5月11日に引いた風邪が、とうとう先週シーソーの「風邪本格化」側に転がってしまい、喉の痛み、咳、鼻水、発熱とフルコースを体験することに。何とか薬でおさえて、今少しずつ回復に向かいつつありますが、本棚に本を戻すという重労働を続けた疲れも出たのかも知れません。何せ、1箱20キロぐらいある段ボールを、短い距離とはいえ150個運んだんですからねー。腰痛にならなかっただけめっけもんです。そんなわけで、先日30数年ぶりに見た韓国映画『風吹く良き日』 (1980)を早く紹介したいと思いながら、「風邪引く長き日」になってしまいました。
『風吹く良き日』は「韓国ニュー・ウェーブ、再発見」と題されて、『鯨とり ナドヤカンダ』 (1984)と共に6月18日から新宿K's cinemaで上映されます。その後、札幌のシアターキノ、新潟のシネ・ウィンド、横浜のジャック&ベティ、大阪のシネ・ヌーヴォ、京都の京都みなみ会館、沖縄桜坂劇場等でも上映される予定です。両作品のデータは次の通り。
『風吹く良き日』 【1980年/韓国/カラー/シネスコ/113分】
監督・脚本:イ・ジャンホ
出演:アン・ソンギ、イ・ヨンホ、キム・ソンチャン、ユ・ジイン、キム・ボヨン
『鯨とり ナドヤカンダ』 【1984年/韓国/カラー/シネスコ/112分】
監督・脚本:ペ・チャンホ
出演:アン・ソンギ、キム・スチョル、イ・ミスク、イ・テグン
上映作2本の予告編はこちら。公式サイトでも予告編を見ることができます。
上は『鯨とり』の1988年日本一般公開時のチラシですが、タイトルの所に小さく「KUJIRATORI(コレサニャン)」と書いてあります(アン・ソンギの帽子の上ですが、ちょっと小さすぎて読めないかも)。この時は『鯨とり コレサニャン』というタイトルが定着していたのですが、今回は原題である「コレサニャン」ではなく、劇中に流れる主題歌のタイトル「ナドヤカンダ」を副題としたとのこと。「ナドヤカンダ」って、”俺も行く”という意味でしたっけ? 試写の時いただいたプレスにある、”我も行かん”というのが正式な(?)邦題でしょうか。
この主題歌を歌っているのが、主演者の1人であるキム・スチョル(金秀哲)。眼鏡のひ弱な大学生を演じています。1970年代末に「小さな巨人」というバンドを作って歌手デビューした人で、1980年代はシンガー・ソングライターとして人気がありました。私の手元にも、こんな懐かしいアルバム、というかカセットテープが残っています。
左が1985年のアルバムで「小さな巨人 キム・スチョル3」、右が1987年のアルバム「キム・スチョル」です。 この頃は、ポップスや歌謡曲のアルバムには必ず1曲「健全歌謡」を収録しなくてはいけない決まりになっていて、カッコいいサウンドの歌を聴いていたら、次は突然ラジオ体操の歌みたいなのに切り替わり、気分をそがれることおびただしい時代でした。この1987年のアルバムにも入っているので、やはりパルパル(1988年。ソウル・オリンピック開催の年)あたりまでそういうのが続いていたのでしょうか。
『鯨とり』は、キム・スチョル演じるダメ大学生が失語症の娼婦(イ・ミスク)に同情し、彼女を逃がして故郷の村に帰してやろうとする物語です。大学生を助けるのがホームレスの男(アン・ソンギ)で、彼は大学生にいろんなことを教えてくれる人生の師ともいうべき存在となります。また、娼婦を追いかける娼婦宿の男をイ・デグンが演じていますが、この人の名前は漢字では「李大根」と書くので、当時「大根という名前で役者なのか~」と妙に印象が強かった憶えがあります(笑)。でも、大根役者どころか、『カッコーは夜中に鳴く』 (1980)等名演技を見せてくれた人でした。
イ・ミスク(李美淑)は、『情事 an affair』 (1998)で再会した時はびっくりしました。あの『鯨とり』の清純な女優さんが、イ・ジョンジェと不倫を演じる熟女になってしまってるなんて! 歳月は人を変えますねー。というわけで、キム・スチョルも変わりました。ごく最近のMVでは、と思うのですが、『鯨とり』の主題歌「ナドヤカンダ」を歌っている映像を発見、あのホネホネ大学生がこんなでっぷり中年に、とまたまた嘆き節です。アン・ソンギやイ・ミスクも出演している、この味のあるリメイク版MVもどうぞ。
『風吹く良き日』の紹介が最後になってしまいましたが、こちらでもいろいろ発見がありました。
この映画では、田舎からソウルへ出てきた若者3人の生き方が描かれていくのですが、中でも主人公といえるのがアン・ソンギ演じる中華料理店の出前持ち青年。お金持ちお嬢様に振り回されたり、仲間の妹に慕われたりするのですが、そのお嬢様を演じていたのが何とユ・ジイン(兪知仁)でした。『避幕』 (1980)のムーダン役で忘れられない印象を残す彼女、こんな映画にも出てたのねー、でした。ほかにも、パク・ウォンスク(「星に願いを」の意地悪おばさん)やチェ・ブラム(「その陽射が私に」の会長役)が出ていたりして、「今とあんまり変わらへんやん」と思ったりとあれこれ面白かったです。
タイトルがアニメ仕立てだったこともコロッと忘れていたぐらいの『風吹く良き日』、まるで新しい作品を見るようでとても新鮮でした。『鯨とり』もそうですが、時の流れに耐えうる映画っていいですね。1980年代、池袋西武デパート8階にあったスタジオ200では韓国映画がいっぱい上映されていたんですが、あれはまさに現在の韓流へとつながる澄んだ小川だった気がします。