半澤正司オープンバレエスタジオ

20歳の青年がヨーロッパでレストランで皿洗いをしながら、やがて自分はプロのバレエダンサーになりたい…!と夢を追うドラマ。

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第51話

2020-10-25 07:34:34 | webブログ

おはようございます、バレエ教師の半澤です!
どうぞ,とても楽しいレッスンにいらしてくださいませ。
平日は朝は11時から初中級レベルのレッスン、夕方5時20分は
初級、夜7時から中級レベルのレッスンがあります。
皆さま、お待ちしております!

ホームページ半澤正司オープンバレエスタジオHP http://hanzanov.com/index.html
(オフィシャル ウエブサイト)

私のメールアドレスです。
rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp
http://fanblogs.jp/hanzawaballet3939/
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ルイースと写真.jpg






創業36年、本場博多のもつ鍋・水炊き専門店【博多若杉】


連絡をお待ちしてますね!

2020年12月23日(水)寝屋川市民会館にて
半澤正司オープンバレエスタジオの発表会があります。


Dream….but no more dream!
半澤オープンバレエスタジオは大人から始めた方でも、子供でも、どなたにでも
オープンなレッスンスタジオです。また、いずれヨーロッパやアメリカ、世界の
どこかでプロフェッショナルとして、踊りたい…と、夢をお持ちの方も私は、
応援させて戴きます!
また、大人の初心者の方も、まだした事がないんだけれども…と言う方も、大歓迎して
おりますので是非いらしてください。お待ち申し上げております。

スタジオ所在地は谷町4丁目の駅の6番出口を出たら、中央大通り沿いに坂を下り
、最初の信号を右折して直ぐに左折です。50メートル歩いたら右手にあります。

連絡先rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第51話
次の朝、バレエ団の玄関に着いてビックリした。イギリス人の
ロバートが「やあ…!」と立っていたのだ。ロバートは
イギリス人でも小柄な男で、身長はショージとほぼ一緒
だが骨格はがっしりしていた。ロンドンでのオープン
バレエレッスンで知り合い、いつも仲良くしていたが
彼はイタリアのバレエ団のオーディションに落ちて
しまった。その悔しさと、仲の良かったショージと
離れる事を寂しがり、ロンドンで別れ際には
ショージの前では見せた事のない涙を流しさえした。

 ところがそのロバートが遥かロンドンから、イタリアの
小さな街レッジオエミリアに突然現れたのだ。ショージは
驚き、そして懐かしさのあまり「どうしたの、何故ここに?」
と聞くと、「僕は決めたんだ!ここのバレエ団に何でも
するから裏方の仕事を手伝わせてくださいと頼むんだ。
ただ、その代わりと言っちゃ何だがレッスンだけは一緒に
させて下さいと交渉するのさ!」

ショージは耳を疑い「は? そんな事出来んの!?」
ロバートは「何でも物事は交渉次第さ!今から早速、
掛け合いに行く!」と事務所へ向かった。 ショージは
呆れたが更衣室で着替えて、稽古場でウォームアップを
していると、ロバートが満面の笑顔でレオタードに
着替えて入って来た。「ありゃ!その格好は…!?
それでどうなったの?」ロバートはショージに言った。
「僕はこのバレエ団の美術部で雇って貰えたし、レッスンも
オーケーさ!ただし、給料はとても少ないけどレッスンが
受けられると言う事で商談成立だ! 問題は寝る所だよ…、
じゃ、そこんとこショージ、 宜しくな…!」「は? 」

人間、どこでどうなるかわからないとはいつも思って
いたが、まさかこんな事があるのかとショージは
ロバートをまじまじと見つめた。夕方のレッスンと
リハーサルが終わり、急いでアパートに帰るとランドル、
ロバートの順番で夕食を作りショージは最後に作った。
ショージはフライパンでチキンを焼き上げたり色々な
料理に挑戦するので時間が掛かる事から最後に回される
のだ。あまり好きではない豆料理もプロテインを補給
するために調理したが、ショージの考える料理法では
美味しくは作れなかった。

