現在評判になりつつあるインド映画『カルキ2898-AD』。我々ライターはひとあし先にオンライン試写させていただけるのですが、先日、2回目の試写を拝見しました。初めて見た時は何だか度肝を抜かれることばかりで、いろんな内容が理解を超え、「あれはどういう意味?」「これは、何を象徴しているの?」とか考えている間にストーリーが進んでいき、頭の中がこんがらがった毛糸状態でエンドロールを迎えてしまいました。今回2回目を見せていただいたことで、ようやくいろんなころが繋がってきた次第です。で、感じたのは、「見どころが多すぎる!」ということ。その多すぎる見どころを3つにしぼり、本日はこの映画の交通整理を自分の頭の中でしてみたいと思います。本作に関して、白紙の状態でご覧になりたい方は、この記事をスキップして下さいね。まずは映画のデータと簡単なストーリーをどうぞ。
『カルキ 2898-AD』 公式サイト
2024年/インド/テルグ語/字幕翻訳:藤井美佳/字幕監修:山田桂子/原題:Kalki 2898 AD
監督:ナーグ・アシュウィン
出演:プラバース、ディーピカー・パードゥコーン、アミターブ・バッチャン
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
※2025年1月3日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
©2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
物語は、古代叙事詩「マハーバーラタ」のラスト近くから始まります。「呪われたアシュヴァッターマン」の章で描かれたシーンで、アシュヴァッターマン、あるいはアシュヴァッターマーは、「マハーバーラタ」の主人公たち、パーンドゥの五王子とカウラヴァの百王子の武術の師として名高いドローナの息子です。アシュヴァッターマンとは「馬(アシュヴァ)のいななき」という意味だそうで、生まれた時に大声で泣き、それが馬のいななきのように聞こえたのでその名がついたとか。アシュヴァッターマンは勇猛果敢で知られ、父ドローナに次ぐ軍師であり、たぐいまれな勇士として描かれており、パーンドゥの五王子の1人アルジュナに匹敵する者として登場します。アルジュナもアシュヴァッターマンも「ブラフマーストラ(ブラフマ・アストラ)」という空飛ぶ武器を所持し、この武器による2人の戦いですべての生き物が殺されそうになるのですが、クリシュナに諭され、アルジュナは武器を収めます。ところがアシュヴァッターマンは武器の収め方を知らず、方向転換させてパーンドゥの女性の子宮を狙うことに。それをクリシュナが我が身を呈して阻止するのですが、激怒したクリシュナはアシュヴァッターマンに恐ろしい呪いをかけます。「死さえもお前を3千年間避けるだろう。その間にお前の傷は膿みただれ、お前は人々に嫌われながらこの地上をさまよい歩き、苦しむことになる」。そしてクリシュナはアシュヴァッターマンの額にあった宝玉を奪うのですが、『カルキ』ではクリシュナは、「次はカリ・ユガ(末世)で私は別の姿で転生する。お前はその子宮を守れ」と言い置いて去って行きます。これが、タイトルが出るまでの間に描かれる「マハーバーラタ」からの物語です。
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そして、6千年後、2898ADのクルクシェートラから現実のストーリーが始まるのですが、ここからはまず、配給会社から提供された簡単なストーリーを書いておきます。「世界は荒廃し、地上最後の都市カーシーは、200歳の支配者スプリーム・ヤスキンと、空に浮かぶ巨大要塞コンプレックスに支配されていた。しかし、奴隷のスマティが宇宙の悪を滅ぼす“運命の子”を身ごもったことで、コンプレックスと反乱軍の大戦争の火ぶたが切られる!そこへ一匹狼の賞金稼ぎバイラヴァが加わり、過去の宿命が動き出す!!果たして勝利を得るのは誰なのか?そしてスマティは身ごもった救世主“カルキ”を、この世界に送り出すことができるのか?」もう少し詳しく説明すると、最後に残った都市カーシー(これはベナレスの古名でもあります)には、上記のように200歳の支配者スプリーム・ヤスキン(カマル・ハーサン)と、彼が住む逆さまの形で空に浮かぶ巨大要塞「コンプレックス」があり、コンプレックスの中は天国の様相を呈している反面、地上は荒廃し、争いと貧困が蔓延していました。そんな中、賞金稼ぎのバイラヴァ(プラバース)は、家主(ブラフマナンダム)と掛け合い漫才のような日常を送りながら、コンプレックスの中に住むことを夢見ています。しかし、そのコンプレックスの中では、司令官マナス(シャッショト・チャテルジー)らが、スマティ(ディーピカー・パードゥコーン)ら女奴隷たちを使って、ある計画を推し進めていました。さらに、妊娠したスマティを巡り、アシュヴァッターマン(アミターブ・バッチャン)やヤスキンに反旗をひるがえす反乱軍であるシャンバラの女性指導者マリアム(ショーバナ)らが登場し、壮大なサーガが描かれていきます...。
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とまあ、こんな話なのですが(全然「簡単なストーリー」でなくてスミマセン)、おそらく一度ご覧になっただけでは私のように理解が難しいのでは、あるいは、ハリウッド映画のまがい物、とかいう評価で終わってしまうのでは、と思います。しかしながら、これがなかなかよく考えてあるストーリーで、「マハーバーラタ」に端を発したように見せかけながら、そしてハリウッド映画の『スターウォーズ』シリーズや『DUNE/デューン 砂の惑星』シリーズみたいに見せかけながら、狙いは違うところにあるのでは、と思います。それにしても見どころが多い作品で、おそらく初見の時はその見どころに絡め取られて、全体像が見えないかも知れません。というわけで、今回はその見どころを3つばかり、書いておくことにします。
[見どころ:その①]プラバースが楽しすぎる!
