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Retro-gaming and so on

ZOMBIO/死霊のしたたり

B級映画ファンには大きく言うと二種類いて、ゾンビモノが大好きな人とゾンビモノにそんなに思い入れがない人がいる。
僕は後者だ。

そもそも「ゾンビ映画」とは。元々メジャーになりきれない人が「アイディア勝負で」撮った映画なんだ。
モブ役者がボロボロのメイクをして「あ"〜」とか「う"〜」とか言いながらゆっくり歩いてくる。これは「安い」。しかもアイディア一発勝負だ。
狼男もフランケンシュタインもドラキュラもそれなりに凝ったメイクと撮影場所を要する。反面、「ゾンビ映画」はそこらの素人の人たちに「出てくれない?」と安いバイト料で持ちかけても「作り上げられる」映画だ。
これを発見した人がジョージ・A・ロメロだ。彼の作り上げた「コストパフォーマンスが高い」モンスター、ゾンビをフィーチャーした「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は傑作だ。確かにメチャクチャ面白い。
しかし、ゾンビものは上に書いたように、本来「低予算でのアイディア一発勝負モノ」であり、似た作品を作ってしまっても最初のブツの「オリジナリティ」には到底敵わないんだ。しかもベースのコンセプトはハッキリ言って最初の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」でヤり切られている。多数のゾンビに囲まれて逃げ場が無い少数の人たち。これだ。「閉鎖空間での恐怖」を最初の傑作で完全にヤり切られているんだ。
これが僕が「その他のゾンビ映画」に大して食指が動かない理由でもある。

まぁとは言っても、「低予算映画」で何か面白いモノを作りたい、となると作り手側にとっては結構魅力が大きいみたい。
そんな中で1981年に「死霊のはらわた」と言うカルト映画がヒットする(※1)。厳密にはこの映画はゾンビ映画ではない。ないが、内容はさておき、日本ではもっと重要なブームを起こしたんだ。そうタイトルだ。
この映画がヒットしたせいで、かなり長い間低予算ホラー映画には「死霊の〜」と付けときゃエエや、って一種ブームがあったんだよ(笑)。いやマジで(笑)。
レンタルビデオ店に行くだろ?んでホラーコーナーに行く。何かドロドログチャグチャのビデオは全部「死霊の〜」ってタイトルになっている(笑)。しかもそれらビデオは全部「ホンマに劇場公開したん?」って言うかなり怪しいブツばっかだったんだわ(笑)。
何だろね、スティーブン・セガールが出てる映画には全部「沈黙の〜」を付けときゃエエや、に近いかなり投げやりなブームだったんだよなぁ(笑)。
有名ドコだと

辺り?多分他にももっとあったし、国産スプラッターホラーである「死霊の罠」以外は、原題が別に「死霊の〜」ではないモノが殆どだった。
それこそB級ホラー映画には「死霊の〜」を付けときゃエエやん、と言う投げやりブームだったんだ。
まぁだからこそ、僕もこのテの「安直な商売」に辟易してたわけだな。その辺で特に「ゾンビモノは安臭い」を言うイメージを強固に持つ事に至ったわけだ。

ところで。
1985年に日本で大ヒットしたホラーコメディが制作される(※3)。バタリアンだ。
原題は"Return of the Living Dead"。そしてこれは権利的にはジョージ・A・ロメロ氏制作の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の正統な続編である。
ただし、アプローチを全く変えた。コメディ寄りに仕上げたんだ。何だろね、この時期、「ホラーをコメディ調で行う」ブームでもあったんだろうか(※4)。
というのも同年、全く同じ様に「ゾンビ」をネタにしたようなホラーコメディ映画が制作されてるんだ。しかし、こっちは東宝東和みたいな「仕掛け」が無かったせいか、劇場公開時にイマイチパッとした成果を上げてない(しかも日本に持ってきたのは全米公開から二年後の1987年だ)。そして東宝東和のような「邦題センス」もなかった。例によって「死霊の〜」を付けときゃいいや、と言う投げやりな態度で扱われ、余程のマニアじゃないと全く意識にも留めなかっただろう。
このホラーコメディ、邦題では「ZOMBIO/死霊のしたたり」と言う。
しかも原作はまたしてもH.P.ラブクラフトである。