遅めの夕食を食べ終えると決まって商店街を散歩した。
「ああ、とても寒い…」冬の時期のレッジオエミリアは
ネビアという真っ白な深い霧が出る。1メートル先も
見えなくなるほど幻想的でショージは大好きだった。
散歩をする時には必ずウォ-クマンを携え、ヘルベルト・
フォン・カラヤンが指揮する「アルビノーニ」を聞き
ながらベルリンに行く日を夢見た。

ある日、ショージがアパートに帰って来るとイギリス人の
ロバートが満面の笑顔で、「ショージ、やったぞーっ!
僕の思っていた通りさ!だから言ったじゃないか、
やったぞ、バレエ団に入ったんだよ!」「え~っ!?
おー、ロバート!流石はイギリス陸軍の父を持つ男よ、
君はとうとう狙い通りにやってのけたのか…!人間、
何処でどうなるか分からないって思っていたけど凄いな!
やってのけたのかロバート!」
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第50話

2020-10-24 07:58:26 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
初めての給料!
第50話
日本で世話になった六本木のクラブ「愛」のママ。
バイト先のママであったがショージが母親の様に
慕っていた人だ。限り無くショージを応援してくれ、
今でもきっと心配してくれているに違いなかった。
ショージは劇場の前の公衆電話まで走り、貰った
給料の一部で電話をしようと気が急いた。電話が
繋がり「愛」のママの声が聞こえて来た。

嬉しさで何から話していいのか分からないショージ
だった。「ああ…この声さえ聞けたらもう何も
いらない…」そう感じた。涙が溢れてきて、公衆
電話に入れる電話専用硬貨ジュトーネと呼ばれる
コインがあっと言う間に流れ落ちて行ってしまう。
電話の向こうでは必死にママが話しかけてくれて
いた。ジュトーネは終わってしまい残念ながら電話は
そこで終わってしまった。

部屋に帰り、買ってきた便箋に下手な字で手紙を
書き、無事と現在の状況を認めた。イタリア語も
分からず英語も分からない。只、踊りだけがイタリアで
生きていける唯一の支えと生きがいであった。残った
給料を持って食料の買い出しに市場へ行き、ざわついて
いた人々もショージの顔を見ると凍りついたように
ショージの顔を見つめた。しかしショージには
こう言った事は慣れてしまった。イタリアの田舎町では
ショージのようなアジア人がいないのである。だから皆、
一応にショージの顔を珍しがって見入ってしまうのだ。
だが、案外に話しかけると今度は楽しそうに魚の名前や
金の勘定の仕方をイタリア語で教えてくれるのも
この人たちであった。

レッジオエミリアに降るネピア

イタリアに来て、半年が経った。今ではイタリア語も
随分と喋れるようになり、市場の魚屋のおばちゃんや
八百屋の親父とも仲良くなり、劇場の周りのカフェで
働く人たちとも友だちになる事が出来た。カフェの
経営者、兼ウェイターのロベルト兄弟の二男のロベルト
はいつも笑顔で話しかけてくれた。ある日そのロベルト
が大きなオートバイに乗って来て「ショージ、
乗るかい?」と誘って来た。ヘルメットも貸して
くれ後ろにショージを乗せてレッジオ エミリアを
一周した。普段は歩いて通う道も大きな900ccの
オートバイに乗れば、あっという間に一周出来た。
ロベルト兄弟はフランス人の父親とイタリア人の母親で、
まだ20代の優しい青年たちだった。

ショージが仲良くしているレコード屋の若い男とも
友達になる事が出来た。この若者は父親の後を継いで、
大学卒業後に「好きな音楽が聴けるからレコード屋を
やっていると楽しい!」と言っている。英語がとても
達者な若者だった。このレコード屋の若者との知り合う
切っ掛けは実はランドルの発案で、普通にレコードを
買うには値段が張るしアパートにステレオがない事
から店でカセットテープを買う代わりに好きに選んだ
曲をダビングして貰えないかとランドルが交渉した
のだ。そして値段も本来のレコード価格の半額と
普通では信じられない交渉をやってのけたのであった。

