字を習わない頃から、どういうわけか文字が好きで、余った紙の裏にそれらしいものを書いて遊ぶのが大好きでした。もちろん、書くのは出鱈目な文字で、くねくねした曲線を英語と称したりした他愛のないものでした。要するにいたずら書きです。
それ以来、私の文字はいたずら書きの域を出ていません。ちゃんと勉強していれば金釘流ではない少しはましな字が書けただろうにと悔やまれてなりません。ところが、世の中には隠れた名筆が存在し、素朴ながら味わいのある字や無心な筆致を見て感動することがあります。
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貨物列車は最近とんと見なくなりました。トラックに陸上輸送の王座を奪われてから久しく、民営化後も経営はよい状況とは言えないようです。年寄りの郷愁かも知れませんが、子供の頃見た黒一色の長い貨物列車がとても懐かしく思われます。そして、貨車の側面には小さな紙が差し込まれ、達筆で何やら書かれていましたが子供にとっては謎でした。
数年前、物流博物館から貨車車票様式変遷年表を取り寄せた際に付録として貨車車票が入っていて懐かしの再会をしました。本来は、貨車の行き先や経由地、積載物品名等が書き込まれるものです。限られた時間でさっと書かれ、用が済めばさっさと廃棄されたものでしょうが、それゆえに美しくさえ見えたものです。「用の美」というところでしょうか。
汽笛を鳴らして機関車が動き出すと連結器が伸びてぶつかり合い、順番にガチャガチャと音を立てて最後尾まで届いていくのを聞くのも楽しいものでした。貨物列車の編成は2軸貨車が主で、タン、タン、タンと単調なリズムを響かせて、無蓋車や有蓋車、タンク車や冷蔵車などが次々と目の前を通過し、最後は車掌車の赤い尾灯を見送りました。
子供の頃の平和な時代の思い出です。∎
参考サイト
貨物列車(ウィキペディア)
貨車車票(ウィキペディア)
Nikon D5600 / AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G