ご承知と思うが、電子図書館 青空文庫に古今の名作が蒐められている。下のような文章も皆横書きだ。読みにくいので時々縦にセットして読んで見たりしている。こんな文章を横に読むと、すっかり雰囲気が違ってしまうと思うのは私だけだろうか?
"見れば渠らの間には、被布着たる一個(いっこ)七、八歳の娘を擁しつ、見送るほどに見えずなれり。これのみならず玄関より外科室、外科室より二階なる病室に通うあいだの長き廊下には、フロックコート着たる紳士、制服着けたる武官、あるいは羽織袴(はかま)の扮装(いでたち)の人物、その他、貴婦人令嬢等いずれもただならず気高きが、あなたに行き違い、こなたに落ち合い、あるいは歩し、あるいは停し、往復あたかも織るがごとし。予は今門前において見たる数台(すだい)の馬車に思い合わせて、ひそかに心に頷(うなず)けり。"
"未(ま)だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠(さしこ)めて、真直(ますぐ)に長く東より西に横(よこた)はれる大道(だいどう)は掃きたるやうに物の影を留(とど)めず、いと寂(さびし)くも往来(ゆきき)の絶えたるに、例ならず繁(しげ)き車輪(くるま)の輾(きしり)は、或(あるひ)は忙(せはし)かりし、或(あるひ)は飲過ぎし年賀の帰来(かへり)なるべく、疎(まばら)に寄する獅子太鼓(ししだいこ)の遠響(とほひびき)は、はや今日に尽きぬる三箇日(さんがにち)を惜むが如く、その哀切(あはれさ)に小(ちひさ)き膓(はらわた)は断(たた)れぬべし。"
近年日常生活でも、横書きが増えて大分慣れてきたとはいうものの、横書きはやはり読みにくく、書きにくい。
若い甥っ子に聞いてみると、縦書きなんて特殊な場合にしかしないという。
多くの作家さんたちが、"原稿は横に書いて、校正は縦に読む" と聞いたのは大分前のことだ。作家は原稿用紙に万年筆で書く。という固定観念を持っていた私だが、それはなんとなくナットクした。(内緒のヒトリゴト。ジノヘタナヒトモオオインダカラネ)
考えてみれば、作家も普通の人なのである。知り合いのお嬢さんが芥川賞を貰った。というのは大ニュースだが、そのお嬢さんは、やっぱりそのお嬢さんであって、別に作家というものに変身した訳ではない。(ナニヲクダラナイコトヲカイテイルノダ)
が、今私は、出版物がすべて横書きになるんじゃないかというちょっとした危機感に襲われている。
だって中国を見てごらんなさい。漢字の本場がゼーンブ横書きだと云うではありませんか。
新中国の誕生と同時にそうなっていたんですね。(非常識なことに、ほんの10年ばかり前までその重大な事実を知らず、若い中国の学生さんから聞いたときには、天地がひっくりかえるほど驚きましたよ!)
しかしー。 漢字とか仮名は目線を横に動かして読むより、縦に動かして読むほうがずーっと楽だとは思いませんか? 味わい深いし・・・・。
文部科学省(かな?)の決定で、来年度から新聞・週刊誌・国語教科書・その他 出版物がすべて横書きに!! というようなことが起こりませんように