MMT、要するに現代貨幣理論をちと調べている。
どっかで聞いた話だな、とか最初っから感じていたが、三橋貴明と言う経済評論家が言ってた事と似てたのだ。
いや、違う、とんねるずじゃねぇよ(苦笑)。
それは石橋貴明だ。
左がとんねるずの石橋貴明、右が経済評論家の三橋貴明で一文字違いだが大違いだ(謎
と言うか、三橋貴明って人の発言はMMT、つまり現代貨幣理論に則って言ってたんだな。
今更知った次第。
大まかに言うとMMTのポイントは3つ。
- 通貨発行権を持つ政府は財政赤字や国債残高を気に病む必要はない。
- 税金は財源獲得手段ではない。国債も同様である。両者とも実質は国内への市場介入手段以上でも以下でもない。
- MMTの最終目標は、完全雇用と経済の安定化、である。
これは確かに魅力的なのだ。
取り敢えず3番は「政策」に絡むので、これに対しては今のトコ、特に何も言わない事にしよう。と言うか後回しにする。
問題は1番と2番である。これが主流派の経済学者諸々に批判されている部分である。っつーか、実効性は置いておいても、この主張は主流派にはマズいのだ。
要するに、実質的には、税金0で消費税0%でもやっていける、と主張してるわけだ。
いや、んなワケねぇよ。でもそれは一応後述しておく。ただ、確かに理論が正しければ、ある程度そう出来る、と言う事を言ってるのは間違いない。この理論的には、ってのが問題なんだな。
例えば年金を考えてみよう。年金は今は無理矢理にでも徴収して、財源を確保せなアカン、って事になっている。
しかしMMTが正しいとすれば、年金は
「政府がお金を刷って回せば、徴収しないでもやれる」
と言外に言ってる事となる。
これは現政府にとってはマズいのだ。そうすると、今の政策が間違いでしたと認める事となり、平謝りになっちまう。そして今まで強制的に徴収してた分のお金はどうなるのだ、等と言う不公平感も出てくる事になってしまう。
分かる?MMTを認める事は財務省的にも厚生労働省的にも極めてマズい、と言う事が。
だから反対せざるを得ない、と言う、経済学とは全く関係ない理由で反対してる人たちがまずは多い、と言う事を肝に銘じておかなければならない。
それを人はメンツと呼ぶ。
実際は「政府が無限にお金を刷る」事をMMTは否定してる。と言うのも、貨幣はあくまでモノを買う手段であり、要するに物品の生産が追っつかないくらいにお金があると、お金は有り余ってるのに市場にモノがない、と言う事になる。そうなるといくらお金を持っていようと、人々はモノが買えなくなってしまうわけだ。
つまり、これを経済学的には「貨幣価値が無くなる」と表現していて、これがハイパーインフレと言われる状態である。
でも別に、MMTはハイパーインフレを招きなさい、とは一言も言ってないのだ。
2. が指し示してるのは、税金は財源ではなく、市場介入の手段、言い換えれば市場でダブついてるお金を吸収する手段として税金があるのだ、と言う主張である。
多分MMT否定論者はすぐ「インフレがー」とか言い出すだろう。ただ、もう一回繰り返すが、過度なインフレをMMTは目指していない。そもそも日本はデフレ状態にあり、前にも見せたが、20年以上もデフレを結果脱出してないのだ。そして今は2%のインフレ率を目指してるらしいが、効果が全く実感出来ない、ってのはみんな思ってるだろう。つまり、カンフル剤としてはMMTの言ってる事以外に「劇薬的に効く」有用な手段は他に何も持ってない、と言って良い。
いや、ハッキリ言うけど、否定論者の発言も聞くべきだと思ってる。僕も経済学は素人だしな。ただ、いわゆる「インフレを招く」と言うのは全然反論にはなってないだろう、と思うのだ。むしろ実際はインフレが欲しいんじゃない?何故ならそれが経済成長を表すからだ。
でもハイパーインフレを招きたい、とは誰も思ってないし、MMTでさえ主張してないのだ。「主張してない事を脳内で仮定して議論をする」のはおかしいのだ。
