ニュージーランド、クライストチャーチの大地震は、本当に痛ましい出来事でした。海外渡航中の日本人の方が犠牲になる、というのは人ごととは思えず、ご本人やご家族の方のお気持ちを考えるといたたまれなくなります。2004年12月のインドネシア沖地震による津波被害の時も、同じような思いを味わいました。アリューシャン列島から日本、フィリピン、インドネシアを経てニュージーランドまで続くのが環太平洋火山帯の西半分ですが、何だか次は日本ではという気もしてきます。
中国はこの火山帯からははずれているのですが、それでも結構地震が起きています。記憶に新しいのは2008年5月12日の四川大地震で、耐震構造になっていなかった学校等が崩壊して生徒はじめ多数が死傷、死者・行方不明者は9万人にものぼりました。四川省が震源地だったので、パンダの故郷も被害にあったことなどを憶えている人も多いでしょう。
それ以前にも、中国は大きな地震に何度か見舞われています。中でも死者・行方不明者数が最も多く、25万人近くにものぼったのが1976年7月28日の唐山大地震でした。唐山市は北京から東へ約140キロの工業都市ですが、1976年と言えば、プロレタリア文化大革命が終息へと向かっていた時期です。その年の1月に周恩来首相が死去、文革の象徴だった毛沢東主席も同年の9月9日に亡くなりますが、毛沢東死去の直前に、唐山大地震は起きたのでした。
3月26日から公開される、中国映画『唐山大地震-想い続けた32年-』は、この時の地震によって引き裂かれた家族が、四川大地震をきっかけに再会するという、1976年~2008年の32年間にわたる家族の物語です。まず、映画のデータを書いておきます。
『唐山大地震-想い続けた32年-』 (2010/中国/原題:唐山大地震) 公式サイト(音出ます)
監督:馮小剛(フォン・シャオガン)
主演:徐帆(シュイ・ファン)、張静初(チャン・チンチュー)、陳道明(チェン・ダオミン)、陸毅(ルー・イー)
原作:張〔令羽〕(チャン・リン)「余震(Aftershock)」
提供・配給:松竹
上映時間:2時間15分
公開予定日:3月26日
物語は、暑い唐山市にトンボの大群が異常発生するところから始まります。そして、真夜中過ぎに起きた地震は、外にいた両親と、部屋で寝ていた男女の双子を分断してしまいます。アパートは崩れ、子供たちを助けようと中に飛び込んだ父親は死亡。子供たちはがれきの下に閉じこめられるのですが、救助の手が足りない中、近所の人々は「男の子か女の子か、どちらかしか助けられない。どちらにするんだ?」と母親に迫ります。映画の中で一番つらい場面です。
結局男の子が助け出され、死んだと思われた女の子は父親と共に遺体安置場所に。ところが、女の子は息を吹き返し、人民解放軍兵士に助けられます。自分が母親から遺棄されたと思った彼女は口をきかず、やがて救援にやってきた軍人夫婦に引き取られて別の町で暮らし始めます。その後大学生になり、養母を亡くし、恋人との間にできた子供を産むため大学を辞め...と、運命は彼女を翻弄します。
一方、息子は助けられたものの片手を失い、母親は死にものぐるいで働いて息子を育てます。しかし、彼女の心にはいつも娘を見殺しにしたことへの後悔の念がうずまいていました。やがて、中国南方へ行って事業に成功した息子は妻子を連れて戻り、母に楽をさせようとするのですが、母親はかたくなに家を離れようとしません。
そんな時四川大地震が起こり、それをきっかけに3人は再会を果たします...。
映画は、母、息子、娘、3人の生き方を丹念に描いていきます。パニック映画的な地震のシーンは最初のごく少しだけで、あとはその地震が影響を及ぼした人間の生きざまを、じっくりと見せていくのです。ですので、家族愛を描く抒情大作と言ってもいいかも知れません。
とはいえ、再会シーンもお涙頂戴的に盛り上げるのではなく、フォン・シャオガン監督は、互いを赦し合いながらもどこかわだかまりが溶けない姿、それゆえにかえって人間らしい姿を冷静に描写していきます。『戦場のレクイエム』 (2009)を見た時も思ったのですが、フォン・シャオガン監督はステレオタイプの中国映画的表現を嫌悪しているようで、いい意味で観客の思い込みを裏切ってくれます。登場人物がみな屈託を抱えていて、その影の部分が観客にざらりとした思いを味わわせるという、実に曲者の演出です。
俳優もこの監督の意地悪(?)によく応え、特に母親役のシュイ・ファンや養父役のチェン・ダオミンが素晴らしい演技を見せてくれました。シュイ・ファンはフォン・シャオガン監督夫人なので、息がピッタリというのも当たり前かも知れません。チェン・ダオミン(上の写真左側)は時代劇だけでなく、現代劇でも背筋がビシッと通った役がよく似合っていました。
私はこの映画を昨年8月に香港で見たのですが、もうほぼ上映期間が終わるころで観客数は多くなかったものの、香港の人たちが息を呑むようにして画面を見つめていたのが印象的でした。地震パニック映画か、と思って見に行った私も、なるほど、これは中国での興行成績が第1位だったのもうなずける、と思った次第です。ドラマとして見応えのあるこの映画、春休みにぜひご覧になってみて下さい。
(宣伝のアルシネテランさん、資料をありがとうございました)
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今回は香港国際映画祭に行くのを取りやめた方も多かった、と帰国後聞きました。Fanfunfuanさんはどうなさったのですか? 毎年あちらでお会いしていたので、今回はちょっと寂しかったです。