「僕はこのバレエ団の美術部で雇って貰えたし、レッスンも
オーケーさ!ただし、給料はとても少ないけどレッスンが
受けられると言う事で商談成立だ! 問題は寝る所だよ…、
じゃ、そこんとこショージ、 宜しくな…!」「は? 」

人間、どこでどうなるかわからないとはいつも思って
いたが、まさかこんな事があるのかとショージは
ロバートをまじまじと見つめた。夕方のレッスンと
リハーサルが終わり、急いでアパートに帰るとランドル、
ロバートの順番で夕食を作りショージは最後に作った。
ショージはフライパンでチキンを焼き上げたり色々な
料理に挑戦するので時間が掛かる事から最後に回される
のだ。あまり好きではない豆料理もプロテインを補給
するために調理したが、ショージの考える料理法では
美味しくは作れなかった。

遅めの夕食を食べ終えると決まって商店街を散歩した。
「ああ、とても寒い…」冬の時期のレッジオエミリアは
ネビアという真っ白な深い霧が出る。1メートル先も
見えなくなるほど幻想的でショージは大好きだった。
散歩をする時には必ずウォ-クマンを携え、ヘルベルト・
フォン・カラヤンが指揮する「アルビノーニ」を聞き
ながらベルリンに行く日を夢見た。

ある日、ショージがアパートに帰って来るとイギリス人の
ロバートが満面の笑顔で、「ショージ、やったぞーっ!
僕の思っていた通りさ!だから言ったじゃないか、
やったぞ、バレエ団に入ったんだよ!」「え~っ!?
おー、ロバート!流石はイギリス陸軍の父を持つ男よ、
君はとうとう狙い通りにやってのけたのか…!人間、
何処でどうなるか分からないって思っていたけど凄いな!
やってのけたのかロバート!」
(つづく)



ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第50話

2019-02-19 08:34:16 | webブログ
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初めての給料!
第50話
日本で世話になった六本木のクラブ「愛」のママ。
バイト先のママであったがショージが母親の様に
慕っていた人だ。限り無くショージを応援してくれ、
今でもきっと心配してくれているに違いなかった。
ショージは劇場の前の公衆電話まで走り、貰った
給料の一部で電話をしようと気が急いた。電話が
繋がり「愛」のママの声が聞こえて来た。

嬉しさで何から話していいのか分からないショージ
だった。「ああ…この声さえ聞けたらもう何も
いらない…」そう感じた。涙が溢れてきて、公衆
電話に入れる電話専用硬貨ジュトーネと呼ばれる
コインがあっと言う間に流れ落ちて行ってしまう。
電話の向こうでは必死にママが話しかけてくれて
いた。ジュトーネは終わってしまい残念ながら電話は
そこで終わってしまった。

部屋に帰り、買ってきた便箋に下手な字で手紙を
書き、無事と現在の状況を認めた。イタリア語も
分からず英語も分からない。只、踊りだけがイタリアで
生きていける唯一の支えと生きがいであった。残った
給料を持って食料の買い出しに市場へ行き、ざわついて
いた人々もショージの顔を見ると凍りついたように
ショージの顔を見つめた。しかしショージには
こう言った事は慣れてしまった。イタリアの田舎町では
ショージのようなアジア人がいないのである。だから皆、
一応にショージの顔を珍しがって見入ってしまうのだ。
だが、案外に話しかけると今度は楽しそうに魚の名前や
金の勘定の仕方をイタリア語で教えてくれるのも
この人たちであった。

レッジオエミリアに降るネピア

イタリアに来て、半年が経った。今ではイタリア語も
随分と喋れるようになり、市場の魚屋のおばちゃんや
八百屋の親父とも仲良くなり、劇場の周りのカフェで
働く人たちとも友だちになる事が出来た。カフェの
経営者、兼ウェイターのロベルト兄弟の二男のロベルト
はいつも笑顔で話しかけてくれた。ある日そのロベルト
が大きなオートバイに乗って来て「ショージ、
乗るかい?」と誘って来た。ヘルメットも貸して
くれ後ろにショージを乗せてレッジオ エミリアを
一周した。普段は歩いて通う道も大きな900ccの
オートバイに乗れば、あっという間に一周出来た。
ロベルト兄弟はフランス人の父親とイタリア人の母親で、
まだ20代の優しい青年たちだった。

ショージが仲良くしているレコード屋の若い男とも
友達になる事が出来た。この若者は父親の後を継いで、
大学卒業後に「好きな音楽が聴けるからレコード屋を
やっていると楽しい!」と言っている。英語がとても
達者な若者だった。このレコード屋の若者との知り合う
切っ掛けは実はランドルの発案で、普通にレコードを
買うには値段が張るしアパートにステレオがない事
から店でカセットテープを買う代わりに好きに選んだ
曲をダビングして貰えないかとランドルが交渉した
のだ。そして値段も本来のレコード価格の半額と
普通では信じられない交渉をやってのけたのであった。