だから繰り返すけど、この辺の議論が「経済学」内に収まらないのは、一つ、経済学とは全然別の理由が背後にあったりするからややこしいのだ。さっき書いたメンツとかだな。
繰り返すが、税金は無くならない。MMTによると、税金は財源確保ではなく、市場に流通するお金の量を政府が調整する手段である。つまり、言い換えると、MMTが言ってるのは消費税を無くせ、と言ってるのではなく、消費税を10%固定で据置のままにする、とか、15%に今後上げなければならない、と言う論調が無意味だ、と言ってるのだ。
つまり、インフレを調整する手段として税金がある以上、市場の動向を見て、場合によっては消費税を20%にしたり、逆に5%にしたり、あるいは0としたりしても良いだろう、と言うのがその主張である。あくまでまずは市場の貨幣の流通量と物品生産力との兼ね合いを見て、臨機応変に対応しろよ、って言ってるだけなのだ。至極真っ当な事を言ってないか?僕は言ってると思うけどな。
それと、まず前提としてみんなが知っておかなければならない事は、国の借金が1,200兆円と言うデマだ。これは意図的に流布されていて、消費税10%の根拠だと思われている。
内訳は実際は、この内の45%、つまり殆ど半分だな。これは日銀への借金である。要するに政府が政府機関、つまり内輪で借金をしてる、って事であって、我々には全然関係がない話なのだ。
そして残り半分は国債発行で、買い手の殆どは実は国民である。
つまり、国の借金ではなく政府の借金であり、言い方変えると我々は直接関係なく、勝手に我々一同一律借金をしてるのだ、とウソを言われてるのである。
まずこういう辺りを常識として共有すべきだと思うのだ。リテラシーの問題であり、政府は国民を誘導する為に情報操作をするものだ、と言う前提を我々は共有しないといけない。
そしてMMTのポイントの1番目はこれを攻撃してるわけだな。政府の借金は国の借金じゃねぇし、赤字だろうが構わないんだよ、と。なぜなら通貨発行権があるからだ、と。
そしてもう一つ。例えばIMF(国際通貨基金)は政府の財政は黒字に転換すべきだ、と主張してる。これもMMT否定派が良く出す論拠である。
実際、IMFに従って財政を黒字にした政府が世界に二つ程ある。アルゼンチンとギリシャだ。
で結果どうなったか?財政破綻である(笑)。
え、政府が黒字に転換したのに財政破綻したの?ってビックリするかもしれんし、ニュースで知ってるわ、って人もいるだろう。その辺は各自で調べて欲しいのだが、いずれにせよ、世の中、政府が赤字です、って国の方が多く、かつそういう国の方が結果上手く回っているのだ。
分かる?実はIMFが言ってる事も根拠が全くない。MMTはむしろ新しい根拠を持ち出してきたのだ。
それにしても、何故に経済学ってのはこうもややこしいのだろう。
ま、ぶっちゃけて言うと原因はハッキリしてる。それはお金と言うのが何なのか、実際のトコ誰も知らないから、である。原点が何なのか良く分からんのにあーでもない、こーでもない、と言ってるわけだな。
だって紙幣、例えば1万円札が本当に1万円の価値があると思う?紙切れだぜ?あれの製造コストが1枚1万円、ってこたぁねぇだろう。
これがよ、例えば500年くらい前に遡ってみたら、貨幣は金と言うマテリアルだったんで、話は簡単だったんだ。1両の小判は1両の価値がある、あるいは加工費さっぴいてもそれに近い価値があるのだ、と。つまり物品的な価値だな。
こういうのをザックリ言うと、中学校で習ったと思うが兌換貨幣と呼ぶ。お金は等価の金と交換出来る、と言うモノだ。当然マテリアルとしての金の流通量がその価値を決める。
一方、紙幣経済が発達した現在、その殆どの「お金」は直接金とは交換出来ない。こういうのを不換貨幣と呼ぶ。誰かがそのお金の価値を保証せんとそのお金は使えないのだ。
今だともっと状態がややこしくなってる、ってのは分かるだろう。今は通帳口座はもとより、仮想通貨なんつーものも出てきてる。一体それらの「価値」は誰が保証するのか(※1)?
