正直言って、
私は、今回のことで、
どん底にタッチして来た。
どん底まで行って、やっと上を見た。
そしたら、景色が変わって見えた。
朝の犬の散歩で、風景を見ていたら、1年前のことを思い出す。
彼が、年に数回特に忙しくなる時期が、もうすぐ来る。
また、あの人は、ひとりで目の前に起きることと闘うのだろうか。
力が及ばないと、焦ったり、
自業自得だと、自分を責めたり、
そんなことになっても、
必ず、自分の力で乗り越える人だけど、
無性にエールを送りたくなった。
LINEすることに、
なんの抵抗もなく、
彼の名前は、あの頃のままに、
話しかける。
返事はなくても構わないと思った。
既読にさえなってくれれば、それでいいと思った。
今朝の景色は、
雨が上がったおかげで、
空気が澄んで、
新緑の色が深まって、
大地がキラキラしていて、
空がやたらと青かった。
予期せぬ返事が返ってきて、
彼はやはり、
忙しさが増したと、画面の向こうで笑って見せた。
夜の散歩に出た。
1日の終わりに、もう、彼が居ないことにも慣れた。
今となっては、犬が相棒だ。
日が長くなったせいで、
ゆっくりと夜に向かう。
お月さんが空の上の方に輝き出し、
まだ、彼は、仕事をしているのだろうかと、思いを寄せた。
もし万が一、前のように、電話できるよと言ってきたとしたら、
私は、すんなり電話をかけられるだろうか?
もう、それも、自信がない。
家に着いて、庭で涼んでいる犬を写真に撮ろうとスマホを開いた。
LINEのアプリの横の数字が出発した時より増えていた。
気になったので、触れてみた。
そして、彼のトークルームに、数字の①が見えたときには、
動揺して息が止まりそうになった。
彼から、ここに来てくれたんだ。
ひと月半ぶりに、
あの頃よくみた一文があった。
残念なことに、私は、もう家に帰ってしまった。
でも、
景色が違って見えた今日は、
なぜか、冷静だった。
悔やんだり、彼に縋りつこうとすることもなく、
気が付かなかったのだから、仕方がないと割り切った。
ただ、私の思いは、全部素直に告げた。
あなたのことを思っていたことも、
きっと、仕事終わりだろうから、お疲れ様だということも。
これからビールを飲むだろうから、乾杯だということも。
そして、気をつけてということも。
彼からは、
ありがとうと、返事が来た。
景色が違って見えた私は、もうこれ以上の言葉のラリーは必要ないと思った。
あとは、
お互いに、
自由な妄想に浸ればいい。
私は、幸せな気分にひとりで身を寄せた。
傷つくことを恐れて、恋愛などしてはいけない。
どん底を見るのも、悪くない。