店の若者はショージにも「良かったら君にもダビング
してあげるよ」と言った。ショージにとってはこれは
とても助かる事であった。 そこで、ショージは
ナルシスコ イエペス演奏(クラシックギタリスト)の
「スペインの庭」というレコードと、ラフマニノフの
「交響曲第2番」のダビングを頼んだ。数日後に取りに
行き、ウォークマンで聴いてこの曲が如何に素晴らしい
ものであるか感動した。そして「いつか、スペインにも
行ってみたいな…」と小さな夢を心に描いた。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第49話

2020-10-23 08:01:14 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
正に究極の振付!
第49話
イタリア到着以来、数日が経った。長いレッスンが
終わって、30人ほどの団員たちの身体中から汗を
吹き出しているが、ショージはと言えばほとんど
身体が自分のものではないほどくたくたで倒れる
寸前だった。ランドルを見ると声を出さずに口パク
で伝えて来た。

「オー、マイ、ガーッド…!」ショージも横目で
頷きながら、体が動かない。マリネル監督が
イタリア語で「20分後にリハーサル開始!」
と全員に伝えた。振り付けはストラビンスキーの
「春の祭典…人間創世」だ。太陽の神や水、空気
などの踊りの後に類人猿…つまりアウストラロピ
テクスのような、ほとんど猿の群れのような動きを
習うのだが一糸も乱れてはいけないらしい。
しかも激し過ぎる踊りであるにも拘らずにだ。
ショージはクラッシックの技法に基づいた振付を
想像していたのだが、いざ、その振り付けになると
数十人の男たちと女たちが一斉に身体を折り曲げ、
全員で4足歩行になり、右の足と右の手を同時に
前に出してナンバ歩きをしながら右左の腕と足を
床にダッダッダッ!!と高速で叩きつける。全員が
同時に真横に進んだかと思えば今度は前進した。

監督が大声で叫んだ。「そのまま後退しろ!」
気絶しそうなほど辛い姿勢での大驀進であった。
2時間たっぷりのリハーサルをすると、誰もが
もう疲れ果てて言葉さえ出なかった。ランドルも
ショージも互いの顔を見たくとも2人とも白眼を
剥いて「おえっ!」としながら吐き気をこらえて
いた。
 
それを終えると4時間ほどの休憩時間がある。
団員たちは車でさっさと自宅に帰って行く。
ショージとランドルはバスで市内まで戻り、
大衆レストランでセルフサービスランチを摂った。
イタリアと言えばパスタの本場だ。色々なパスタ
があり、スープも様々でメインも羊や牛肉、
ポークにチキンが所狭しと並んでいる。この
2人は秘書に頼んで給料を先払いしてもらって
いた。そのお蔭で好きな物が食べられるこの
幸せを充分に感じた。

ショージはローストチキンにサラダ、そして
スープをトレーに乗せた。「これを夢見て
いたんだ!ああ、なんて美味しいんだ…これこそ
幸せと言うものだ!」ランドルが「街を散策して
歩こうじゃないか!」とショージを誘った。

沢山の店が並ぶ歩道を歩いていると、イタリア人
たちがショージとランドルをとにかく振り向いて
見つめた。どの目もまるでショージたち二人が
宇宙人でもあるかのように見つめるのだ。しかし
ショージには何故、街の人々がそんなに自分たちを
見つめるのか訳が分からなかった。
 
バレエ団の稽古場に帰ってから、団員に「道行く
人たちが僕たち2人を異様な目で見つめるのは
どうしてなんだい?」と英語を話す事が出来る
ブルティーニに聞いてみた。するとブルティーニは
「振り向かないほうが可笑しいさ、だって黒人の
ランドルとアジア人のショージの組み合わせは
この土地では珍しい色と顔の組み合わせだからな」
ショージは黒人のランドルを見つめた。「確かに
こいつは珍しいかもな…でもこの僕が?」

そして次のスケジュールを聞くと「げ~っ!
またレッスン!?その後にまた4足歩行で
ダッダッダッ…!の類人猿のリハーサルを
2時間もだって!?」聞いた瞬間、ショージは
目眩がした。