実はその辺、かなり曖昧なのである。一般的には政府が保証してるからだ、と捉えられてるだろう。プラグマティックな意味だとそれは正しい。しかしそのままその辺を主流経済学ではあまり追求してこなかったらしい。
MMTが何故に「現代貨幣理論」と言ってるのか、と言うと、理論の根幹が実は単純にここにあるから、なのだ。言わば「現代の紙幣は政府がその価値を保証してるのだ。しからば・・・」と言う論調なのだ。紙幣は政府が保証してて、しかも紙幣を刷る権利を持ってるのは政府しかいない。だったら・・・と言うのがMMT論者の根拠なのである。
言い換えると、MMTははじめて経済学を自然科学的な手法で「原理から」一貫した体系を作ろうとした理論ではあるのだな。少なくとも「お金が何か」ハッキリとした結論が出ないトコから理論体系を作ろう、と言う輩の「やり方」よりはより科学に近い、と思ってる。スッキリしてるのだ。
個人的にはMMTに全く不安がない、って事もない。基本的に「国内経済」に於いてはこれは正しいだろうが、今みたいなグローバル経済で、「お金が」世界で流通しまくってる状態だとどうなんだろ、ってのはある。つまり為替相場だよな。
正直言うと、MMTは国際経済に視野を広げると、ちと説得力がない、っつーか、あんま研究がそこまでは進展してねぇんじゃねぇの?ってのはある。
特に国際経済だと良くは知らんが、古の「金本位制」っぽい部分が顔を出すらしい。この辺はどうなんだろ?ってのがちと不安ではある(※2)。
一応、MMTだと「変動相場制でいる限り大丈夫だ」とは言ってるらしい。
ただ、この辺はさらなる研究を期待するところである。
さて、財務省辺りの霞が関を相手にする以上、我々の武器は二つしかない。
- 我々は、現代の基礎知識としてMMTを最低限の「教養」として知っておくべきである。賛成に回ろうとも反対に回ろうとも、だ。いずれにせよ、MMTの知識は皆が簡単に語れるくらい常識化すべきである。
- 国政にまつわる投票で、選挙で選ぶ代議士はMMTの理解をしている人にすべきである。MMTを知らない、なんて言う勉強不足な代議士を国会に送り込んでも、財務省をはじめとした省庁に簡単にやり込められるだけ、である。これも賛成に回ろうとも反対に回ろうとも、だ。
実際は国会議員は敵ではない。むしろ官公庁をどう動かすか、選挙をする時、我々はそこに注目しないとならない。MMTに賛成だろうと、反対だろうと、その辺「キチンと勉強してる」人を選ぶべきで、かつ、反対だろうと、「インフレが〜」とかバカな事を言い出さない人を選ぼう。反対なら反対で、それなりに「キチンとした」論拠を示す人を選ぶべきである。
とにかく以前にも書いたが、今の状態だとデフレは殆ど「国難」と言って良い状態である。今その辺を意識しておかないと、マジでヤバい、と思っているのだ。
既存の経済政策で大した結果が出ていない以上、最優先課題はまさしく「どうやってインフレに転じるか」なのだから。
さて、MMTのポイントについては残すトコ3番だけなので、これをちょっと見てみよう。
思想的な話で言うと、MMTは税金による市場介入を行う事を是としてる。
しかし、これは見方によっては「計画経済」じゃないのか?と言う視点がある。そう、つまり、共産主義に至らないまでも社会主義経済に近いのでは?と言う観点だ(※3)。
つまり、社会主義経済による「完全雇用」と言うモノを後押ししてるのではないか、と。そういう疑念は当然出てくるんだよな。
僕個人の結論で言うと「今のトコ保留」である。っつーかそうしか言いようがないのだ。ぶっちゃけ「分からん」(笑)。
ただ、MMT反対論者の中では、経済学的観点より、こういう「社会主義的な雰囲気」を危険視してる人たちがいる、と言う事だけは心に留めておこうと思う。
とまぁMMTのポイント3つを適当に解説してきたわけだが。長ぇな(苦笑)。
ここからちょっと面白い話をしようと思う。
実は、MMTは比較的最近(とは言っても全般的には90年代)出てきた理論だが、個々の部分はそれより以前から経済学者達が個的に論じていたモノの集大成的なモノだ。言わば経済学者の井戸端会議を纏めたのがMMT、と言う側面があるらしい。
現代の主流の経済学は新古典派経済学、と呼ばれてるらしい。経済学オンチに言わせれば何が新なのか、古典派とは何なのか、とツッコみたいところではあるが。
さて、20世紀の経済学者としてはケインズと言う人が超有名ではあるが、実のトコ、新古典派の「古典派」が何を指すのか、と言うと、ケインズ以前の経済学を指すらしい。
結果、歴史的に有名な経済学者とは?と言うようなクイズを出せば、結構な確率で「ケインズ」と言う名前が出てくるだろうが、実際のトコ、現代の主流な経済学ではどうやらケインズの影響は微々たるモノならしい。
ところが、一方で、MMTは、と言うと、これが実はケインズが提唱した経済学を発展させたモノを基盤の一つとしてる。との事。
詳しくはWikipediaに譲るが、要はMMTの第一のポイント、景気を勢いづけるには、金をじゃんじゃん刷れば良い、あるいは赤字国債覚悟でガンガン国債を発行すべきだ、と言う発想のベースはケインズが唱えたものである(減税や公共投資、と言う言い方をしてるが)。
で、こういうのをケインズ政策、と呼ぶらしい。もう一度繰り返すが、ケインズ政策がMMTの理論の根幹の一つなのだ。
さて、このMMTの赤字国債覚悟の経済政策。理論上の事なのだろうか、と言うと、実はかつて実践して上手く行った国があるのだ。
日本である。
つまり、MMTの理論上云々、って言う辺りでは実践して成功した国があって、それは実は日本だ、と言うのは強力な実績ではないのか?
