世間では「プレイステーションが出る!」となった年、1994年にPC-9801向けにフェアリーテールからリリースされたエロゲ。
ところがこのエロゲ、H.P.ラブクラフトの小説が原作なんだ。
based on the novels by h.p.lovecraft(原作: H.P.ラブクラフト)、とある。
このゲームは単なるエロゲプレイヤーには評価が高かったゲームだが、例によって例の如く、「なまじH.P.ラブクラフトを知ってると」酷評したくなるゲームらしい。曰く「オリジナリティがない」やら「モティーフがどうの」やら。
でもそれらの批判は実は見当違いだ、って事をまずは言っておこう。そもそも「オリジナリティもクソ」も、上の画面見れば分かるが、最初っから「原作: H.P.ラブクラフト」と書いてある。つまり別に「ラブクラフトの小説からアイディアをパクってきた」わけでも何でもないんだ。
ハッキリ言っちゃって、このゲームは「H.P.ラブクラフトの小説のエロゲー化」以上でも以下でもない。要するにこないだ書いたダンウィッチの怪の映画化と同種の話なんだ。「機動戦士ガンダム」をゲーム化して「オリジナリティが〜」とか言うのが如何にバカバカしい批判か分かるだろ?ラブクラフトファンは「上の写真のように」原作、と明示されてるのにそこを無視して批判を始めるから話がおかしくなる。
もちろん、H.P.ラブクラフトの小説をゲーム化したもの、っつってもそのゲーム自体を「面白い」とか「面白くない」とかの批評は可能だ。この場合は「ラブクラフトがどうの」ではなくって「ゲームとしてどうか」と言う批判になるけどね。
しかし、ラブクラフトファンはどうも「ゲームとしてどうか」じゃなくって「ラブクラフト作品」翻って言うと「クトゥルフ神話として」このゲームがどうなんだ、って話をしたがる。その批評の方向性は間違ってんだけどなぁ。
「ダンウィッチの怪」でも言ったけど、仮にラブクラフトの小説を「そのまま」ADVにしてもクソつまんねぇだけだと思うわ(笑)。そんなゲームは売れません。
繰り返すけど、ラブクラフトが書いたモノをそのまま何かにしても全人口の5%程度の人間が喜ぶだろう、ってだけなんだわ。それで言うとラブクラフトの小説を原作としてエロゲとして再構成しました、っちゅうフェアリーテールの判断は間違ってないと思う。やってるこたぁロジャー・コーマン的だ。コーマンだけ、にな(謎
繰り返すけど、まぁ、例えばロジャー・コーマンの映画もそうなんだけど、別にクトゥルフ神話ファン向けに映画作ったりゲーム作ったりしてるわけじゃあねぇんだわ。あくまで対象は一般映画ファンとかエロゲファンであってな。
そして「すげぇ原作が売れて原作が面白くて待望の映像化」とか言うんでもない。どっちかっつーと「マイナー作家のあんま面白くない話」の映像化/ゲーム化だ。スタンス的には往年のフジテレビのドラマ作りみてぇなカンジなんだよ(笑・※1)。
ちなみに、僕は自分の人生上、「クトゥルフ神話」とか「ラブクラフト」って単語を「知ってた」期間は長いんだよ。でも興味が全くなくって全然それらを「知ろう」とか「読もう」とか思った事は無かったんだよな。
結果、近年になって、クトゥルフ神話TRPGがニコニコ動画で人気になってブームになって、だ。ようやく重い腰を上げた、と。
それで創元推理文庫の全集書い始めたりラブクラフト絡みの映画を借りてきてガンガン観たり、あるいはラブクラフトと関係があるゲームをプレイしたり・・・・・・(※2)。しばらくそういう状態だったんだよ。
で、古今東西の「クトゥルフ神話絡み」のビデオゲームで言うと、調べる限り、圧倒的に本作がプレイしやすく面白いのな。ラブクラフトファンが「腐す」このゲームがラブクラフト絡みじゃどのみち一番いいんだわ(※3)。知ってる限りで言うと。そして「ラプラスの魔」と違って真正面からクトゥルフ神話に取り組んでる(※4)。
ハッキリ言って、このゲームは、クトゥルフ神話TRPGのシステムと組み合わせても良いくらいのシナリオになってる。そして、ニコニコ動画の「クトゥルフ神話TRPG」のリプレイを見ても、「出てくる結果」はRPGと言うよりADVとあんま変わんない。そして「クトゥルフ神話TRPGのオリジナルシナリオ」よか、さすが「原作: H.P.ラブクラフト」なだけあって、むしろこのゲームは原典に近い。結果、色んなクトゥルフ絡みのゲームを見ても間違いなく最高峰のゲームなんじゃないか、って言えるんだ。
このゲームはH.P.ラブクラフトが書いた「インスマウスの陰」と言うのが原作だ。そしてラブクラフトを良く知らない人の為に、クトゥルフ神話のメジャーな事象及び名称をうまい具合組み合わせてユーザーに提供している(※5)。それがまたラブクラフト原理主義者には気に喰わないみたいだが、便覧みたいになってるのは、むしろ「何も知らない人への」良いサービスだと思うわ。
