本邦において、米中対立を新冷戦と呼び、中国を旧ソ連よろしく打倒すべき相手と見る向きが盛んである。現下のトランプ政権による対中の超強硬路線がこれらの人々に確信を与えていると言っても過言ではないだろう。
しかし冷戦期、西側諸国は、旧ソ連が世界中で社会主義革命を起こそうとしている、または起こそうと企てていると見做しており、旧ソ連も資本主義サイドが反革命としてソビエト社会主義の打倒を企てていると考えており、冷戦期の国際関係はいわば体制間の生存競争であったと言える。
他方で、現在の米中対立はどうであろうか。中国はそもそも自国制度を革命により世界に伝播しようとしているとは考えられない。というより、そもそも経済について資本主義を取り入れていると言えるこれで体制選択とも言えた冷戦期と比肩するのは無理があると言える。
端的に言えば、現在の米中対立は冷戦期の二元論的対立というより、19世紀的な大国間の競争、則ちパワーオブバランスの世界と見る方が実態近いであろう。過去の例で言えば、欧州の英仏の関係と言ったところであろうか。
このように見ると、本ブログを書いている現在、管首相が「自由で開かれたインド太平洋」を推し進めるべく、ASEAN諸国に赴き対中包囲網形成に成功しつつあるかのような報道ぶりである(一例:産経新聞2020/10/21)。
しかし、当のASEAN諸国は冷静である。たとえば。フィリピンは米国との地位協定の放棄を米側に通知する等、アメリカ一辺倒ではない(⇒時事通信2020/2/11)。
管首相が今回訪問したインドネシアに至っては基本的に中立政策である(⇒ニューズウィーク2020/10/21)。本邦のメディアはこの辺りの事情も踏まえた上で国民が、日本は世界的な対中包囲網形成に貢献している的な幻想を抱くのを防ぐ必要があろう。
日本社会にとり必要なのは、経済の復活であり、そのためには少子高齢化社会に突入し需要が縮小する国内市場の他、海外市場にも目を向ける必要がある。将来的に人口増により市場として大きくなる可能性があるのは所謂「一帯一路」に該当する地域なのであるから、日本企業が、如何にして当該市場にアクセスできるようにするかというのが、政府が考え実行すべき事項であろう。
そして、他のアジア諸国は、安全保障上の問題と自国の経済的利益を上手に天秤にかけながら外交を行っている。日本政府も、自国社会や自国民が如何にすれば豊かになるのかを真摯に検討し、従前の対米一辺倒外交で良いのか否かを今一度考え直すべきであろう。その結果が従前の外交の延長ならばそれはそれで結構であるが、米中デカップリング論や新冷戦論に安易に乗り、イデオロギー的に反中一択外交では日本社会の繁栄はおぼつかないと言えるだろう。