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ベルトー VS サンマルティーニ

2017年05月04日 | 音楽で考えた
冒頭から結論を書くことになるが、すでに知られた事実であるのでお許しを願いたい。実は、「サンマルティーニのチェロ・ソナタト長調」はサンマルティーニの作品ではなかった。

発端は、イギリスの古楽雑誌、『アーリー・ミュージック』(1989年8月号)に発表されたジェーン・アダス〔発音不詳〕(Jane Adas)の論文「いとも名高きベルトー」〔意訳〕("Le célèbre Berteau") だった。この中で、当時、有名人だった伝説のチェリスト、マルタン・ベルトーについて、また、彼の作品の印刷譜の書誌的な研究結果が論じられた。
それによれば、1748年にパリで刊行されたマルティーノと作曲者表示のあるソナタ集(作品1)が、いわゆるサンマルティーニのソナタ・ト長調を含む作品集のオリジナルであるという。この初版本は、フランス国立図書館に2部、大英図書館とボローニャ市立音楽図書館に1部づつ遺されている。
このソナタ集は、その後だいぶ経った1772年に第2版が出版され、この時は晴れて本名、マルティーノ(マルタン)・ベルトーが表示された。初版に変名を表示したのは、作曲者の出版を巡る経済的な諸事情があったことによるらしい。

初版出版から160年以上が過ぎた1911年、ひとりの人物がこの楽譜を「発見」した。アルフレッド・モファット(Alfred Edward Moffat, 1863-1950)は、古い音楽を発掘することに情熱を傾けていた音楽家であったが、この表紙から作曲者をサンマルティーニに結び付けてしまった。音楽史の知識が仇となったのかも知れない。致命的だったのは、彼が第2版を見ることがなかったということだ。モファットが第2版のベルトーの名前を見ていれば、彼がサンマルティーニの作品としてこのチェロ・ソナタを出版することはなかったかも知れない。

モファットは発見と同時に、この作品1の第3番、ト長調をサンマルティーニ作曲として出版した(1911年)のだが、悪いことに、彼はオリジナルに手を入れて書き直したり、第2楽章の重音を全廃し、第4楽章自体を省略してしまった。モファットの肩を持つわけではないが、これはこの時代としては致し方ないことのように思う。
しかし、楽譜は広がり、3年後の1914(大正3)年には早くも録音が行われ、レコードが発売された。その後もいくつかの録音が続き、演奏会でも取り上げられるようになり、しだいに「サンマルティーニのチェロ・ソナタト長調」はチェリストのレパートリーとして定着していく。偽装サンマルティーニの独り歩きが始まったのである。そして、それ以降は、ご存知のとおりである。

ベルトーとして、ピリオド楽器で演奏している動画です。演奏は、ラ・プティット・バンドのロナン・ケルノア。好演だと思います。第3楽章まで。
Ronan Kernoa: Berteau: Sonata terza


ベルトー VS サンマルティーニ
ベルトー VS サンマルティーニ(続)
ベルトー VS サンマルティーニ(付録)
ベルトー VS サンマルティーニ(ディスコグラフィー1)
ベルトー VS サンマルティーニ(ディスコグラフィー2)
ベルトー VS サンマルティーニ(ディスコグラフィー3)
ベルトー VS サンマルティーニ(ディスコグラフィー4)
ベルトー VS サンマルティーニ(エピローグ)


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