ちなみに、上のgifアニメを見ると、あたかも映画版「ダンウィッチの怪」のように「ローズマリーの赤ちゃん」を彷彿としてるようだが、ダンウィッチの怪の原作と違い、インスマウスの陰は元々背景に「異種族交配」と言うテーマがある。
故にこっちの方が原作的にもダイレクトで、また、エロゲに転用しやすいネタであった事は間違いないんだ。
なお、ラブクラフトの原作の舞台は、基本的にはアメリカ、しかもマサチューセッツ州周辺が主な舞台なんだけど、このゲーム、目立った改変があるとしたら、舞台が「イギリス」になってるトコだ。よって、「アーカム」の所在地はイギリスの田舎、って事になっている。
ロンドン在住の新聞記者である主人公(ジョナサンだがジョースターではない・笑)。暇つぶしに自分の先祖の女性の出身地である「アーカム」を訪ねようとするが、そこは周囲には「異常な場所」だと認識されているようだった・・・・・・。
奇怪な街での奇怪な調査。果たしてジョナサンは、自らの血に流れる「インスマウスの秘密」が何なのか、解き明かしていく事になるのだが・・・と言うホラーストーリーである。
繰り返すが、ラブクラフト原理主義者は色々文句言うが、このゲーム、エロゲのクセに映画より「ラブクラフトの原作の流れ」にむしろ忠実だと言える。
良作。ラブクラフトものを経験してみたいのなら一回はプレイしてみる事をオススメする。
少なくとも、ラブクラフトの小説を読むよか面白いのは事実だ(爆
※1: 往年のフジテレビで、例えば「ショムニ」と言うドラマがあったが、これで原作に興味を持って原作を読んでみたら「あんま原作は面白くなかった」と言う経験をした人は多いんじゃないか(笑)。往年のフジテレビはこういう魔改造が得意だった(笑)。
言っちゃえば「原作をリスペクトせよ」と言うお題目は、エンターテイメント目線で見た時、「原作が非の打ち所がないくらい」面白い場合にのみ成り立つんだ。
逆に、往年のフジテレビがやってた事は「あまり知名度が無い、パッとせん漫画」を取り上げ安い権利料でドラマ化権を取り、その設定だけ借りてきて
、原作無視くらいにして「面白く仕上げちまう」と言う悪魔の所業だ(笑)。大体、原作が面白くて知名度が高けりゃ競争が起きて権利料も跳ね上がるだろ?それをかつてのフジテレビは「敢えて」避けたりしてたわけだ。
でも、それが悪いことなのか、と言うと必ずしもそうとは言えないと思う。原作者(もはや原案者だが・笑)に微々たるモンでもお金が入ってきて、そしてドラマ化されて全国放映されて単行本が紹介され以前に比べると売れる。それは原作者にとって「良い事」なのではないか(存命なら)。
何でもかんでも「原作原理主義」がいいのか、と訊かれれば「違う」としか言いようがないだろう。ラブクラフトも一般知名度や面白さ、で言うとショムニの原作とどっこいどっこいなんだ。
なお、フジテレビの同類の「仕事」に「お水の花道」等がある。
※2: ちなみに、僕は、タイプ的には「何かテーマがある」となると集中的にガーッとそれだけやる、と言うかなり極端なタイプの人間だ。三毛別羆事件がマイブームだった時も短期間に調べたり、それ関連漬けの毎日になってた。
※3: PC-9801時代のエロゲでは、他にクトゥルフ神話絡みだとアボカドパワーズの涼崎探偵事務所ファイル、
DOS/PC-98では洋ゲーのShadow of the Comet(クトゥルフ神話TPRGの正式ライセンス品のADV)
同じくクトゥルフ神話TRPGの正規ライセンス品であるDOS/Windows/PS/Sega Suturn用に出たPrisoner of Iceなんかがある。
近年でもクトゥルフ神話TRPG正規ライセンス品のCall of Cthulhuが出たが、全部合わせて見てみれば良い。これらの中でも「ネクロノミコン」はプレイしやすさ、面白さ、で、エロゲである事を除いても群を抜いてるのが分かるんじゃないか。
ただし、正確に言うと、ラブクラフト作品に配慮した、と言うよりは「クトゥルフ神話TRPG」の出版社、ケイオシアム社に巻き込まれたくなかった、と言った方が正しいだろう。ラプラスの魔はシステム的には「クトゥルフ神話TRPG」の劣化版システムなのだから。
※5: 例えば挿入される小ネタに「ZOMBIO/死霊のしたたり」というホラーコメディの原作になったラブクラフトの小説の主人公の名前があったりする。
これは不快なアプローチなのだろうか?むしろ、そういう「小ネタ」を散らばらせるのはラブクラフト入門者に対する「親切」だと考えるべきなのだが、生憎、「玄人」達はそういう事は全く考えない模様だ。