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藤沢周平著『時雨みち』を読む

2014年11月05日 | 折々の読書
 昨今、忙しく練習時間が消滅。余暇と言えば通勤電車の中しかなく、文庫本を読むのが精一杯。縁あって求めた短編集で束の間の安らぎを得ている次第。

 藤沢の本は初めてかもしれない。
 NHKのラジオ文芸館で『滴る汗』を聞いて買ってしまった。前半しか聞けず、結末が知りたくなり、ついつい買ってしまった。思えば、罪作りな番組である。

 表題の作品を含む短編集である。
 もちろん、江戸時代の武士や商人などに仮託した時代小説だが、人生の中で起こり得る悲劇を克明に描写していて引き込まれる。いや、悲劇とは断定できないが。
 『滴る汗』は、公儀隠密の主人公がばれそうになった時の葛藤を描いている。かくれんぼをしていて見つかりそうになった時の緊張感と言ったら笑われるか。そんな状態も千分の一くらいは含まれているように思う。思わず落ちてしまう人生の罠。動きがとれない恐怖が伝わってくる。

 このようなサスペンスとは反対に、緩徐楽章のように置かれているのが、善人が登場する小編である。人生の機微に結ばれる人々の表情が安心を与えてくれる。悲劇的な作品とはリバースの関係に見える。
 どちらの作品も、私がラジオの続きに期待したような明確な結果は出ない。サスペンドのまま読者は放り出される。明るい作品もハッピーエンドは暗示されるだけだ。それは、大人の味かも知れず、藤沢作品が長く愛されている理由かもしれない。

 ■藤沢周平著『時雨みち』(新潮文庫)1984年5月刊.★★★★


2 コメント

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根付け (ボージー)
2014-11-07 22:52:09
もしかして最後、根付けが…というお話でしたでしょうか
もしそのお話だとしたら、私は逆に前半を聴き逃しておりました
あの時代は夜中は真っ暗が当たり前なのだなーと、初めて気が付きました
NHKラジオは好きでほぼ毎日聴いております
良い番組が沢山ありますね
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ラジオ (isis)
2014-11-08 00:27:52
ボージーさん、こんばんは。

大きな声では言えませんが、そのとおりです。周りの人はなんでもないことが、当人には命取り… 最初は普段の生活が普段どおりに進んでいくのですね。それが…

ラジオを聴いてから読むとアナウンサーの声が聞こえてくるような気がします。ラジオはパーソナルなメディアなのでしょうね。そういえば、ラジオは、番組に出てくる人が、テレビと比べると少ないです。沢山タレントが出ていても何の印象も残らないのがテレビですね(笑)。
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