アジア映画巡礼

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東京フィルメックスのインド映画『マイルストーン』について

2020-10-22 | インド映画

来週末、10月30日(金)から、第21回東京フィルメックスが始まります。詳しくは東京フィルメックスの公式サイトを見ていただければ、と思いますが、上映作品の中にコンペ作品としてインド映画『マイルストーン』が入っていますので、そのご紹介を簡単にしておきたいと思います。まずは、映画のデータからどうぞ。

『マイルストーン』 作品紹介
 2020/インド/ヒンディー語・パンジャービー語/98分/原題:Meel Patthar मील पत्थर /英語題:Milestone
 監督:アイヴァン・アイル(Ivan AYR)
 出演:スヴィンダル・ヴィッキー(Suvinder Vicky)、ラクシュヴィール・サラン(Lakshvir Saran)
 上映:①10月31日(土)21:20 ヒューマントラストシネマ有楽町
    ②11月5日(木)12:50 TOHOシネマズ シャンテ1

舞台となるのは、インドの首都デリーにあるトラックセンター。あるいはトラック物流集積所と言ってもいいのですが、委託を受けた荷物をセンターでトラックに積んで、指定された先に送り届ける、あるいはトラックで相手先に引き取りに行き、指定された先に届ける、といった仕事のために、常時トラックが何十台と止まっている場所です。主人公のガーリブ(スヴィンダル・ヴィッキー)はベテラン運転手で、皆から「ガーリブ・バーイー(兄貴)」と呼ばれて尊敬されていました。ところがこのセンターで、荷物の積み込みを行う労働者がストに突入します。センターでの荷物の積み下ろしや、トラックに同乗して出先で積み下ろしを行う彼らがおらず、自ら積み下ろしを行ったガーリブは腰を痛めてしまいます。このセンターを経営しているのは老年のシク教徒ギル社長で、今は息子の若社長が中心になって仕切っていました。

社長や若社長が信頼を寄せているのがガーリブ、そして同じくベテラン運転手のシク教徒ディルバーグでした。しかしディルバーグは夜目が利かなくなり、夜間運転を代わってもらうべく若手を養成していますが、なかなか若手の腕前は上がりません。ガーリブも家庭での問題を抱えており、その解決のため故郷の村に帰って、パンチャーヤト(5人の委員からなる村落委員会。委員長はサルパンチと呼ばれる)に査問を受けたりします。やがて若社長はガーリブに、若い運転手パーシュ(ラクシュヴィール・サラン)の養成を頼み、パーシュはトラックに同乗するようになりますが、これもガーリブの内に不安のタネを植え付けることに...。

今回、実に久しぶりにフィルメックス上映作品の字幕を担当させていただいたのですが、まず嬉しかったのは、主人公のトラック運転手ガーリブを演じているのがスヴィンダル・ヴィッキーだったこと。この男優は、2016年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された『彷徨のゆくえ』(2015/パンジャービー語)でも主人公のシク教徒を演じていた人で、その後ヒンディー語映画『フライング・パンジャーブ』(2016)や『KESARI/ケサリ』(2019)にも出演しています。今回は「ガーリブ」という、かの有名なムガル時代の詩人と同じ名前なので、イスラーム教徒役ではないかと思うのですが、劇中では彼の宗教に関しては言及されていません。あとは新入りの運転手パーシュ役のラクシュヴィール・サランの名前しかIMDbにも挙がっていなくて、出演者名が全然わかりません。ただ、劇中のサルパンチ役が年老いた女性で、威厳と親しみのあるとても素敵な女優さんが演じているため、誰だか知りたいと思っていたところ、偶然モーヒンダル・カゥル・グジュラール(Mohinder Kaur Gujral)という人ではないかと思うようになりました。

そう思ったのは、アイヴァン・アイル監督(上写真)の前作『ソニ(ソーニー)』(2018)をNetflixで見て、その中の祖母役の人が同一人物では、と思ったためです。アイヴァン・アイル監督の経歴については全然わからず、フィルメックス事務局による紹介待ちなのですが、英語字幕を自ら作っている(エンドロールで判明)ことから、劇中で使われているパンジャービー語とヒンディー語、そして英語を話すトリリンガルではと思われます。上の写真と名前からすると欧米人のようですが、インド生まれ&育ちの人なのかも知れません。『ソニ』はデリーの女性警察官2人が主人公で、正義感が強すぎてすぐブチ切れ、暴力沙汰を起こしてしまうソーニー(ギーティカー・ヴィディヤー・オーフリャーン)と、彼女の上司で裕福な家柄のカルプナー(サローニー・バトラー)の物語となっています。カルプナーの姑役をやっていたのが、モーヒンダル・カゥル・グジュラールだったのですが、どれぐらいチャーミングか、『マイルストーン』をご覧いただければおわかりになるかと思います。

(ネットで見つけた撮影中らしきショット)

あと、この映画ではトラック輸送のあれこれが出てくるのですが、かならずしも丁寧に状況が説明されていません。できれば前もって、こちらの記事を読んでおいていただければ、と思います。これを書いた日本人記者は、国道に続くトラックの長蛇の列を見て最初「工場への納品待ちか?」と思い、その後州境での検問に並ぶ列だと知って驚いたとのことですが、検問所でのワイロのことにも触れてあり、なかなかよく調べられた記事となっています。このほか、トラック輸送は強盗に遭遇することもあり、武器で脅されてトラックごと盗まれるケースでは、25,000㎏のピスタチオを運んでいたトラックが盗まれたケース(9月11日のこちらの記事)や、医薬品を満載したトラックが襲われた事件もあります。また、何の映画だったか忘れたのですが、検問待ちのトラックが盗賊に襲われるシーンもあったりと、警官のいる検問所だからと言っても、待っている長蛇の列では何が起こるかわかったものではありません。そんなトラック運転手の苦労と、彼らよりもずっと安い賃金でこき使われている運搬労働者たちの実態などが、主人公の人生と重ねて描かれています。

MovieTrainer: Meel patthar (Milestone) - Official clip SUB ENG

予告編ではなくて、作品の一部を抜き出した動画なのですが、公式クリップのようなので上に付けておきます。アート系作品ですが、インドの一面とインド人の生き方がわかる良作です。この機会にぜひご覧下さい。

 


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2 コメント

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Unknown (せんきち)
2020-10-31 08:56:05
ご無沙汰しております。
監督のプロフィール、簡単なものですが下記にあります。
既にご存知でしたら、申し訳ございません。
https://www.asiapacificscreenawards.com/apsa-academy-members/ivan-ayr
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せんきち様 (cinetama)
2020-10-31 22:34:32
コメントでのご教示、ありがとうございました。
先ほど、朝日ホールでお目にかかったばかりですね。

プロフィール、私も前の記事をアップしたあとググりまくりまして、この記事ではないのですが、いろいろわかりました。
フィルメックスのカタログにも、教えて下さった記事とほぼ同じような紹介が掲載されています。
ほかにもググった中で、本作の背景がよくわかる記事などもあり、いくつかの疑問は解消しました。
解消しない疑問もあるので、Q&Aでもし聞けたらと思っているのですが、質問用QRコードをうまくキャッチできるだろうか&スマホにうまく書き込めるだろうか、というのが目下の不安です。
入場時にチケット代わりのQRコードがうまく出るかどうか、というのも毎回ドキドキで、今日はぐったり疲れてしまいました。
ハイテク・チケットよりやはり紙チケットがいいな...と時代遅れの私はないものねだりです。

では、またFILMeXかTIFFの会場ででも。
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