それが
何度かけても
女性はケータイに出ない
病院へ父を連れて行ったから
出られないのかと
時間をあけては
繰り返し
かけても
出ない
もう実家にいるのかも、と
実家にかけても
出ない
聴覚に支障がある父は
普段からケータイの着信に
気づかないことが多いし
まして、あの状態では
出られないだろう、
と
夜遅い時間に
兄に相談をすると
翌朝早くの新幹線で
向かってくれるといい
午後には着いて
様子を見に行くから
仕事へ行っておいでと
言ってくれはしても
眠れないわけだし
やはり
仕事前に早めに自宅を出て
実家へ寄った
インターホンを鳴らしても
中から反応はなく
仕方なく
勝手に家に入ると
誰もいない
入院でもしたのだろうか
女性のケータイには
繋がらない
キッチンのシンクまわりで
何か料理をしようとした形跡を見ると
父が野菜炒めと味噌汁を作る様子がわかる
女性は味噌汁を作らないから
父がやっていたのがわかる
生前の母が大事に使っていた
オーブンが開きっぱなしだし
と
目にしたのは
オーブンの角についた血と
床にも血を拭いたのか
踏んで滑りでもしたのか
変な跡がついていた
つづく