本当の損失

今朝の新聞記事から


～ナイジェリア～
「疑い」で隔離　抑え込み成功　－小病院、公共の利益優先－

（前略）
　７月に感染が飛び火したナイジェリアが１０月に流行終息にこぎ着けた背景には、「公共の利益」を優先して感染確認前から患者を隔離し最大都市ラゴスでの大流行を未然に防いだ私立病院の判断があった。

　７月２０日夜。ラゴスの繁華街にあるファースト・コンサルタンツ病院に、リベリア財務省に勤めるP．ソイヤー氏（４０）が空港から搬送されてきた。症状は発熱と頭痛。西アフリカ諸国経済共同体（ECOWAS)の会議出席のため入国した直後だった。

　B.オビエリ院長（７０）によると、約４０床の小さな病院が選ばれたのはECOWASの指定病院だったことと、ほかの大半の病院が医療関係者のストで閉鎖状態だったからだ。

　ソイヤー氏は「マラリアが再発した」と説明。だが薬を投与し翌日になっても症状が改善しない。眼球に浮かんだ赤い斑点と血尿に気付いたS.アダデボ医師（５７）が「エボラ熱かもしれない」と疑い始めたという。

　ソイヤー氏は妹がエボラ熱で死亡したことを隠していた。アダデボ医師は感染の恐れがある人が人口約１千万人のラゴスをあるくのは危険と考え、院内にとどまるよう伝えた。

「重要な会議があるんだ」。ソイヤー氏は隔離措置に怒り狂って点滴の管を抜き、病室内に血が飛び散った。院長は「あれで何人か感染しただろう」と苦々しげに振り返った。

　院長によると、リベリア大使館関係者は病院に対し、事実上の監禁であり「外交問題になる」と警告、法的措置を取る構えも見せた。悩んだアダデボ医師らは弁護士と相談したが、公共の利益のために隔離措置を続けるべきだと結論付けた。

　数日後に感染が確認されたソイヤー氏は死亡。ナイジェリア初のエボラ熱確認例となり、アダデボ医師の判断で接触者が最小限に抑えられていたことが証明された。WHOは１０月２０日に同国での感染終息を宣言。感染者は２０人、死者８人だった。

　だが代償は大きかった。医師ら計１２人が感染、うちアデダボ医師や妊娠中の看護師を含む６人が死亡した。病院は約２ヶ月間閉鎖を強いられ、再開後に戻った患者は以前の約１割だ。院長は「機材をほとんど入れ替え、消毒しても、エボラ熱患者がいたという汚名は消えない」と肩を落とす。

　来年引退し、２１年間共に働いたアダデボ医師を後継者にするつもりだったというオビリエ院長。「経済的損失のことをよく聞かれるが、本当の損失はアダデボ医師のような貴重な人材だ。今でも彼女が毎朝、部屋に入ってくる気がしてしまう」と寂しそうに笑った。