リハーサル開始から数日経つと筋肉も脳味噌も
心底疲れ果ててしまって更衣室でも皆げっそりと
静かであった。それでもレッスンは毎日朝夕
たっぷり2時間ずつある。再びリハーサルが
始まり、ショージも猿の一匹となって床に這い
つくばった。振り付けをする監督のマリネルは
「イタリア人だけの猿の軍団よりも黒人の猿や
日本人の猿が混じる事により、地球には沢山の
人種がいて、元々はあちこちの変わった猿たちが
進化を遂げたのだ…」
という事を述べたかったのであろう。

「そうか…その猿をやらせるためにわざわざ
ロンドンのオーディションがあったのか…
なるほどな。あのオーディションで必要だった
のはバレエの技術などではなく、如何に猿らしく
踊れるかって事だったのか…」
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第48話

2020-10-22 08:20:50 | webブログ

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第48話
ショージは重大な事を今この監督に正直に話して
おかなければならないと意を決した。監督がレスト
ランのボーイを呼んで勘定を済まそうとしたその時、
ショージは「すみません!あの…本当に申し訳無い
のですが給料の前借りをしてもいいですかね?」
すると黒人のランドルが驚いて「こいつ…
嘘だろ!?」とショージを見た。監督も、そして
レストランのボーイまで驚いて目を丸くしてショージ
を見た。

監督が大きな黒い目を更に大きくしながら
「前借りって、幾ら?」ショージは深呼吸して
「私がイタリアのバレエ団まで行くに当たって
監督がこれだけあれば旅費は十分だろうと
思う金額をです。何せ私は一銭も持って無いの
です…」

すると監督が胸に仕舞ってある札束から数枚取り出し
「航空チケットは渡してあるのだからこれくらい
あれば多分、十分だろう…」と残りの札を胸に戻す
瞬間、ショージは胸の方を指差しながら「あの、
それもう一枚足したら、私は途中でちゃんと食べ
れるんじゃないですかね?必ず給料から分割で
お返しします!」「わ、分かった…」そして
ちゃっかり前借りに成功したのだった。

1985年 5月 イタリアへ出発!

イタリアへ出発する当日の朝、中国人の経営する
安いアパートを出ると荷物を持ってランドルの
家に向かった。ショージの荷物は少なく、初めて
ロンドンにやって来た時と同じボストンバッグが
一つ。箪笥代わりに廃品回収で拾ったスーツ
ケースは元通りの廃品回収へ。
 
イタリアへと出発する日は意外に早くやって来た。
これまで世話になったバレエ学校の校長や、
バレエ教師のビビアンとパスィに挨拶を済ませた。
しかし憧れだったミスター・ラフィックには残念な
事だが会えずじまいになってしまった。

思い起こせばロンドンに初めて来た時から
ショージは空港のパスポート検査でただ独り
拘束されて檻(おり)の付いた個室に3時間
にも渡って閉じ込められた。その理由は金も
持っていなければ服装も貧相で、特にイギリス
では絶対に受け入れてはもらえない片道切符の
渡航であったからだ。ショージはこのロンドン
で生涯忘れる事が出来ない過酷な1年を経験した。

限界ぎりぎりの生活とショージ自身の精神との
闘いであった。と同時に人の温かさは国境を
越えても同じなのだと言う事も知った。人は
迷い悩みそして強さを掴む事を学んだのだ。
ロンドンに降り立ったあの瞬間からショージは
神から試されていたのかもしれない。

この経験を持ってショージは「きっと大丈夫!
もうこれからの僕を待ちうける未来がどんな過酷な
状況になろうとも絶対生きて行ける!」そう信じて
やまなかった。

「イタリアに行くんだ…厳しいこのイギリスから
とうとう脱出出来る!」そこにはいない
ラフィックの顔を頭に思い描きながら呟いた。
「ラフィックさん、本当にありがとうございました。
僕はバレエを踊るためにドーバー海峡を越えて
イタリアへ行きます。いつの日か僕は絶対に再び
ロンドンに戻って参ります。その時まで
ラフィックさん、どうぞ元気でいてください」

