クレージー・クライマーと言うゲームがある。
多分、これも「ゲームセンターあらし」と言う漫画で知ったゲームだとは思う。
僕が大好きだったゲームだ。
前にもどっかで書いたが、そもそもビデオゲーム黎明期、ゲームセンターには子供は入れなかった。
よって、「インベーダー」とか「ギャラクシアン」と言う名前は聞いていてもそれをプレイする、なんつーのは夢物語だったわけだな。
結果、黎明期のビデオゲームに触れなかった為、僕はいまだにシューティングゲームが苦手だ。下手糞だ。
そして当時も、そのテのゲームは「すぐに100円玉が無くなっちゃう」100円玉吸入器にしか見えなくなってたわけだ。
しかし、「平安京エイリアン」が登場して以降、「シューティングじゃない」ビデオゲームもちらほら出てくるわけだよ。どいつもこいつもシューティングを作る、って状況が変わりつつあった。
結果、僕みたいな「インベーダーが苦手」な人も出来るんじゃねぇの?ってゲームがどんどん出てくるわけだ。
そんな中に「クレージー・クライマー」と言うゲームがあったわけだ。
謎の主人公が何故かビルの外壁を登るだけ、と言うなんともおバカなゲーム、だ。
しかし、ゲームのカラフルさ、とか「ビルを登るだけ」と言うのが僕のハートを撃ち抜いた。
そして恐らく、「画面のスクロール」と言う機能を初めて実装したビデオゲームだ(※1)。明らかにそれまでのゲームと違う「新技術」が詰め込まれたビデオゲームだった。
メーカーは日本物産。後にアーケードで「脱衣麻雀」とか「脱衣ポーカー」とか「脱衣花札」なぞと言う、アダルト向けゲームで有名になるメーカーだ。いや、言っちゃえば、アダルト向けゲームメーカーなのに唯一作れた「一般ウケする」ゲーム、がこの「クレージー・クライマー」なんだ。
なお、僕はこのゲームが好き過ぎて、当時流行ってた電子ゲームの「クレイジー・クライミング」を買って遊びまくっていた。
バンダイ製のLSIゲーム、「クレージー・クライミング」。一応、バンダイが日本物産に製造許可を貰った正規品ではあるらしい。バンダイもこの時代はマトモなゲームを作れてた(笑)。
さて、ところで、この「クレージー・クライマー」。実はエミュレータ泣かせ、だ。
いや、それどころか、そもそもファミコン移植でさえ難しかった。
なんせ筐体の操作系がこんなんだ。
気づいたろうか?レバーが2本、なんだ。
黎明期のアーケード・ゲームってユーザーインターフェースが統一されてなかったんだよ。結果、操作系が「あれ?」とか言うようなゲームが結構出てたんだ。
クレージー・クライマーもそういったゲームの一つで、結果、基本的にこの筐体は他のゲームにそのままでは流用出来ない。ある意味ゲームセンター泣かせのゲームだ。
そしてそれが一つの理由で、知名度や人気はそれなりにあったにも関わらず、ファミコンへの移植は大幅に遅れる事になる。何故なら、レバー2本なんつー操作系をどうやってファミコンへと持ち込むか、イマイチ分からんかった、からだよな。
ファミコン版クレージー・クライマーは1986年にリリースされる。ゲーセンでの発表からおおよそ6年後に移植される。
この移植は非常に良く出来てたんだけど、果たしてどうやって「レバー2本」と言う操作系の問題を解決したんだろうか。答えは、ファミコンのIコンとIIコンを二つ縦に並べて利用する、ってモノだ。
ファミコン「クレージー・クライマー」ポジション(笑)。
これはかなりアクロバティックな解決策だ(笑)。
なお、僕は裸のカセットを中古で入手したんで付いてなかったが、実はこのポジション用のヘルプ部品も本来なら同梱されていたらしい。
ファミコン用カセットに同梱されていた「クライマースティック」(爆
繰り返すが、元々、クレージー・クライマーってゲームはファミコン泣かせだったんだ。
ファミコン泣かせ、って事は当然エミュレータ泣かせ、って事になる。
- そもそもキーボードに1P用キーバインド、2P用キーバインドを両者同時に展開させるのは難しい。
- ファミコンコントローラを縦に二つ持つ前提上、キーボードの、例えばカーソルキーは←が↑になり、↑が右になり・・・と要は時計回りに90度回転してる。こんなのをパソコンのキーボードで扱うのは非常に難しい。