ラブクラフト、と言えばクトゥルフ神話、だ。一般にはな。
ただし、この「ZOMBIO/死霊のしたたり」がクトゥルフ神話なのか、っつーと違うんだよな、多分。この辺クトゥルフ神話の専門の人も特に何か言ってない。っつーか分類上どうなるのか。
個人的な意見では、ラブクラフトって人は何がなんでも全部「クトゥルフ神話で書かなアカン」って脅迫観念を持ってた人ではないと思っている。っつーか、ぶっちゃけると「クトゥルフ神話」って言うカテゴライズを発案した人はラブクラフト自身ではない。ラブクラフト自身は「宇宙に存在する人知を超えた恐怖」を書く事に興味はあったが、別に体系的にそれを書こうとも思ってなかったんじゃないか(しかも、個人的にはそれが「成功した」とも思っていない)。
この「ZOMBIO/死霊のしたたり」の原作は、どっちかっつーとラブクラフトが「フツーっぽいアイディアでのホラー小説」をむしろ書いただけ、ってカンジだ。
原作は「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」(Herbert West-Reanimator)。原題を見ると分かるが「死体蘇生者」がReanimatorの訳語になっていて、そして「ZOMBIO/死霊のしたたり」の英語原題もRe-Animatorだ。Animatorはアニメーター(アニメを作る人)なのにReが付けば「死体蘇生者」なんだから英語ってぇのは難しい(※5)。



さて、まず原作の「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」だが、先にも書いたけど、これが「クトゥルフ神話」の1つ、って言って良いのかどうかは分からん。例によって「ミスカトニック大学」が出てきたり、「アーカム」が出てきたりするんで、「舞台」は共通してるんだけど、一方「宇宙的恐怖」はない。ラブクラフトには珍しく、実の事を言うとそこまで「オリジナリティがある」アイディアでもない。
と言うのも、「死体蘇生」と言うネタだけに絞って言うと、そもそもホラーの古典である「フランケンシュタイン」(1818年)がそうなんだ。そう、実はフランケンシュタインこそが「ゾンビ小説」のルーツって言えばルーツなんだよ。あんま気づかんかもしれんが。
つまり、前例がある以上、特に目新しいアイディアではない(※6)。そして先にも書いたけど、1980年代に映画化する、って意味でも目新しいアイディアじゃあないんだ。映画として考えた時にもジョージ・A・ロメロに先に色々やられてしまってる。
意外と「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」の話自体は良く書けた「ホラー小説」にはなっている。ラブクラフトとしては珍しい(笑)。なんせ厨二病的な「宇宙的恐怖」が出てこない。死体を生き返らせようとする、古典的とは言え、王道の・・・言い換えるとフツーのホラーだ。
ってなワケで、時代が若干違えば・・・10年くらい?ズレてればフツーに実写化しても怖い映画になってたかもしれん。しかし、これは確かにラブクラフトファンが怒ってもいいとは思うが(笑)、映画化されたのが1980年代だった為にシリアス路線じゃなくって、コメディ路線となってしまった。そしてほぼ同時期に公開されたバタリアンに勝てなかったのだ・・・・・・。

ただ、小説のハーバート・ウェストと言うのはハッキリ言えばマッドサイエンティストであり、映像化してカリカチュアライズすると、うん、コメディの主役みたいになっちゃう、ってのも分からんでもないんだよね。だって、フツーの倫理観が無い人なわけで、それを主役として映画にして「そのまま楽しめるのか」と言われると、これは作劇上ツラいかもしんない。
映画では医学研究生になっている。そして死者蘇生に挑戦しまくり、同僚で同居人のダンに迷惑をかけまくるわけだ。その迷惑が「死者蘇生」であり、理論上は面白くても結果がメチャクチャだ、と言う「マッドサイエンティストの所業」に文字通りなっていくわけだ。死者は蘇り、しかも蘇った死者はマトモではない。
バタリアンでの「死者蘇生薬」は軍が作った謎の薬品なわけだが、こっちのZOMBIOでは要するにそのバタリアンでの謎の薬品を作った側の話なんだ(笑)。まぁ、お互いに関係ねぇけどな(笑)。