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賞金稼ぎのバイラヴァ役のプラバースですが、西部劇なら「WANTED」のお尋ね者を捕らえてシェリフに差し出せば、ビラに書いてある賞金が懐に、というわけであるものの、この世紀末の国でどんな賞金首がいるの? とついツッコミたくなってしまいます。そのあたりは実にインド的に処理されていて(笑)、西部劇やマカロニ・ウェスタン作品が作り上げた「賞金稼ぎ」のイメージに乗っかっただけ、ということのようです。能天気でお金にもいいかげん、でも腕っ節は強くて女にもモテる、という今回のプラバースの役柄は、昔の『ミルチ』の冒頭とか、『SAAHO/サーホー』の主人公にもチラと垣間見えたキャラですが、今回はそれが全開してます。全開しすぎて、プラバースの真面目さや重厚さとのギャップが感じられたりするものの、見ていてとっても楽しいことは保証します。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、バイラヴァの乗り物が「ブッジ」という未来カーで、アレクサではありませんがしゃべります。その掛け合いも今回の見どころの一つで、映画の公開前に『Bujji & Bhairava』というアニメもできて人気になりました。その予告編を付けておきます。
Bujji & Bhairava - Telugu Trailer | Kalki 2898 AD | Prabhas | Brahmanandam | Nag Ashwin
[見どころ:その②]カメオ出演が豪華すぎる!
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最近のインド映画は、主演者たちの演技よりもカメオ出演の役者たちの人気で映画をヒットに導こう、としているふしが見受けられます。その一番の進化形が本作で、出るわ出るわ、有名どころがいっぱい登場します。先ほど挙げたコメディアンのブラフマナンダムもカメオ出演に近いのですが、トンデモ級の大物がいっぱい出て来ます。名前をずらずらと挙げてしまおうかと思いましたが、皆さんの驚く顔が見たいので、伏せておきますね。とはいえ、英語版Wikiを見たりすると、全員わかってしまうのですが。声の出演&カメオだけ言っておくと、ブッジの声はキールティ・スレーシュ、『カルキ~』の監督ナーグ・アシュウィン(上写真)の前作『Mahanati』(2018年/タミル語版が『伝説の女優 サーヴィトリ』という題でIMWで上映済み)では主役を務めました。あと、南インドで一番渋い美声のアルジュン・ダースが、クリシュナクマール・バーラスブラマニヤムが演じるクリシュナ神の声を吹き替えています。
[見どころ:その③]CGがえげつないぐらいすごすぎる!
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CGの巧みさを今さら言うのも野暮ですが、冒頭の「マハーバーラタ」のシーンでは、アシュヴァッターマンに分しているのが若き日のアミターブ・バッチャン、と見えるようにCGで作ってあるのを皮切りに、もう本当に何でもできてしまうCGに違和感すら覚えるのが本作です。ディーピカー・パードゥコーンの妊婦姿もちょっと脂汗がでそうなぐらいリアルで、この役をやったから、結婚6年目にして赤ちゃんが誕生したのだろうか(こんなこと書くと、シャー・ルク・カーンかアトリー監督から、「いやいや、妊婦役は『JAWAN/ジャワーン』の方が先でしょうが」とクレームが入りそうですね)、などと思うぐらいインパクトがあります。また、アミターブ・バッチャン演じる年老いた(何せ、6千30歳ぐらい?)アシュヴァッターマンも、背がすごく高いという設定なのですが、これもCGでうまく処理してあります。さらに、カマル・ハーサンのヤスキンも...と、まあとにかくご覧下さい。CGの勝利ですね。
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12月18日のプレミア上映で、ご覧になった皆さんからのレスポンスが楽しみですが、残念ながらチケットをゲットできなかった皆様(私もその1人です)は、1月3日(金)からの公開を首を長くして待っていて下さいね。最後に、お茶目なプラバース付き予告編を付けておきます。
大ヒットSF超大作『カルキ 2898 AD』:プラバース初登場シーン(IMAX版)