ムンバイでの映画ライフは、ちょっと寂しいものでした。チェンナイのレポートに書いたように、ヒンディー語の公開作品をチェンナイでほとんど見てしまったため、見る映画がないのです。ていうか、昔に比べて同時期の上映作品本数がぐっと減ってしまったように思います。5年ほど前まではそれでも同時期に10本ぐらい上映されていて、新作5本に、ヒットしているロングラン作品が3本、ちょっと変わった作品が2本とかいう風に上映されていたのですが、今年は情けないぐらい見る作品がありません。『火の道(Agneepath)』も日本を出る時はヒット中というネット情報だったので、まだ上映しているかと思ったら、影も形もなくてがっかりでした。
そんな中で見たのは、チェンナイで見落としていたヒンディー語映画『わずかな間の月光(Chaar Din Ki Chandni)』。ホテルの隣と言っていい映画館リバティーで見ました。前にも書いたとおり、古い、由緒ある映画館なのですが、2階バルコニー席のお客は10人足らず。2階席はドレスサークルが130ルピー(約220円)でバルコニー席が120ルピー(約200円)、1階席は後ろが70ルピー(約120円)で前の方が50ルピー(約90円)と、シネコンに比べると半額以下です。なのにこんな入りでは映画館の維持も大変だろうな、と思ったのですが、中はとてもきれいにメンテナンスがされていて、感心してしまいました。このリバティーの建物、政府が買い取って映画博物館にでもすればいいのに、と思ってしまいます。
『わずかな間の月光』は、チャーンドニー(月光)という名前のヒロイン(クルラージ・コウル・ランドワー)が、ラージャスターンのロイヤル・ファミリーの4男だか5男だかとロンドンで恋仲になったものの、彼女を自宅に連れて行った彼(トゥシャール・カプール)は、父親を恐れて彼女を取材に来たジャーナリストとして紹介してしまう、という、ウソから生じるドタバタを描いたコメディです。彼女がパンジャーブ出身の庶民の娘ということで結婚が許されないかも、と思った彼が苦し紛れのウソをつくのですが、こういう優柔不断な男に対し、ヒロインは反対にしっかり者で、なぜか銃の腕前もすごかったりします。最後のアクション・シーンはそのヒロインの腕前が生かされたりして楽しかったものの、もう少し脚本がよくて、ヒロインが魅力的だったらなあ、とかなり残念な映画でした。
ほかに何か見る映画がないかな、と探していたら、目に入ったのがボージプリー語映画『ドゥルガー(Durga)』。ここ数年、ボージプリー語映画が人気を博している、とあちこちで書いているのに、まだボージプリー語の映画を見たことがなかったので、よしっ!とばかり見に行くことにしました。上映しているのは、グラント・ロードのスーパー・プラザという映画館。場所がわからなくてフロントに聞いたのですが、フロントの若いお兄さんはネットで住所を調べてくれただけ。「この映画館はよした方がいいですよ」とは言わなかったので、普通の映画館かも、と思って行ったら、やっぱり~なのでした。
何がやっぱり~、かと言うと、まず映画館が古い。古いだけだと問題ないのですが、メンテを全くやってなくて、ボロいのです。ボロい映画館で怖いのは、南京虫、ノミ、ダニの出現。案の定、サリーから出ている脇腹をノミにボコボコかまれました。南京虫よりはマシだけど、かゆいよ~。
次に、客層にも問題あり。客は男ばかりで、家族連れやカップル、女性はゼロなのです。昼間だと、近くの夜のお仕事のお姉さんたちが来ているのかも知れませんが、夕方の回だったので見事に私1人だけ。場内は3分ぐらいの入りでみんな人とは離れて座るのですが、暗くなるとこちらの年がわからなくなるため、女とわかると危ないのです。案の定遅れて入ってきたおじさんが、端の席に座っていた私の前を通ると見せかけて隣に座ろうとしたので、「あっ、私の荷物が!」と叫んで突き飛ばす(笑)羽目に。インターバルの時電気がついたらこのおじさん、内心舌打ちするだろうなー、と思いつつ、前後にも注意をせねばならず、疲れます。幸い、前後に座ろうとする人はいなくて、あとはノミとの戦いになりました。