ハーバート・ウェスト。死者蘇生を目論むロクでもない「マッドサイエンティスト」。


ハーバート・ウェストの「実験」につきあわされるダン・ケイン(右)。そしてその恋人のメイガン・ハルシー。ミスカトニック大学の医学部長の娘だ。


ミスカトニック大学医学部長アラン・ハルシー。ハーバート・ウェストとダン・ケインが死体置き場で実験して生成した「ゾンビ」に殺され、ウェストの投薬によってゾンビと化してしまう。

脳死の専門家カール・ヒル博士。ハーバート・ウェストの研究を入手しようとしてハーバード・ウェストに殺される。が、ハーバート・ウェストは彼もゾンビ化して、しかもブロッケン伯爵状態にする。
このヒル博士は老いらくの恋、っつーか友人であるミスカトニック大学医学部長アラン・ハルシーの娘、メイガンに横恋慕してて、ゾンビ化したのを幸いに彼女を舐め回す。原作はあくまでハーバート・ウェストが悪者だが、この映画、ウェストの被害者であるヒル博士もなかなか曲者な辺りが面白い(っつーかコッチの方が悪者に見える・笑)。










とにかく、この映画は「H.P.ラブクラフト原作」と言いながら悪趣味でやりたい放題だ(笑)。80年代のB級映画の為乳首も出るが、そもそも死体安置所に置かれてる死体は裸なんで、ゾンビヌードショーになってる(笑)。ちっとも嬉しくない(笑)。
フツーのゾンビものと違って「意思がある」ヤツが出てきて、また「感染はしない」。あくまで研究途中の医学/化学/薬学によって無理矢理蘇生された死体達だ。
いずれにせよ、もし、ゾンビ映画が好きなら「一風変わった」この作品は気に入るとは思う。

なお、制作のブライアン・ユズナは1993年、この映画の製作時にライバル(?)だったReturn of the Living DeadのPart 3(バタリアン リターンズ)のメガホンを取る。
この映画のオチが、巡り巡って「バタリアン リターンズ」の骨組みとなったんじゃないか。
そう考えるとなかなか面白い。

いずれにせよ、H.P.ラブクラフト原作、って謳ってるモノで、何の前提知識もなく楽しんで観れる作品は、取り敢えず「ダンウィッチの怪」とこの映画、の二本だと思う。
他にもチラホラあるが、「あまりマジメじゃないラブクラフト入門」としてはこんなモンじゃないかな、とか思っている。

※1: 後に「スパイダーマン」の監督をやるサム・ライミのデビュー作。なお、この「死霊のはらわた」ではそれこそラブクラフトのアイディア「死者の書」(ネクロノミコン)を借りてきている。

※2: 厳密には日本未公開の1965年の作品だが、なんだかんだで日本に紹介されたのはこの年だった。

※3: 日本で公開されたのは1986年。

※4: 良く考えてみれば1984年、ゴーストバスターズが公開される。
これはホラー寄りコメディだったが、SFXの発達により「ホラーとコメディは融合出来る」と言う事を示した最初の例かもしれない。

※5: 語源は全く同じでアニミズムやアニマルとも語源が共有されている。
元々、ラテン語ではanimaは「魂」を意味してて、アニメーションは「(絵に)魂を吹き込まれたモノ」、animalも「魂を持って動くモノ->動物」、アニミズムは「魂信仰 => 精霊等を信仰する」と言う意味だ。
従ってReanimatorは「再び魂を吹き込む者」なので、死体蘇生者になるわけ。

※6: 特に中国から日本に伝来した「反魂」と言う死者蘇生に対するホラー的アイディアがあり、当然ラブクラフトなんかよりアジア的な「反魂」の方が先にある。



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