アジア映画巡礼

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第40回香港国際映画祭(HKIFF)レポート(1)開幕電影『火鍋英雄』と『樹大招風』

2016-03-25 | 香港映画+中国映画

日本に戻ってきました。パソコンがサクサク動いてくれるので嬉しいです。ここからは香港国際映画祭(HKIFF)で見た作品を、何度かに分けてご紹介しようと思います。


まず、何はさておきご紹介しないといけないのが、開幕電影ことオープニング・フィルムの2作品。最初に上映された中国映画『火鍋英雄』、英語題名『Chongqing Hot Pot』からのご紹介ですが、英語題名に地名が入っているとおり、四川にある重慶市が舞台となっています。重慶の火鍋は川菜火鍋とも言い、唐辛子がいっぱい入った、真っ赤で辛い鍋料理として有名です。その火鍋屋を営む中学時代からの3人の親友、劉波(陳坤/チェン・クン)、王平川(喩恩泰/)、許東(秦昊/チン・ハオ)が主人公です。

一方重慶市は、日中戦争の激化とともに南京が陥落したあと、蒋介石率いる国民党が拠点にした都市としても知られています。今は、中華人民共和国政府直轄市として栄え、高層ビルが建ち並ぶ中をモノレールやロープウェイが走り、また長江の水運の中継地ともなっていますが、日中戦争当時の名残りで、防空壕がまだ残っていたりします。3人が火鍋屋を営んでいるのは、そんなかつての防空壕の入り口だった場所だったのでした。商売がヒマなのをいいことに、王平川が店の奥を掘り進んでみると、何と市中の銀行の金庫室に到達してしまいます。喉から手が出るほど金がほしい3人は、一時は大金を盗むことを考えますが、やはり正直に銀行側に事情を話した方がいいという結論になり、その時思い出したのが、その銀行に勤めている同級生の于小恵(白百何/バイ・バイホー)。


中学時代どうやら彼女は劉波が好きだったようなので、劉波が彼女と連絡を取り、事実を打ち明けるのですが、彼らがそんなまどろっこしいことをしている間にその銀行には強盗団が押し入り、地下道から出て来た3人も強盗事件に巻き込まれていくことに...。

中国映画お得意の3人のバディもの作品、という範疇に入れることができますが、今回の3人は、祖父の面倒を見るやさしい青年でありながら、直情径行型でヤクザとも渡り合う劉波に、恐妻家で調子のいい許東、そしてメガネ男でダサい外見の王平川、という取り合わせ。それぞれいい味が出ていますが、特に重慶訛りの言葉が母語とも言えるチェン・クンがハマリ役です。バイ・バイホーを初めとする脇も役者が揃っており、西遊記のキャラクターお面をつけて強盗に入る一団(あの制服は高校生なのでしょうか?)や、劉波の借金を取り立てようとするヤクザの集団なども、キャラが立っていて作品を引き立ててくれます。


何よりも脚本がうまく、その面白さは同じく重慶を舞台にした『クレイジー・ストーン~翡翠狂騒曲~』(2006)に匹敵。冒頭、雨が降る陰気な天候の中、西遊記のお面をかぶった強盗団が銀行に押し入るシーンから始まり、これが主人公たち?と思わせておいて見事に逆転するなど、最初から観客を引き込んで放しません。脚本も担当した監督の楊慶(ヤン・チン)は1980年重慶生まれで、『夜店』(2009)という作品に続いてこれが監督2作目のようですが、ユーモアもいっぱい盛り込んだ演出は実に巧みで、第2の寧浩(ニン・ハオ)監督か、と思わせられてしまいました。場内からはたびたび笑い声が起き、最後は万雷の拍手でした。