これをやった日本の政治家が、高橋是清、である。
間違った。そりゃスケキヨだ(謎
愛称は「ダルマさん」。なかなか可愛いオッサンだ。
ところがこの人の手腕が凄い。
これもWikipediaで詳しい事は読んでほしいのだが、1930年代に世界恐慌が吹き荒れる中、MMTが提唱するような赤字国債を乱発し、しかもその御蔭で不況から世界で一番最初に最速で脱出したのである。
すげぇだろ?これをMMTの実績と言わずになんと言う。
残念なのが、この手法を用いて、軍部にも予算を計上してくれ、と言う圧力が高橋是清にかかってきた事だ。
しかし、経済学に明るい高橋是清は、この後起こるだろうハイパーインフレを恐れ、これを拒否し、むしろ軍事費を削減する道を選ぶ。
そのせいで軍部に睨まれた高橋是清は、結果暗殺されるのである。これを俗に
二・二六事件と呼ぶ。
要するに軍部は当然だが、経済学的観点を全く理解してなかった、ということ。もう一つは、あえて言うと、高橋是清は軍事費を削減する必要はなかったのだ。当時は、MMTが主張してるように、軍事費を増大させても税金で回収すれば良い、と言う発想がさすがになかったんだな。仮に、「大幅増税」をやっていれば、結果バランスが取れて、高橋是清と言う惜しい人は暗殺されなくって済んだかもしれない。
これの教訓は一つ。「税金が0になるかもしれんから」MMTに単純に賛成、と言う人を増やしてもダメだ、と言う事だ。場合によっては市場に出回った貨幣を、ハイパーインフレを避ける為に強制的に税金として回収せねばならない、と言う事を我々が理解しなければならないのだ。
じゃないと、軍部のように、「消費税が0%と言ったのに20%にしたじゃないか!」と、政治家を暗殺したくなるかもしれない。それじゃあダメなのだ。
我々は、今と違う経済学を信じるのなら、ハイパーインフレが起きて「みんな仲良くダメになる」事を避けるために高率の税金を払わなくてはならない局面が出てくる、と言う事を肝に銘じないといけない。
そして、こういう暗殺ネタは、実行可能不可能はさておき、政治家がかなり恐れる事なのである。いわば金の恨みだからなぁ。
いずれにせよ、我々は単純な需要と供給の関係をキチンと理解する事を、最低でも肝に銘じないといけないのだ。
さて、終戦後、この高橋是清の(一見)アクロバティックな経済政策を禁止しようと、GHQが日本に制定させた法律が財政法第4条である。そしてMMTの最大の敵は、実はこの法律である。これがある限りMMTは起動出来ない、と言う側面が実はあるのだ。
しかし、同時に、今現在、特例公債法なるものによって、この法律も有名無実化してる。件の1,200兆円の借金の原因はハッキリ言うとこれのせいだ。あれも特例、これも特例、ってぇんで乱発してきた、と言う事だな。
もう一回繰り返す。いずれにせよ、経済学的観点で、そろそろこの辺の法律にメスを入れるべきだ、と言う政治家を我々は選ばないとならないのだ。
これは急務である。
※1: むかしは金券なんかのサービス券で、例えば350円のビールを500円の商品券で買ってもお釣りを貰えたもんだ。
ただし、MMT的に言ってもこういうのはマズい、つまり、通貨と同じように使えると言う事は紙幣発行権を政府以外に委ねても良い、と言う事で、法律的に規制が入った、ってのは庶民の感覚はともかくとして、正しいのだ。
同時に仮想通貨、はどうなるのか、とかその辺のMMT的な解釈も今の所曖昧だと言わざるを得ない。
※2: 全然関係ないが、昔の映画、ダイ・ハード3で、アメリカの連邦準備銀行に大量の日本の金塊があったのを覚えてる人もいるだろう。
映画でそうだっただけで、事実は知らないが、もし、多国籍間の「信用」に金塊の保持量が関わってるとすれば、MMTの国際間での「変動相場制上での信用」の理論は大崩れになる気はしてる。
※3: しかし、90年代前半辺りまでイケイケだった日本は、世界で一番成功した社会主義国だと揶揄されていた事を忘れてはいけない。護送船団方式で、国が統制を取り、共産党への忠誠心に代わり、会社への忠誠心がダントツだ、と言う事を皮肉られていたわけだが、当時の日本人はそんなの関係なく、イケイケで幸せだった。
それに比べればMMTが提言してる「社会主義臭さ」なんてカワイイモンである。