店の若者はショージにも「良かったら君にもダビング
してあげるよ」と言った。ショージにとってはこれは
とても助かる事であった。 そこで、ショージは
ナルシスコ イエペス演奏(クラシックギタリスト)の
「スペインの庭」というレコードと、ラフマニノフの
「交響曲第2番」のダビングを頼んだ。数日後に取りに
行き、ウォークマンで聴いてこの曲が如何に素晴らしい
ものであるか感動した。そして「いつか、スペインにも
行ってみたいな…」と小さな夢を心に描いた。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第49話

2019-02-17 08:38:05 | webブログ
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
正に究極の振付!
第49話
イタリア到着以来、数日が経った。長いレッスンが
終わって、30人ほどの団員たちの身体中から汗を
吹き出しているが、ショージはと言えばほとんど
身体が自分のものではないほどくたくたで倒れる
寸前だった。ランドルを見ると声を出さずに口パク
で伝えて来た。

「オー、マイ、ガーッド…!」ショージも横目で
頷きながら、体が動かない。マリネル監督が
イタリア語で「20分後にリハーサル開始!」
と全員に伝えた。振り付けはストラビンスキーの
「春の祭典…人間創世」だ。太陽の神や水、空気
などの踊りの後に類人猿…つまりアウストラロピ
テクスのような、ほとんど猿の群れのような動きを
習うのだが一糸も乱れてはいけないらしい。
しかも激し過ぎる踊りであるにも拘らずにだ。
ショージはクラッシックの技法に基づいた振付を
想像していたのだが、いざ、その振り付けになると
数十人の男たちと女たちが一斉に身体を折り曲げ、
全員で4足歩行になり、右の足と右の手を同時に
前に出してナンバ歩きをしながら右左の腕と足を
床にダッダッダッ!!と高速で叩きつける。全員が
同時に真横に進んだかと思えば今度は前進した。

監督が大声で叫んだ。「そのまま後退しろ!」
気絶しそうなほど辛い姿勢での大驀進であった。
2時間たっぷりのリハーサルをすると、誰もが
もう疲れ果てて言葉さえ出なかった。ランドルも
ショージも互いの顔を見たくとも2人とも白眼を
剥いて「おえっ!」としながら吐き気をこらえて
いた。
 
それを終えると4時間ほどの休憩時間がある。
団員たちは車でさっさと自宅に帰って行く。
ショージとランドルはバスで市内まで戻り、
大衆レストランでセルフサービスランチを摂った。
イタリアと言えばパスタの本場だ。色々なパスタ
があり、スープも様々でメインも羊や牛肉、
ポークにチキンが所狭しと並んでいる。この
2人は秘書に頼んで給料を先払いしてもらって
いた。そのお蔭で好きな物が食べられるこの
幸せを充分に感じた。

ショージはローストチキンにサラダ、そして
スープをトレーに乗せた。「これを夢見て
いたんだ!ああ、なんて美味しいんだ…これこそ
幸せと言うものだ!」ランドルが「街を散策して
歩こうじゃないか!」とショージを誘った。

沢山の店が並ぶ歩道を歩いていると、イタリア人
たちがショージとランドルをとにかく振り向いて
見つめた。どの目もまるでショージたち二人が
宇宙人でもあるかのように見つめるのだ。しかし
ショージには何故、街の人々がそんなに自分たちを
見つめるのか訳が分からなかった。
 
バレエ団の稽古場に帰ってから、団員に「道行く
人たちが僕たち2人を異様な目で見つめるのは
どうしてなんだい?」と英語を話す事が出来る
ブルティーニに聞いてみた。するとブルティーニは
「振り向かないほうが可笑しいさ、だって黒人の
ランドルとアジア人のショージの組み合わせは
この土地では珍しい色と顔の組み合わせだからな」
ショージは黒人のランドルを見つめた。「確かに
こいつは珍しいかもな…でもこの僕が?」

そして次のスケジュールを聞くと「げ~っ!
またレッスン!?その後にまた4足歩行で
ダッダッダッ…!の類人猿のリハーサルを
2時間もだって!?」聞いた瞬間、ショージは
目眩がした。

リハーサル開始から数日経つと筋肉も脳味噌も
心底疲れ果ててしまって更衣室でも皆げっそりと
静かであった。それでもレッスンは毎日朝夕
たっぷり2時間ずつある。再びリハーサルが
始まり、ショージも猿の一匹となって床に這い
つくばった。振り付けをする監督のマリネルは
「イタリア人だけの猿の軍団よりも黒人の猿や
日本人の猿が混じる事により、地球には沢山の
人種がいて、元々はあちこちの変わった猿たちが
進化を遂げたのだ…」
という事を述べたかったのであろう。

「そうか…その猿をやらせるためにわざわざ
ロンドンのオーディションがあったのか…
なるほどな。あのオーディションで必要だった
のはバレエの技術などではなく、如何に猿らしく
踊れるかって事だったのか…」
(つづく)