上は、オープニング時にゲストとして登場した、左からチェン・クン、ヤン・チン監督、バイ・バイホー、チン・ハオ、そして喩恩泰。最後に予告編を付けておきます。

《火?英雄》?影?告片 ?坤/白百合/秦昊/2016.4.1


2本目のオープニング作品は、香港映画『樹大招風』。英語題名は『Trivisa(摩擦)』で、3人の盗賊犯が主人公です。


香港返還も間近に迫った頃、季正雄(林家棟/ラム・ガートン)は香港の街角で警察官3人組から職務質問を受け、彼らを銃で撃ち殺して逃亡します。彼は、その人ありと知られた強盗犯の頭的存在だったのでした。ほとぼりが冷めた頃、1997年の初頭香港に戻って来た正雄は、昔の仲間で今は更正した男(姜皓文/フィリップ・キョン)の前に現れ、しばらく同居させてほしいと申し出ます。彼の家にはタイ人の妻と小学生の娘がいたのですが、正雄は娘とも仲良くなり、学校の送り迎えをしたりします。しかしながら、正雄が目を付けていたのは、アパートのすぐ前にある貴金属店でした。それに気付いた男は、出て行ってくれるよう頼みます...。


葉國歓(任賢齊/リッチー・レン)は大規模な貴金属店強盗を仲間とともに実行し、警察との銃撃戦で仲間の1人を失いながらも、他の4人と何とかアジトまで逃げ延びてきます。しかしながら盗んだインゴットや貴金属は買いたたかれ、さらに船で逃げ延びる途中重傷を負っていた仲間も死に、國歓はやりきれない思いに。とそこへ、高速艇が何艘も追いかけてきます。サツか、と身構える彼に、訳知りの仲間が「あれは中国に密輸製品を運ぶ船だよ。電機製品とかを運べば、高く売れるのさ」と教えます。それを見た國歓は、その後まともな商売人として金を稼ぐ道を選び、彼らの会社は香港や台湾の電機製品を中国に運び込んでは、大もうけをするようになります。ところがその一方で、中国側税関当局の要求はどんどん厳しくなっていき、ワイロや接待を強要されるほか、人としての尊厳もなくすような扱いをされる羽目に。國歓の中では、次第に不満が募っていきます....。


この2人の伝説的強盗犯にライバル意識を燃やしていたのが、今は大金持ちになっている卓子強(陳小春/ジョーダン・チャン)。イッちゃってる性格の子強は、どんな相手にもやりたい放題。自分が一番でないと気が済まない男です。それを手下(尹揚明/ビンセント・ワン)がうまく押さえていたのですが、ひょんなことから子強は、正雄や國歓と一緒に仕事をする、と言い出します。SNSで2人の情報提供ができる人間を募り、申し出てきた人間と会っては真偽を確かめることが続きますが、そうこうするうちに、正雄と國歓が子強と組まざるを得ない状況に追い込まれていき、彼の元に電話をかけてきました...。

この3人のパートをそれぞれ、季正雄を許學文(フランク・ホイ)監督、葉國歓を歐文傑(ジェヴォンス・アウ)監督、卓子強を黄偉傑(ヴィッキー・ウォン)監督が演出しています。3人の顔が合うのは最後のシーンだけなので、こういう演出方法も可能になるのですが、トーンが割と揃っているので違和感はまったくありません。外国人には時期的な裏付けがちょっとわかりにくいものの、最後が1997年7月1日らしく、その前にこんなにも中国は香港に影を落としていたのか、というのがちょっと驚きでした。主演の3人はいずれも特徴的な役柄を的確に演じており、特にキレた親分とも言うべき卓子強を演じたジョーダン・チャンが強い印象を残します。この日は彼は出席せず、残念でした。下は、テレビ記者に囲まれているラム・ガートンとリッチー・レンです。


舞台挨拶では、監督たち(真ん中の3人)はしっかりと自分の視点を表明し、今後の香港映画をぜひ応援してほしいと観客に訴えかけていました。そして、「今夜この作品を見て面白いと思ったら、ツイッターやFBにどんどんアップして下さい」とも依頼し、間もなくの公開に備えて宣伝に余念がありませんでした。ちょっと地味な感じの監督たちだったのですが、話を聞くと現代青年なんだな、と思います。来年はぜひ1本立ちして、映画祭に帰ってきて下さいね。


最後に予告編を付けておきます。

《樹大招風》- 正式版預告片 Trivisa - Regular Trailer

 

(場面写真はHKIFF提供)


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