結果、ROMを吸い出したにせよ、ファミコン版クレージー・クライマーをパソコン上でプレイするのは極めて難しいんだ・・・キーボードを2台繋げて縦に並べて、って力技でもなんとかなるかもしれんが、そもそも通常、パソコンは「2台同時にキーボードをつなげる」なんて想定では設計されていない(笑)。
そして、それ以前に、移植の出来は良かったにせよ、ファミコンでプレイするのも元々難しいゲームなんだよ。
二回目の家庭用ゲーム機への移植は、当然スーパーファミコン向け、だ。当時は既に2本物産(略称ニチブツ)は「アーケードの脱衣ゲームメーカー」としての知名度が高く、それ用の製品しか出してなかった為、往年の「辛うじてマトモなゲーム」をクレージー・クライマーと詰め合わせてスーファミ向けにリリースする。それが「ニチブツアーケードクラシックス」だ。
これで初めて1Pコンは1Pコン、2Pコンは2Pコン、とコントローラ一つでプレイ可能となった。何故ならスーファミのコントローラのボタン数はファミコンに比べると大幅に増えているし、左右対象に配置されてたから、だ。
幸い、スーファミだと、XとBで右レバーの上下、YとAで右レバーの左右をエミュレート可能だ。
この、スーファミの6ボタン搭載、ってのは当初は「多すぎね?」とか思ったモンだが、ストリートファイターIIの移植をはじめ、結果非常に役立ってる。
また、この6ボタン制のお陰で家庭用ゲームにおけるUIも格段に進歩した・・・画面切り替えにRボタン、Lボタンを多用してスライドさせる、とかな。この辺、パソコン以上に「快適な操作性」を提供した任天堂の慧眼は凄まじい、の一言に尽きる。
さて、結果、スーファミ実機でのクレージー・クライマーは楽しくプレイ出来るわけだが、一方、やっぱエミュレータ泣かせ、なんだ(笑)。
何故なら、
- 家庭用ゲーム機の十字ボタンはコントローラの左側に配置されているが、PCのカーソルキーはキーボードの右側に配置されてるから
だ(笑)。
まぁ、この辺はぶっちゃけ、コンフィグでどうにでも弄れるけど、エミュレータの場合、1Pの十字キーはデフォルトでカーソルキーに配置されている事が多い。そうじゃない場合、十字キーにあたる部分はW-A-S-Dキーで対応してる事が多い。
僕はどっちかっつーとカーソルキー派で、W-A-S-Dで十字キー代わり、ってぇのはなんとも気持ち悪く感じる。
結果、ファミコン系コントローラとPCのキーボードだと左右反転してるんだな。右手が左手に、左手が右手になってる、ってこった(※2)。
フツー、これはゲームをプレイする上においては特に問題が生じないんだが、クレージー・クライマーに於いては違う。左手で右手を動かし右手で左手を動かす、と言ったとんでも操作になる、んだ。
結果、エミュレータだとどうしてもクレージー・クライマーは鬼門、って事になってたんだな。
しかし、とうとう、iPhone + RetroArchでこの問題が解決した。
これで死蔵してたクレージー・クライマーが復活した。
めでたしめでたし。
これでかつて愛したクレージー・クライマーがiPhone上で死ぬほどプレイ可能となった、っつーお話だ。
※1: ナムコの「ラリーX」とどっちが早いか、ってのは微妙なトコだ。
いずれにせよ、これらが出てくるまでビデオゲームは「固定画面」だった、と言う事だ。
なお、クレージークライマーは、同時に、初めて「サンプリングによる効果音」を利用したゲームでもあるんじゃないか。
※2: ちなみに、亡くなったファミコンの開発者、上村雅之氏によると、ファミコンのコントローラは当時固まりつつあったアーケードゲームのデフォルトのコントローラデザインに則った、との事だが同時にそれに対しては後悔してる、と言うような趣旨の発言をしている。
と言うのも上村氏に依ると、十字キーのような「繊細なコントロールを必要とする」デバイスは、右利きの人にとっては右側に来るべきであり、それが左側に来た、と言う事に対しては「間違った事をやった」と言う反省がある、と言うような事をどっかで書いてたと思う。
つまり、上村氏にとっては「パソコンのキーボードのようにカーソルキーが右側に来てる」と言うのが、理想の、正しいデザインだったわけだ。