肝心の映画は、政治家の1人息子と恋仲になったドゥルガーという娘が、リキシャ引きの娘だというので息子の留学中に政治家からひどい目にあわされ、殺人を犯して牢獄に。その後特赦で釈放され、警察官の試験を受けて合格するものの、政治家からの迫害はやまず、最後には留学から戻ってきた恋人と共にひどいことをした政治家たちに復讐する、というストーリーでした。見て初めてわかったのですが、ヒロインがものすごーく肉感的で、それを強調するシーンが多いほか、途中でノウタンキー・ソングというか、お色気たっぷりの踊り子が登場する歌が何回も入るのです。踊り子の歌のパートは、歌詞を歌っている部分はそれでもギリギリ許せる衣装なのですが、間奏部分では瞬間的にさらに露出度の高い衣装になるなど、インドの基準だと日本のロマンポルノぐらいの興奮度を与えてくれる作品なのでした。
それと、暴力シーンもてんこ盛り。暴力シーンというかアクション・シーンに応えられる力をヒーロー、ヒロイン共に持っていて、中でも回し蹴りは2人とも見事でした。ヒロインもホットパンツ(ふるっ!)姿でムチムチの太ももを見せながら、タフなアクション・シーンをこなします。お顔がいまいちのヒーロー、ヒロインだったのですが、セックスとバイオレンスが人気の秘密なのかー、と納得した次第です。あと、歌と踊りのシーンも、これでもか、というぐらい衣装をとっかえひっかえして撮ってあり、チープながらもサービス精神は旺盛です。1980年代のB級ボリウッド映画を思わせる作りで、ムンバイに来ている地方からの出稼ぎの人や、低所得者層には、こういう濃~い映画が気分的にぴったりなのかも知れません。
それから、何と韓国映画も見ました。昨年度の韓国映画興収第6位の『クイック!!』です。まさか、イ・ミンギがヒンディー語をしゃべるのを聞こうとは思いませんでしたね~。そう、ヒンディー語吹き替え版での上映で、ご丁寧にラストのメイキング・シーンまで、ヒンディー語にいちいち吹き替えてありました。
この映画を見たのも古い映画館で、D.N.ロードの北端にあるニュー・エンパイアという映画館。ここもメンテがしっかりとされているので、虫さんはいません。ただ、冷房の効きが悪いのか、客が座ったところの扇風機がうなり出し、音と風の両方がうるさくてたまりません。結局映画が始まったあとで、扇風機の動いてない場所に逃げました。
映画はちゃんと途中でインターバルも入り、お客さんも結構楽しんでいたようで、笑い声や拍手も起きていました。韓国映画のアクションもの、インドでの公開が増えるかも知れません。ただ、観客は少なくて、130ルピー(約220円)のバルコニーはほんの数人。1階は後ろのほうが90ルピー(約150円)、前が70ルピー(約120円)でしたが、こちらもあまり入っていなかった模様。ここもいつまで持つかなあ...。というわけで、こっそりトイレの化粧室の写真を撮ってきました。1950・60年代とかには、美しいドレスをまとった女性たちがここでお化粧を直したのでしょうね。ムンバイでの映画鑑賞は、はからずもレトロなシネマ・シリーズになったのでした。
それから、「クール・ジャパン・フェスティバル」を覗きに行ったついでに、フェニックス・モールのPVRというシネコンでも1本見てきました。今回はマラーティー語の映画で『学校(Shala)』。1970年代のインディラー・ガーンディー政権時代に設定してあり、片田舎の中学生の主人公が、同級生に恋したり、悪ガキ仲間と先生をからかったり、キャンプに行ったりという学校ライフが描かれます。マラーティー語がよくわからず、政治問題もからめてあったものの、いまいち理解不能。インド国際映画祭に出た作品だったようで、娯楽税が免除されていて、135ルピー(約230円)と料金が安くなっていました。
あと、映画祭の時はそのままの上映だったと思うのですが、同級生の悪ガキがしゃべる時にやたらと「ピー!」音が入っていました。何かガーリー(罵り言葉)を言ってたのね。ヒンディー語とほとんど同じ文字を使いながらも、ヒンディー語とだいぶ違うマラーティー語については、大阪大学(旧大阪外国語大学)のサイトに楽しく学べるeラーニングのコースがあるので、帰国後ご紹介しますね。
映画館から外に出たら、「クール・ジャパン・フェスティバル」の中央舞台では舞妓さんの踊りが。暑い中、大変ですねー。演目はやっぱり、「♪春は花、いざ見にごんせ、東山♪」の「京の四季」(だっけ? 昔習ったけど、一部節が変わっていました)と、「♪~祇園恋しや、だらりの帯よ♪」の「祇園小唄」。そうそう、この最後のサビの部分は、後ろを向いてだらりの帯に手をやるんでしたね~。そのしぐさもかわいい、舞妓はぁぁぁん!でした。
主催者の方に聞くと、初日も何千人という人が来ていたとかで、2日目のこの日も多くの入場者でにぎわっていました。若者の来場も多く、成功だったのはないでしょうか。関係者の皆様、ご苦労様でした!