以前の記事に、ムンバイで映画ポスターを手に入れることを書きました。そういうことをやり始めたのは、ここ10年ぐらいです。
それまでも、いろんな形で映画グッズは手に入れていました。街の屋台で売っているポストカードやB4判、A3判などのスターポスターは、毎回結構たくさん買っていました。ポストカードは今ではあまり見かけませんが、スターポスターは相変わらず売られています。
それから、1990年代の初めまでは、各映画のプレスシートの古いもの、使い古されたロビーカード、色あせた大判のスチールなどが街頭で売られていました。たとえば、ムンバイのメトロという映画館のそばや、グラントロードのミネルヴァという映画館の脇などに、スチールのボックスを1つ置いたおじさんがいて、そのボックスからいろいろ取り出して売ってくれたりしたのです。でも、インドの経済発展と共にそういう従来型の映画館は姿を消し、おじさんとボックスも姿を消してしまいました。
映画ポスター屋を発見したのは、グラントロードをうろついていた時でした。グラントロードは駅の名前でもありますが、『サラーム・ボンベイ!』 (1988)の舞台となった娼婦街がある地区です。ここには昔から映画館が集まっており、私がインドに行き始めた1970年代後半は前述のミネルヴァのほか、アプサラー、ノヴェルティ、ナーズなど10館以上の映画館があって賑わっていました。その映画館がだんだん姿を消し始めた頃、道ばたで映画のポスターを売っているのを見つけたのです。さらに、秋葉原のラジオ会館のような建物の中にポスター屋があることを教えてもらい、毎年そこに通ってはヒット作のポスターを手に入れるようになりました。
ところが、そのポスター屋は数年前にどこかに姿を消してしまい、困っていたところ、「映画館ナーズの近くにあるよ」と教えてくれる人が。そうやって見つけたのが、ファクリー・トレーダースというポスター屋さんでした。ナーズの裏手にあたる小路に小さな小屋があるのですが、その小屋に山のようにポスターを積み上げて売っていたのが、ファクルッディーンというちょっと変わったおじさんでした。
<その頃小屋の前でお茶を配達にきてくれた少年をパチリ。2006年>
3、4年、その小屋に通い、昨年も行ったところ、小屋は別のお店になっていました。「ポスター屋さんは?」と聞くと「知らん」という返事。ファクルッディーンさんからは名刺をもらっていたので、そこの携帯番号にかけると彼が出て、「迎えに行く」とのこと。そうして、入り組んだ路地をあちこち曲がり、やっと現在の店舗に連れ行ってもらったのでした。
そこは、ドリームランドという映画館の横の道を入り、メインの道からさらに引っ込んだ裏町でした。これが新しい店舗です。
見ると、ドブを挟んだ向かい側にも同じようなポスター屋がありました。
こっちの方が品揃えが良さそうだったのですが、これまでのおつき合いからファクルッディーンさんのお店で『3バカに乾杯!』や『マイ・ネーム・イズ・ハーン』のポスターなどを買うことに。希望していたタイトルの3分の2ぐらいしか揃いませんでしたが、それはいつものこと。「マダム、前もって電話してくれなくちゃ」と彼は言うのですが、確かに彼のところにはよく電話がかかってきます。それで注文を受け、配達もしているようでした。
彼のところに連絡してくるのは、一つにはビデオパーラーと呼ばれるモグリ上映館の持ち主たち。都会以外では映画館のない所も多く、料金を取るDVD上映を勝手にやって儲けている人たちがいるのですが、その上映施設に飾るため、作品のポスターを買おうとしているのでした。正規の上映なら配給会社に言えばポスター等は自動的にもらえるのですが、モグリなのでこういう所から手に入れるのです。
ある時などは、緊張した声で対応しているのでどうしたのかと思ったら、「バーイー(ヤクザの親分)がセクシー・ポスターを10枚ぐらい届けろってさ」とのこと。インドは検閲が厳しく、特にセックス・シーンはほぼ皆無なのですが、それでもA指定、つまり成人指定映画にはちょっとヤバいシーンがあったりします。そういう映画のポスターはヤバいシーンを強調して、扇情的な絵柄に仕立て上げられているので、バーイーはポルノ代わりに(?)そういうポスターをご所望になったのでした。
このポスター屋のある場所は、あまり行くのをオススメできません。特に、女性や現地の言葉のできない方はいらっしゃらない方が無難ですが、それでも、という方のために住所を書いておきます。ファクルッディーンさんちの向かいにある方の店の名前と住所です。
Gandhi Film: 40/41, Simplex Building, Pawwala Street, Opp. Vijay Chambers, Near Dreamland Cinema, Grant Road, Mumbai-400 004
グラントロードにはこのほか、駅近くにはこんなにも豊富な品揃えのVCD屋さんがあったり、そばのガード下にはスターポスターを売る屋台が店を出していたり。表通りは、スリやすれ違いざまの痴漢などに用心すれば決して怖いところではありませんので、一度いらしてみて下さい。