第35回東京国際映画祭が、本日の各賞の発表で幕を閉じました。授賞結果は次の通りです。
<コンペティション部門>
✿東京グランプリ/東京都知事賞:『ザ・ビースト』(ロドリゴ・ソロゴイェン監督/スペイン、フランス)
© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E, Le pacte S.A.S.
✿審査員特別賞:『第三次世界大戦』(ホウマン・セイエディ監督/イラン)
©Houman Seyedi.
✿最優秀監督賞:ロドリゴ・ソロゴイェン監督『ザ・ビースト』
✿最優秀女優賞:アリン・クーペンヘイム『1976』(マヌエラ・マルテッリ監督/チリ、アルゼンチン、カタール)
© Cinestación.
✿最優秀男優賞:ドゥニ・メノーシェ『ザ・ビースト』
✿最優秀芸術貢献賞:『孔雀の嘆き』(サンジーワ・プシュパクマーラ監督/スリランカ、イタリア)
✿観客賞:『窓辺にて』(今泉力哉監督/日本)
©2022 "by the window " Film Partners
<アジアの未来部門作品賞>
✿『蝶の命は一日限り』(モハッマドレザ・ワタンデュースト監督/イラン)
<Amazon Prime Video テイクワン賞>
該当作品なし
『ザ・ビースト』、すごいですねー。『第三次世界大戦』は最優秀男優賞ではなかったのですが、審査員特別賞を獲得、<アジアの未来部門>の『蝶の命は一日限り』と併せて、イラン映画強し、を見せつけました。『蝶の命は一日限り』は、モハッマドレザ・ワタンデュースト監督に率直に「ここはおかしい」なんて言ってしまった私でしたが、これで監督も機嫌を直されたことでしょう。スリランカのサンジーワ・プシュパクマーラ監督、よかったですね。また、次の作品を待っています。
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そして、東京フィルメックス(公式サイト)の方はいよいよ佳境に入っています。ちょっと変則的ですが、これから何か見たいとお考えの方のために、2本の作品をご紹介しておきましょう。
『ソウルに帰る』
2022/ドイツ、フランス、ベルギー、カタール/2022/116分/英語題:/Return to Soul
監督:ダヴィ・シュー ( Davy CHOU )
出演:パク・ジミン、オ・ガンロク、グカ・ハン、キム・スンユン
25歳の女の子フレディが、初めてソウルに降り立って、あるゲストハウスにやってきます。顔は韓国人ながらフランス国籍のフレディはフランス語で話しかけ、ゲストハウスのフロント係テナもフランス語で応対します。テナは母がフランス語の先生なので、結構流ちょうにしゃべれるのです。仲良くなった2人は、テナのボーイフレンドでこれまたフランス語が話せるドンワンと共に飲み屋に行ったりしますが、フレディはトンデモ女子で、付き合うのが大変。フレディの話を聞いてみると、赤ん坊の時に施設に預けられ、フランス人の夫婦の養子としてフランスに渡ったのだとか。今回は日本に行くはずが、台風のせいでフライトが変更になり、たまたまソウルに来たので2週間の休暇をここで過ごすことにしたと言います。「せっかく来たのなら両親を捜してみては? ハモンドという養子縁組を世話している団体があるわよ」と教えられ、フレディが行ってみると、1枚だけ持っていた赤ん坊時代の顔写真の裏にハモンドの登録番号が書いてあり、父親も母親も判明してしまいます。ハモンドが連絡を取ってくれて、父親は会うのを了承しましたが、養子に出した後離婚した母親からは返事なし。父親はクンサンに住んでいる、というので、テナが付き添って会いに行きますが...。
すごくドライな養子縁組後日譚で、全身これフランス人のフレディと、韓国的「情」の世界に住む父やその家族とは、あまりにも違いすぎ、という描写に、見ている方も居心地が悪くなってくる面白い作品です。フレディはとてもチャーミングでありながら、どこか変で、その変なところが後半になって出てきます。後半からラストに至る描写は、今ひとつわかりにくかったものの、歯ごたえのある作品でした。父親役に、ベテラン俳優のオ・ガンノクが扮していて、父親の妹役の女優もどこかで見た気が。監督のダヴィ・シューや、彼の友人たちのエピソードが元になっているようです。ひと味違う韓国が舞台の作品をご覧になりたい方は、11月4日(金)の上映にぜひどうぞ。
『ナナ』
2022/インドネシア/103分/英語題:Before, Now & Then
監督:カミラ・アンディニ( Kamila ANDINI )
出演:ハッピー・サルマ、ラウラ・バスキ、アルスウエンディ・ベニン・スワラ
インドネシアが政治的混乱にあった1960年前後、ナナは赤ん坊を連れて姉と共に森の中を逃げていました。反乱軍の指導者と強引に結婚させられそうになったためで、父が2人を逃がしたのです。ナナの夫は反乱軍に連行され、父もおそらく殺されている...。そんな中でナナは裕福な農園主ダルガと出会い、彼によって救われます。その後ダルガとの間にも子供ができ、大きなお屋敷の奥様として、農園管理もしながら大勢の召使いを使って暮らす日々。首都ジャカルタからは、スカルノ大統領失脚のニュースなどが伝わりますが、ここでは上流婦人たちのお茶の会や、夫が伝統芸能の舞を披露したりする催しなどが行われ、優雅な毎日が続いていました。しかしながら、ナナは時として悪夢に襲われ、また現実では、夫が市場の肉屋を経営する女性イノと関係を持っていることもわかり、ナナを苦しめることになります...。
ガリン・ヌグロホ監督の娘で、デビュー作『鏡は嘘をつかない』(2011)でデビューして以降着実に作品を作り続けているカミラ・アンディニ監督の最新作。半世紀ほど前を舞台にした作品で、当時の服装や装身具、家具などを綿密に再現しているように思われます。こういう作品が作ってみたかったんだろうな、と思いますが、ベトナム映画『第三夫人と髪飾り』などの影響もあったのでしょうか。アオザイの向こうを張って、サロン・クバヤ(+スカーフ、これは何と言うのでしょう?)の様々な取り合わせが見られます。レトロな髪飾りやブローチも各種登場、もし日本で公開される時は、パンフレットで詳しく紹介してもらいたいものばかりです。11月6日(日)に上映がありますので、アジアン・ファッションに興味のある方はぜひどうぞ。最後に予告編を付けておきます。
OFFICIAL TRAILER Before, Now & Then (Nana)