TIFFは昨日で店じまい、有楽町はFILMeX一色となりました。本日は祝日だったため、観客の入りもよく、私が見た1回目と2回目はほぼ満席でした。今日見た2本『石門』(2022)と『同じ下着を着る2人の女(原題)』(2021)はいずれも上映時間が140分超という、インド映画並み?の長尺作品で、昨日見た『Next Sohee』(2022)も138分だったことから、長尺シリーズ兼女性監督シリーズ(ただし『石門』は男女ペア監督作)としてまとめてご紹介してしまおうと思います。
『石門』
2022年/日本/148分/英語題:Stonewalling
監督:ホワン・ジー(黃驥)&大塚竜治 ( HUANG Ji & OTSUKA Ryuji )
出演:ヤオ・ホングイ、ホアン・シャオション、シャオ・ジーロン
20歳の女子大生リンは、航空会社の客室乗務員になるため、訓練学校に通っています。英語に堪能なボーイフレンドとも付き合っていて、英語学校の内輪のパーティーに連れて行ってもらったりしていますが、そんな時乳房に痛みを感じ、自分が妊娠していると気づきました。その頃、診療所を経営しているリンの両親は死産した患者からの医療訴訟で訴えられ、困っていました。リンは自分が妊娠していることから、産んだ子供を相手に提供することを申し出ます。妊娠期間は順調に過ぎたものの、出産が近づくと新型コロナのパンデミックが起きて、予想外の展開になってしまいます...。
リンの社会との関わり――親を助けるために店頭呼び込みモデルなどのバイトをしたりする姿や、CA養成学校での訓練をつぶさに見せたりするシーンは、興味深いもののなかなかリンのキャラクターが見えてこず、ちょっともどかしい前半でした。また、中盤以降は、両親が経営する診療所の様々な姿が登場し、何だか50年ぐらい前に日本ではやった催眠商法みたいな雰囲気が濃厚で、その手の話になっていくのかと思ったもののそうではなく...と、捉えどころがなかなか見つからないまま、作品が終わってしまった、というのが私の感想です。私の好みとしては、もう少し刈り込んでほしかった、というところ。
ただ、ホアン・ジー監督の第1作『卵と石』(2012)で貧しい村の少女として初めてスクリーンに姿を見せた主演女優ヤオ・ホングイ(姚紅貴)が、こんなにキレイなお姉さんになるなんて...と、その変貌ぶりには目を見張りました。あとのQ&Aでは、リンの父母に扮したのはホアン・ジー監督の実際のご両親だった、というお話も出て、監督お二人の巧みな演出と編集には脱帽。監督お二人のお子さん、ドキュメンタリー映画では赤ん坊で出演していたお嬢さんも小学生の姿で会場に顔を見せていて、大塚=黄ファミリー映画はまだまだ続く、という感じです。
『同じ下着を着るふたりの女(原題)』
2021/韓国/140分/英語題:The Apartment with Two Women/配給:Foggy
監督:キム・セイン ( KIM Se-in )
出演:イム・ジホ、ヤン・マルボク、チョン・ボラム
スギョン(ヤン・マルボク)は中年のシングルマザー。20代の娘イジョン(イム・ジホ)はすでに就職しており、天真爛漫と言えば聞こえがいいですが、自分勝手ですぐに怒鳴っては暴力をふるう母スギョンにうんざりしていました。スギョンにはシングルファーザーのボーイフレンドがおり、その男を連れ込んでベッドインした痕跡を見せられるなどして、イジョンはますます母への憎しみをつのらせます。そんな時、車で買い物に出かけた先で親子げんかをしてしまい、歩き始めたイジョンに母が車をぶつけて大けがをさせてしまう事件が起きます。やっと回復して、松葉杖をつきながら職場復帰したイジョンでしたが、職場では上司のパワハラに遭い、同じように上司からこき使われている同僚(チョン・ボラム)に同情と友情を感じていきますが...。
母親スギョンのキャラが強烈で、ものすごいインパクトを与えてくれます。それに対し、若い2人の女性は陰々鬱々としていて、その対比が絶妙です。キム・セイン監督のこれが長編デビュー作とのことですが、見ているこちらを感情マックスと感情どよ~んとの間を行き来させてくれて、とても面白い体験をさせてくれます。スギョン役のヤン・マルボクはどこかで見た顔なので調べてみると、『国家が破産する日』(2018)や『イカゲーム』(2021)に出演していました。老年の入り口にいる中年、という感じなのですが、贅肉のない小柄な体は美しく、コケットリー全開で微笑まれたりすると、男はコロッと参るのだろうな、このおばさんに、という感じ。後半にアッと驚く姿でソウルの街を歩くシーンが出てくるのですが、そのシーンでも堂々としていて、あっぱれ、という思いで見てしまいました。すでに配給さんがついているようなので、来年公開になるのでは、と思います。お楽しみに。予告編、というには短すぎる動画ですが、クリップを付けておきます。
『同じ下着を着るふたりの女(原題) The Apartment with Two Women』予告編 / 第23回東京フィルメックス
『Next Sohee(英題)』
2022/韓国/138分/英語題:Next Sohee/配給:株式会社ライツキューブ
監督:チョン・ジュリ ( JUNG July )
出演:ペ・ドゥナ、キム・シウン
ソヒ(キム・シウン)は頑張り屋の高校生。ダンスのレッスンを続けていて、不得意な箇所は1人で何度もやり直すガッツのある少女です。高校では、卒業前の実習として企業にインターンに入るのが当たり前になっており、その実績が高校の優秀さを証明することにもなるため、実習担当の教師はソヒをあるコールセンターでの実習に行かせます。張り切って職場に行ったソヒでしたが、その現実はソヒを失望させることばかりでした。顧客への裏切りに等しい、脱退希望顧客への執拗な翻意強制、実習生への成果報酬がなんだかんだと口実を設けられて支払われない現状、ハッパをかける一方の上司等々、ソヒはついに不満を爆発させますが...。
高校生の職場実習は実際に韓国で行われているようで、本作は実際に起きた10代の若者の自殺事件から着想を得た作品だとか。見ていて、東南アジアなどから日本に連れてこられる、実習生という名の安価な労働力として働かされる人たちのことを思い出してしまいました。プロバイダーにサービスを提供するコールセンターが舞台となっていますが、細かくリサーチされたのであろうこの職場の描写は、寒気を憶えるほどです。ぺ・ドゥナは後半というか全体の3分の2が終わったところで登場し、刑事として事件の謎を解いていく役で、さすがの貫禄です。ですが、それまでの主人公ソヒを演じるキム・シウンはペ・ドゥナ以上に印象に残る存在となりました。チョン・ジュリ監督の長編第2作で、監督の第1作はやはりフィルメックスで『扉の少女』という仮題で上映された『私の少女』(2014)。『Next Sohee』も配給さんが付いていますので、来年公開になると思います。ぜひ、お見逃しなく。作品の映像クリップを付けておきます。
『Next Sohee(英題)』クリップ映像 / 第23回東京フィルメックス