ショージは固く心に誓った。「ロンドンに戻って
来るその時はパスポートコントロールを難なく
パス出来るよう莫大な現金と驚くほど立派な
格好をするんだ!もちろん、その際は往復切符を
必ず購入しなければ!ロンドンに来た時に
パスポートコントロールの検査官たちが僕に
向かって、良くいらしてくださいました…
と笑顔で出迎えてくれるように自分が成長
するんだ!ラフィックさん、レストランの
ウォンさん、学校の先生たち!本当にありがとう!
そして見ていろよロンドン、僕はまた戻って来るぞ!
きっと…きっと…!」
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第47話

2020-10-21 07:53:12 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第47話
審査発表!
ここで審査が終了。シーンと静まる男性ダンサーたちが
一人の男を見つめた。その視線の先には監督と、監督の
娘さんであろう可愛らしい小さな2人の女の子も椅子に
座って見ている。試験に参加した全ての男性ダンサー
たちはその瞬間に自分たちの人生が掛かっているのだから、
誰もその視線を変えない。その場で結果が言い渡された。

「君!白ティ-シャツの黒人のダンサー、そして、
アジア人の君の2名だ!」ショージが指差された。
この成功率は実に300分の2であった。 最終的に
残ったのはただ2人。周りのダンサーたちは溜息と
ともに「あ~あ…!」と残念そうな声を出し、退場
して行った。黒人のダンサーはガッツポーズを取って
友人たちに肩を叩かれながら満面の笑顔だ。

しかし、ショージは今回はぬか喜びはしなかった。
どうせまたスコティッシュバレエ団の時と同じ理由で
この期待を裏切られるのが目に見えていると思ったから
だ。それは以前に起きたオーディションの際、ソリスト
としての大抜擢にも関わらず、政府側が「君はイギリス籍
ではないから、働く事は出来ない。君のために労働許可を
発行する事は出来ない!」と言った理由であった。

その場でショージはイタリアのバレエ団のディレクターに
向かって言った。「すみません…私は日本人です!
イギリス人ではないので、労働許可証を持っておりません。
どうなんでしょうか?」するとディレクターは、はっきりと
ショージに「君はイタリアに来る気持ちを持っているの
かい?持っているのなら、私が責任を持って許可証を申請
するから心配は要らない。が、イタリアまで来る気持が
ないのなら帰りなさい。すぐに決めなさい!他のダンサーに
決めなければならないから…」
 
今度ばかりは喜びで全身が反応した。「行きます、
行かせてください!お願いします!」ショージの目
から生まれて初めて喜びの涙が堰を切って滂沱(ぼうだ)
の様にぼろぼろと流れ落ちた。「ミスターラフィックさん、
僕は掴みましたよ…!とうとう掴みました…!僕は自分の
この手で本当に夢を掴む事が出来ました!ああ…
ラフィックさん」

ディレクターは大きな声で笑いながら「お願いする必要
ないよ、君はオーディションで受かったのだから。さあ、
泣いてないで食事に行こう!」ショージは両手で涙と
鼻水を拭きディレクターに「恥ずかしい話ですがお金を
持っていないので、レストランどころかカフェにも行けま
せん…」と項垂れ(うなだれ)ながら言うと、
ディレクターが更に大きな声で笑いながら「誘っている
のは僕だよ…!レストランに来る気持ちがあれば
来なさい。無いのなら無理にとは言わないが…」

レストランで食事をしながら、もうひとりのダンサーである
黒人のイギリス人、ランドルとショージは互いに自己紹介
をすると、ディレクターのマリネルは自分のバレエ団の話や
今までどのようなバレエ人生を歩んで来たかなどを話した。
そして監督が胸のポケットに手を入れ、ショージたち2人に
イタリアまでの航空チケットをくれた。ショージはそれを
無くさないように大事に胸のポケットに仕舞った。この時、
監督が驚くような事を口にした。「契約が終わった時点で
世界の何処であろうと、次に行くバレエ団のある場所までの
航空運賃も支払う」と言ったのだ。
(つづく)